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第8話 亡霊の正体と新たな謎

「あ、鞠片さん! 大丈夫だった?」

「はい。 そんなに怪しまれてはいないと思いますよ」


 教室に戻るなり、慌てた様子で声をかけて来た新田さんに、微笑みを返しつつ応える。


「よかった……さっきはテンパっちゃってゴメンね」

「乗り切ったからオッケーです。 ……それより――」


 申し訳なさそうにする新田さんをなだめつつ、周りに聞こえないよう少し声を落とした。


「(さっきの事をみんなにも話したいんですが、今日集まれませんかね?)」

「(う~ん……ゼミも休みだから……あ、でも、大丈夫だと思うよ。 連絡しとく?)」

「(お願いします。 伊坂さんには別件で連絡入れるんで、他のメンバーに)」


 そう言うと「わかった」と携帯を片手に教室を出て行く新田さん。


 おそらく、電話をかけるために、教室よりも電波状態の良い、廊下の窓側に向かったんだろう。


 彼女を見送ってから、私も携帯を取り出して、電話帳から伊坂さんのメールアドレスを呼び出した。


「(えっと……この後の電話の事を考えて……【この前やろうって言ってた“アレ”を、やりたいんで協力お願いします。 あと、その事で今日の放課後にみんなで集まりたいです。】……こんな感じかな)」


 作り上げたメールの文面を読み直し、誰かに見られても大丈夫と言う事を確認した後、ボタンを押してメールを送信。


「――次は……っと」


 【送信完了】の表示を確認し、今度は別のメモリーを呼び出し、電話をかけた。


『……もしもし?』


 数回の着信の後、スピーカーから声が聞こえてくる。


「あ、ヒロ兄、この前言ってたアレをやろうと思うから、準備をお願いしていい?」

『ん? ……あぁ、アレな。 日程に合わせて準備しておくよ』


 それだけ言うと、ヒロ兄は「じゃあな」と電話を切ってしまった。


 これだけなら、さっきの伊坂さんへのメールも含めて、犯人が盗聴していても、何かのイベントでもやるのかと思わせられるだろう。


 この電話の内容は、ヒロ兄とあらかじめ打ち合わせしていたものだ。

 さすがヒロ兄、こう言う事には頭が回る。


 後は、渡してある“日程”を見て、ヒロ兄が――


「ただいま、連絡完了だよ~。 みんな来るってさ」

「あ、ありがとうございます。 こちらも丁度連絡が終わった所です」


 この後の予定を途中まで頭に浮かべた所で、新田さんが戻って来たため、そこで思考を中断しておく。


 どうせ、後はヒロ兄に任せておくしかないのだから、私がアレコレ考えても大した意味はない。


「ねぇ鞠片さん? 次の授業の課題やってある?」

「やってありますけど?」

「お願い! 写させて!」

「……いいですけど、自分でやった方がいいですよ?」


 戻って来た新田さんと雑談を交わす事数分。

 授業開始を告げる本鈴がなり、程なく先生も入って来て、午後の授業がスタートした。











「この図にあるように、ここの腫瘍を切除する場合、すぐ側、この動脈を傷付けないように注意を――」


 午後一つ目の授業は医術理論。

 当然、医学部を選択している以上、かなり重要な科目の一つだ。


 そのため、受講する生徒も皆真剣に取り組み、教室内に聞こえるのは先生の話す声と、ノートにペンを走らせる音くらい。


 そんな中。


「(今で、40分くらい……)」


 私は、授業内容のノートを取ってはいるものの、教室前方、ホワイトボードの上に取り付けられた時計を5分置きくらいに見てしまう程、授業に集中出来ていなかった。


「(そろそろ、かな)」


 ノートを取る傍ら、隣に置いた鞄から覗くスマホを、横目で確認するが――反応は無し。

 授業は1コマ90分なので、すでに約半分終わっていた。


「(時間割渡してあるし、そろそろ――来た!?)」


 前の時計と携帯電話に、交互に視線を向けていた私の目に、着信を知らせるランプの点滅が飛び込んで来る。


 急いで鞄の中を覗き込むと、スマホのディスプレイには、メール受信を知らせる封筒マークと一緒に、知らないメールアドレスが表示されていた。


「(ヒロ兄じゃ……ない? ……内容は――え……な何コレ)」


 届いたメールの中身を確認するため、机の下に隠すようにしながらスマホを操作し、そして、そこに表示された文章に息が止まりそうになる。


 そこには――


【此ノ地ノ奥深ク 桜並木ニ彩ラレシ古ノ学ビ舎アリ 

 彼ノ地ニ近寄リシ者ハ 我が腕二引カレ 

 暗キ闇ノ中デ 永久ノ迷イ子トナルダロウ】


 ――と、書かれていた。


 “桜並木”に“古の学び舎”……これはたぶん旧校舎の事を表していそう。

 なら、“永久の迷い子”って言うのは、やっぱり神隠しの事?


 なんとか頭を整理しようとしていると、今度は両隣の教室から、ほぼ同時に悲鳴が聞こえて来てビクリとする。


「様子を見てきますので、皆さんはこの教室で待機していてください」


 悲鳴を聞いた先生が、慌てた様子で早口に言って教室を出て行くと、すぐさま新田さんがスマホを片手に駆け寄って来て、その画面をこちらに向けて示した。


「鞠片さん、コレ」

「……新田さんにも来たんですね……これって、やっぱり?」

「……うん。あの事だと思う」


 暗い表情をしながら言った新田さんも、私と同じように思ったらしい。


「新田さんは、送信元のアドレス知ってます?」

「ううん、知らないアドレスだった」


 アドレスはヒロ兄の物じゃなかった。

 そもそも、ヒロ兄は新田さんのメールアドレスを知らないはずだ。


「じゃあ一体誰がこんな……それも私達二人ともに――」

「あ、待って。 これ届いた人他にもいるよ――ねっ?」


 そう言って、新田さんはさっきまで自分が座っていた席の方に向かって声をかけた。


「あぁ……この気持ち悪いメール?」

「なんだ、お前にも届いたの?」

「俺も俺も、何が言いたいんだろうな」


 新田さんの呼びかけを引き金にしたかのように、皆が携帯を確認しては、「自分にも来た」「自分には来てない」と口々に言い始める。


 ……どうやら、教室にいる半分くらいに、例のメールが届いたらしい。


 他のゼミメンバーにも連絡してみようか?


 ――そう思った瞬間。


「あ、ねぇ、今別の学科の友達からメール来たんだけどさ――」


 1人の女子生徒が声を上げた。


「このアドレスに返信したら、“アドレスが見つかりません”ってセンターから返って来たらしいよ」

「…………ぇ?」


 それを聞いた新田さんが、慌てて携帯を確認し、いくつか操作をした後、目を見開く。


「ホントだ……送れない」

「そ、それじゃ、存在しないメールアドレスからメールが届いたって事ですか? ……そんなわけ――」


 そんなバカな事があるわけない。

 メールをするためには、アドレスを取得しないとダメなのだから――


「でも、送信先が見つからないって事は、そういう事じゃない?」

「それは……あ、たぶんヒロ兄が何かを――」


 機械等にも詳しいヒロ兄なら、こう言う事もできるかもしれない……。


 そう言おうとした所で、私の携帯が再び着信を知らせた。


「あ、今度はヒロ兄のアドレス……」

「お兄さん、何て?」

「ちょっと待ってください。 ……えっと――」


 顔から携帯を少し離して、隣に来た新田さんにも見えるように持つと、二人で内容を確認する。


【昨日カナ達から聞いた怪談話、実に興味深かった。

 ぜひその旧校舎ってのも見てみたい物だが、

 神隠しされても困るから我慢するよ(笑)

 また何か面白い話があったら聞かせてくれ。】


 そこに表示されていたのは、昨日打ち合わせしていた内容。

 宛先も私と伊坂さんの二人に同時に送信されていた。


「これって……」

「昨日打ち合わせしてたメールですね。 予定ではこのメールに、私と伊坂さんが返信して、例の現象がそれぞれの教室で起きるかどうかを確かめるはずだったんです」


 ……ヒロ兄が予定通りにメールして来た、と言う事は……さっきのメールはヒロ兄じゃ、ない?


「じゃあ、それが届いたって事は、さっきのは――」


 私が考えたのと同じ事を感じたらしく、新田さんがそう口にした直後――


「やっぱり、亡霊の仕業だよ!」

「私達、呪われちゃったんじゃ――」


 教室中に悲鳴じみた声が響き始める。

 みんなそれぞれに取り乱し、収拾が付かなくなっていた。

 そんな様子を見て、新田さんは声を落とし、周りに聞こえない様に話しかけてくる。


「(ねぇ……鞠片さん……やっぱりさっきのメールは旧校舎の亡霊の仕業なのかな?)」

「(そ……そんなわけ無いです! 亡霊なんて……)」

「(でも、そうじゃなかったら、きっと今頃、アレ”が来てるよ! あのメールが亡霊からだったから、“アレ”が来てないんじゃ――)」


 新田さんの言葉を聞いてハッとした。


 そうだ、奇妙なメールが届いた事で忘れていたけど、この教室では未だに窓が揺れたり、体調不良になったりと言う現象が起きていない。


 もちろん、問題のメールに返信してないから、という可能性もあるけど、亡霊やら呪いやらと騒いでも何も起こらない。


「――もしかしたら」

「鞠片さん? どうしたの?」


 心配そうになる新田さんを尻目に、予定通りヒロ兄に返信を行い、伊坂さんにも「授業どうですか?」とメールを入れた。


 程なくして、伊坂さんからメールが届く。


「……やっぱり」

「やっぱりって、何が?」


 携帯の画面を見つめながら呟いた私に、新田さんは私の携帯の画面を覗き込みながら尋ねた。


「これ、伊坂さんからのメールなんですが、ここ、【“アレ”が来て、10分前くらいから授業中断中】」

「10分前くらいって言うと――あっ! あの変なメール!?」


 新田さんの言葉に、小さく頷く事で肯定を示す。


 10分前――丁度あの奇妙なメールが届き、両隣の教室から悲鳴が響いた頃だ。


 ……と言う事は、恐らく悲鳴が上がった教室の人達にも、例のメールが届き――そして“アレ”が発生したんだと思う。


「返信出来なかったメールでも“アレ”が来てたみたいですね」

「でも、この教室、メールは届いたのに何とも――あっ!」


 途中まで言い掛けて声を上げる新田さん。


「どうやら、窓の留め、ビンゴだったみたいですね」

「……それじゃやっぱり?」

「はい。 少なくとも、窓の振動や体調不良は――」


 そこまで言った所で、扉が開いて神妙な顔をした先生が教室に入って来る。


「皆さん。 突然ですが、今から緊急の会議が入りました。 今日の残りの授業やゼミは全て中止。 皆さんはこのまま帰宅してください」


『緊急会議?』

「何かあったのかな?』

『あのメールじゃない?』


 皆は、先生の言葉への疑問を囁き合いつつも、さっきのメールの事があるためか、そそくさと帰り支度を始めていた。


「――新田さん、私達も行きましょうか」

「そう……だね。 行こう」


 私の新田さんへの目配せを合図に、お互いに荷物をまとめ教室を出る。


「……? あ、メール……」

「メール? 誰から?」


 棟の玄関に向かう途中、鞄の中の携帯電話がメール受信を知らせて振動した。


「伊坂さんですね。 えっと……駐車場で待ってる、って」

「駐車場ね、よしっ、早く行こっ」

「あ、待ってくださいよ~!」


 そう言って駆け出した新田さんを追いかけ、

 私も駐車場の方に向かって走り出す。


 今日1日で、いくつかわかった事――それをみんなにも話さないと。


「あっ! 祐子~!」


 走りながら、今日1日の事をぼんやりと思い返していると、少し前を走っていた新田さんが手を振りながら声を上げた。


 その視線の先では、黒い軽自動車にもたれ掛かる様にして立った伊坂さんが、こちらに気付き手を振り返してくれる。


 その向こうには、東川さんと西崎さんの姿も見えた。


「お疲れさまです、皆さん」

「カナエちゃん達もお疲れ~」

「色々わかった事があるらしいな」


 やっほー、と明るく声をかけて来る西崎さんとは対照的に、東川さんは中指で眼鏡を直すような仕草をしながら、真剣な表情で質問をしてくる。


「はい。 まだちょっと、整理はできてないんですが……」

「なら、良いお店を知ってるから移動しない? そこならゆっくり話せるし」


 その伊坂さんの言葉を合図に、私達は男女に別れて、車に乗り込んだ。

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