第33話 脱出
『……力、貸して欲しいの』
『あなたの『7不思議検証」のレポートを読ませていただいて、一度会ってみたいと思っていました』
『さっきの天狗も、実は人間だった――と言う事になるのか』
『神隠しって、拉致事件……って事?』
『なんだかいつもより長い気がするねぇ』
『言ってる場合か! 新田、鞠片も、しっかりしろ!』
『私達には、ある目的があって、そのためにあのゼミを活用してるの』
『実は、行方不明になったのは聡美1人じゃないの』
『学校の物をみだりに壊したら、器物損壊罪が――とか、考えてしまって』
『いつもならメールに返信したら~、って感じなのに、今日は届いたらすぐ~、って感じじゃなかった?』
『何かに使えるかもだし、持って行っちゃおうか』
『この校舎、屋上に上がる階段あったっけ?』
『結構心配してたんだよ……“巻き込んじゃった”ってさ』
『間違いなく、そのロッカーだろう。 隠し部屋か何かあったんじゃないか?』
『警備会社自体がグルだと言う可能性はないか?』
『これ、閉められないのか?』
『雅人、隠し通路見つかってたの?』
『……これ、気付かずに進んでたら……ヤバかった、よね?』
『それなら、僕か西崎が先に入って、安全を確かめてから順番に行くか?』
『もうかなり近くまで来てるよ! とりあえず、扉を閉めて隠れよう。 ちょっと狭いし、鞠片さんは降り始めてて』
……色々な光景が、次々と浮かんでは消えていく。
そして、最後に浮かんだ光景は――
「――っ!? 新田さん! ……こ、ここは?」
気を失う直前の出来事を思い出し、飛び起きた私は即座に周囲の確認をする。
どうやら、石造りの個室らしい。
窓のようなものはなく、入り口と思われる扉は、上半分が鉄格子になったものだった。
そんな部屋の隅にある、シーツが敷かれただけの簡素なベッドに寝かされていたらしい。
「えっと……ハシゴから落ちて気を失ったんだと思うけど――」
――なんで、生きてるんだろう。
あの時、私は、新田さんが殴られて、縦穴に投げ入れられたのだと思った。
確かに、穴の底は真っ暗で、ほぼ見えなかったけど、丁度人間くらいの大きさの“何か”が投げ入れられて、底に横たわって微動だにしなかったのは間違いない。
でも、それを目撃したハズの私は、牢屋みたいな所に入れられてはいるが、こうして生きている。
普通なら、一緒に口封じ、するよね?
それなら、てっきり、新田さんが殺されちゃった、って思ってたけど、もしかして、見間違い?
「……それとも、他に何か理由が――――っ!?」
小さく呟きを漏らしてしまった直後、コツコツと言う足音が聞こえて来て、慌ててベッドに横になる。
暫くすると、足音がすぐ近くまで来て、止まった。
寝た振りをしながら、薄目を開けて様子を窺うと、白い仮面の人物が“2人”、扉の鉄格子からこちらを覗き込んでいるようだ。
『ふぅ……』
不意に、無言のままこちらを見ていた内の1人が、小さく溜め息をついた。
その声は、仮面のせいかくぐもって聴こえたため、いまいちどんな声かの判別はできない。
『……まだ、目は醒まさないか。 あとの3人は?』
『そちらも、まだです……でも、いいんですか? お父上に報告しなくて』
『……彼女達に関しては、こちらに任せて貰えるように許可を取ってある。お前も、余計な事を言うなよ? ……次行くぞ。』
それだけ言って離れていく仮面の2人。
少しの間、耳を澄ましていたが、そのままどこかへ行ったらしく、足音も聞こえなくなった。
「さっき、聞き間違いじゃなければ――」
――あとの3人、って言ったよね?
今の口振りからすれば、今回捕まったのは、私を入れて4人。
と言う事は、みんな捕まえてるのに、1人だけ殺す理由も無いだろうから、新田さんも生きている可能性が高い、と思う。
ただ、その場合、“もう1人”の話が出なかったと言う事は、やっぱり……
「なんとか抜け出せると良いんだけど、窓とかもないし……」
念のために、と扉の鉄格子から外の様子を窺ってみるが、足元に小さな電灯がポツポツと置かれた、薄暗い通路が続いているだけだった。
「手がかりになりそうなのは、無いか……ん? あ、コレなら、もしかして……」
外を見て落胆したままに、ふと視線を下に向けると、どうやらこの扉、閂で閉めるタイプらしい。
開けられないように、南京錠で留められているのが見える。
「どうせ他に方法は思いつかないし、やるだけやってみよう」
テレビかなんかで、針金とか使って開けるシーンよく観るし、素人でもまぐれで開くかもしれない。
たしか、実習の時に前髪留めるためのヘアピンがポーチに……ん?
ウエストポーチに手を突っ込んで、ゴソゴソとヘアピンを探していた私の指に触れたモノ。
何となく気になって取り出してみたそれは――
「……コレ、あの時の……入れっぱなしで忘れてた」
――図書室を調べた時に、西崎さんと見つけた、銀色の小さな鍵。
大きさ的には、いけそうだけど……まさかね。
頭に浮かんだ淡い希望に苦笑しつつ、物は試し、と扉の鉄格子から手を伸ばして、南京錠の鍵穴に差し込んでみる。
意外な程に抵抗無く入った鍵を、緊張しながらゆっくり回してみると――
――カチャン
ほんの少しの抵抗を感じた直後に、小さな音が聞こえてきた。
「――――――え?」
たっぷり数秒は固まってただろうか。
はっと我に返った私は、慌てて鉄格子から、鍵の方を覗き込む。
そこには、ロックの外れた南京錠がユラユラと揺れながらぶら下がっていた。




