第34話 探索と再会
閉じ込められていた部屋を抜け出した私が、まず向かったのは、さっき仮面の2人組が歩いて行ったのと反対の、部屋を出て右側の通路。
私が入れられていた物と似たような部屋をいくつか通り過ぎ、しばらく進んで突き当たりにあった扉をそっと開くと、そこは、6畳程の広さの空間だった。
部屋の角がほんの少し明るくなっており、どうやら、天井に1メートル四方程の穴が開いていて、ハシゴがかけられているようだ。
そっと覗き込んでみると、穴は煙突のようにまっすぐ続いていて、先の方が明るくなっていた。
たぶん……おそらくだけど、あの時私が落ちた縦穴がこれなんだと思う
「(下から見ると、やっぱり……結構高い)」
見たところ2~3階建てのビルくらいはありそう。
念のため確認した携帯電話も圏外だったけど、これだけ地下だと仕方ないのかもしれない。
ここから脱出が可能だと思うけど、どちらにしても、まずは皆を見つけるのが先決。
みんなも捕まってるっぽいのに、このまま1人だけ逃げたら、後悔で潰れてしまう……ホントはすぐにでも逃げ出したいけど。
でもまぁ、仮にこの場は逃げ出せたとしても、“あの人”が犯人の1人だったら、すぐに追い詰められてしまうと思う。
とりあえず今出来るのは、まず皆を見つけることだ。
自分に言い聞かせながら、来た道を戻り、さっきはスルーした部屋の中も確認していく。
「空っぽの部屋が二つと、物置みたいになってるのが一つ、か」
物置っぽい部屋は、南京錠もかかってなかったので、念のため中も調べてみたが、どこかで見たようなデザインの、工芸品とかが置かれているだけで、皆の手がかりになりそうなものはなかった。
そのまま、自分が閉じ込められていた部屋を通りすぎて進んで行くと、今度はT字路に突き当たる。
「迷路とかだと、左手を壁に……って言いたい所だけど」
ここは別に迷路ではないだろうし……あ、でも、皆を探すために、くまなく調べるなら、丁度いいのか……よし。
方針を簡単に決めて、即断即決で行かないと。
逃げ出した事がバレる前に、なんとか1人でも見つけたいところだ。
周囲の音に耳を澄ませながら、自分の足音が響かないように気を付けて、ゆっくりと進んでいく。
しばらくして、正面に丈夫そうな扉が見えてきた。
その扉は、何て言うか、家の玄関扉みたいな……よく見る普通の扉で、ポストみたいに覗き窓が付いている。
「(行き止まり……ドア、開いてるかな?)」
そーっと近づいて、扉に耳を当ててみるが、特に物音とかも聞こえないみたいだ。
ドアノブを捻ってみるが、やっぱり鍵がかかっているらしく動かなかった。
「(ここは諦めて、そのままT字の反対側へ行ってもいいんだけど……)」
何故か、ここは調べた方が良いような気がして、半ば衝動的に、覗き窓のカバーを指で押し開ける。
――小さな明かりが灯されただけの、薄暗い部屋の中。
左端から順に視線を動かしていくが、黒い布の様なものが掛けられた“何か”がたくさん置かれているだけで、変わった物は見当たらない。
――と、そう思った直後。
視線の端に人の足が映った。
「(あれって、足? 人が倒れてるの? もしかして、皆の内の……っ!? 誰か来た!?)」
室内で倒れているのが誰なのか確かめようと、覗き窓に顔を近づけた私は、背後から聞こえた足音に身を固くする。
「(どうしよう……隠れるような場所、無い)」
こちらの様子を伺うかのように、ジワジワと近づいてくる気配。
しばらくして、暗闇の向こうから姿を見せたのは、白づくめで仮面を付けた人物。
――ではなく。
「……西崎さん?」
「……え? あっ、カナエちゃん! よかった……ユーコちゃんとハルちゃんは?」
私の声を聞いて、一瞬警戒したように足を止めた西崎さんだったが、こちらの姿を見つけて駆け寄ってくる。
「わかりません――皆捕まったっぽいんですが、どこにいるかまでは……」
「そっか……」
そう言うと、何かを考えるように、腕を組んで黙り込んだ西崎さんだったが、しばらくして、何かを思い付いたように顔を上げた。
「そう言えば、カナエちゃんも捕まってたの?」
「あ、はい。 鉄格子の付いた、牢屋みたいな部屋に入れられてました。それで――」
捕まっていた時の状況と脱出方法を、簡単に説明する。
仮面の二人組の事。
図書室で見つけた鍵の事。
そして、例の縦穴の事。
「ここから出られそうな縦穴か……それに、あの時の鍵……貰っといて正解だったね」
「はい。 見つけられてて良かったです。 西崎さんはどうやって?」
私がそう尋ねると、西崎さんは苦笑混じりに、穿いているカーゴパンツのポケットから、“それ”を取り出した。
「俺はカナエちゃんみたいに、スマートには抜け出せてないよ」
「……ドライバー?」
「そっ。 探索の役に立たないかと思って持って来てたこれで、ドアノブ外して抜け出したんだよ。 ちょうど、そんな感じの扉だったから」
そう言って指差されたのは、さっきまで私が中を覗いていた扉。
――ってことは、もしかして!
「西崎さん! このドアも、開けられます? 中で誰か倒れてるんです」
「マジで!? オッケー、とりあえずやってみる!」
それだけ言うと、手に持ったドライバーを使って、ドアノブのネジを外して行く。
そして、わずか数分で、ドアノブが扉から浮き上がって隙間が出来てしまった。
「よしっ、外れた。 あとは……」
今度は、ドライバーを中に突っ込んで、カチャカチャと動かす事数回。
――ガチャンと言う音がして、扉が開いた。
「中に居るのが誰なのかわからないし、カナエちゃんは、一応俺の後ろに」
「あ、はい。 ありがとうございます」
そうして、2人で踏み込んだ室内。
ベッドや机、本棚っぽい棚等、私が入れられていた場所に比べると、“部屋”っぽさがある。
そんな室内の一角。
覗き穴からだと、微妙に見えない死角となる、一番手前側に横たわっていた人物。
それは――
「森島先生……!?」
――先日、警察署で“神隠しにあった”と聞かされた、森島先生だった。




