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第32話 合わせ鏡

 さて、それじゃあ、1階を探索しながら、少しこれまでの事を整理してみよう。


 まずは、そもそも私がここにいる発端。


 これは簡単で、食堂で新田さんにゼミに誘われた事だと思う。

 ゼミに参加してなければ、恐らく今でも孝太の事を知らずに、普通の大学生活を送っていただろうし。



 次に、ゼミについて。


 森島先生が“顧問”をしているゼミで、内容は“都市伝説の解明”。


 メンバーは、医学部の新田さん、経済学部の伊坂さん、法学部の東川さん、経営学部の西崎さん、そして私の5人。

 新田さん達4人は、聡美さんと孝太の事を調べるためにゼミを利用していると言っていた。


 元々、先生が個人的にやってた所に人が集まって来たらしいけど……。

 先生から貰ったメモには、この大学の七不思議が、かなり詳細に調べ上げられていた。

 あのメモを見る限りでは、先生自身も本当に調べたかったのは、地域伝承や都市伝説じゃなくて、この“旧校舎”の事だったのではないかと思う。


 もし、そうだったとしたら、あの時ゼミで先生の態度が急変したのは、少しでもヒントが欲しくて必死だったからで、その後、結構激しい“亡霊”が起きた時に冷静だったのも、起きる事が予想できていたから――とすれば、一応納得のいく説明ができそうだ。



 後は、この旧校舎について。


 廃校になった高校の校舎で、神隠しを行う“亡霊”の住処と目される場所。

 正門に続く並木道は、警備員によって24時間体制で監視されていて、“亡霊達”の出入りにも、私達が使った地下通路が使われていたと思われる。


 その地下通路の事も、通路内のトラップも、先生から受け取った“本当の7不思議”に書かれていたものだった。

 つまり、残りも何らかのヒントになってるはず。


 

 えっと、“本当の7不思議”は――『亡霊』『並木道』『赤いカーテン』『血塗れポスター』『動く銅像』『合わせ鏡』『視聴覚室』の7つ。

 この内『赤いカーテン』と『合わせ鏡』以外の5つは、一応の確認が取れた。


 

 つまり、この2つが、何かしらの手がかりに繋がって――



「鞠片さん、大丈夫?」

「――あ、はい! すみません、ボーッとしちゃって」


 新田さんが、私の顔を心配そうに覗き込みながら声をかけて来たため、慌てて返事を返す。


「これで一通り調べたけど、扉が開いたのは、1部屋だけだったね」

「そうですね。 その部屋も、これと言って変わった所の無い、普通の教室でしたし」


 そこ以外は、全て鍵が掛かっていて扉は開かず、扉が開いた教室も、机と椅子が並んだ普通の教室で、手がかりになりそうな物は何も無かった。


 ――と、なると。


「やっぱり、7不思議の『赤いカーテン』と『合わせ鏡』がカギでしょうか?」

「どっちも、鬼の棲む場所に繋がってるんだっけ? あ、でも“入り口”って言われてるカーテンの方が、それっぽい?」

「そう……ですね――」


 正確には、“鬼の棲む異界への入り口”であるカーテンと、“鬼の棲み家への扉”である鏡。

 どっちも可能性はありそうだけど、“異界”と“棲み家”と言う書かれ方から考えると――


「――私はどちらかと言えば――」



 カツーーン




 カツーーン




 カツーーン



「――ッ!?」

「……何の、音?」


 丁度、廊下の中程に差し掛かった時。

 静かな校舎内に突然響いて来た、“堅い何か”が床に落ちたような音。


 しかも、それが一定の間隔で聞こえてくる。





 まるで、何かを引きずりながら、階段の段差を一段ずつ降りてくるような……





 そこまで考えて、総毛立つ様な悪寒が全身を駆け巡った。


「ど、どうしよう、鞠片さん。 隠れる様な所、無かったよね?」

「ですね。 廊下の奥は行き止まりですし、その手前の、鍵の開いてた教室も隠れられる様な所はありませんでした。 ……なにより、奥に隠れたら逃げ場が無くなります」


 同じ様な事を考えたらしい新田さんが、自分の肩を抱くようにしながら、キョロキョロと周囲に視線を飛ばしながら言った言葉に、私も周囲を確認しながら返事を返す。



 何か――



 何かない?



 隠れられる場所。



 その後逃げ出せる場所。



 トイレは?



 ――ダメ。



 入り口が1つでは、入って来られたら逃げ場が無い。



 さっきの教室?



 ――入り口は2つあるけど、廊下の奥にあるから、結局逃げ場が無くなる。





 カツーーン




 カツーーン




 カツーーン




 少しずつ、音が大きくなってきてる。




 何か他にない?




 身を隠せる場所か、もしくは武器になるような物は?




 この手洗い場の鏡なんか、割れたらナイフみたいに――




「――これ」

「? どうしたの?」



『なんとか使えないかな』と、等間隔に3つ並んで設置されている手洗い場の蛇口の上に付いた鏡を覗き込んだ私は、鏡の中、斜め後ろに写った“ある物”を見つけて、すぐ振り返る。



 そこにあったのは、廊下の壁の柱部分。


 一見、特に変わった所は無さそうに見えるけど、真ん中を少し過ぎた辺りで段差ができていた。


 それが丁度、少し大きめな姿見くらいのサイズで…… 


「……合わせ、鏡……」

「え? 鏡なんて――」


 私の呟きを聞いて、驚く新田さんを横目に、その柱を上から下まで眺めてみるが、普通の壁のように見える。


 そこで、再び手洗い場の鏡を覗いて見た。


「(やっぱり、足元の一部だけ、鏡みたいに映ってる気がする)」


 光の加減、だろうか?


 なんにせよ、手掛かりになりそうなのはこれだけだ。


 

 “合わせ鏡”と言うことは……


「新田さん! これ、右にスライドできませんかね?」

「えぇ!? この柱のやつ? 確かにちょっと出っ張ってる気はするけど……」


 2人で引き戸のようにしてみたり、出っ張りを引っ張ってみたけど、全く動く気配がない。




 カツーーン




 カツーーン




 カラカラ カラカラ カラカラ




 カツーーン




 カツーーン




 階段を降りて来ているであろう音の間に、踊り場を引きずって歩いているような音も聞こえて来る。

 

「やばいよ! 近付いて来てる!」


 焦った新田さんが、そう言いながらグッと体重をかけた――瞬間。




 ――カチッ




 小さな音と共に、柱に仕掛けられた、鏡で言う“枠”の部分が、手前にせり上がって来た。


「新田さん!」

「うん!――えっと、ドアみたいには……開かない……スライドもしな――あ!」


 “枠”の部分がせり上がった事で、枠の内側――鏡の部分が右にスライドするようになったらしい。


「明るい……これ、LEDライト?」

「マジックミラーになってたみたいですね。 内側を明るくして白い壁を透かして見せてたんだと思います。」


 マジックミラーの扉を開けた先は、白いライトに照らされた、すごく小さな部屋。

 部屋と言っても、床の真ん中に、1辺が1メートルくらいの正方形に穴が開いていて、その周りに10センチにも満たない(ふち)があるだけの小部屋だった。

 そっと中を覗いてみると、手前側にハシゴがかけられているのが見える。


「ここが明るすぎて、底は見えませんね。 入って大丈夫なんでしょうか……」

「でも、もうかなり近くまで来てるよ! とりあえず、扉を閉めて隠れよう。 ちょっと狭いし、鞠片さんは降り始めてて」


 新田さんが、扉の内側に付いた取っ手に手を伸ばすのを見ながら、慎重にハシゴをつたって降り始める。


 入り口付近はライトのお陰で明るかった分、下に降りて行くにつれてどんどん暗闇に包まれて行く。

 しっかり手元を見ていないと、掴み損ねたり、踏み外したりしてしまいそうだ。


「新田さん、そっちは――」


 しばらく降りた所で、新田さんにも降りて来て貰おうと、声をかけるために視線を上げかけた瞬間。





――ゴスッ!





 何かを殴り付けた様な音が縦穴内に響いて来て、咄嗟に身体を強張らせた。



「え……?」


 何? 今の音……。



 そーっと視線を入り口の方へと向けた私は――



「――新田、さん?――――ひっ!?」



 ――新田さんがいたはずの場所から、ジーッとこちらを覗き込む、白い仮面の人物と目が合ってしまう。


 急に血の気が引いてきて、身体がすくんでしまい、戻ることも進むことも出来なくなった私は、カチカチ鳴る奥歯の音を聞きながらも、その人物から視線を外せずにいた。



 さっきまでは間違いなく新田さんが居たのだ。


 じゃあ、今の音は、まさか……?



 イヤな想像が次々と頭に溢れてきて、私の喉がカラカラになり、ゴクリと唾を飲み込んだ所で、仮面の人物がスッと死角へと引っ込み――


「――なっ!?」


 ――“黒い塊”を縦穴の中へと投げ入れてきた。



 慌ててハシゴの方へ身を寄せたため、背中を掠めただけで、巻き込まれて一緒落ちるような事にはならなかったけど……。


 そのまま落下して行った“黒い塊”は、数瞬の後『ドチャッ』と言う生々しい音を立ててハシゴの先にある地面へと激突してしまう。


 私は再び、ゴクリと唾を飲み込み、少しでも呼吸を整えるために小さく深呼吸してから、肩越しに下を覗き込んでみた。


 暗い縦穴の中にいたためか、少し慣れてきた私の目に映ったのは、数メートル下で地面に横たわる――――


「い……いやぁぁぁぁぁ!!」


 ハシゴに掴まっていた事も忘れて、咄嗟に両手で顔を覆ってしまった私は、バランスを崩して空中に投げ出される。


「――ぁ……」


 全身を包む浮遊感。


 その感覚を最後に、私の意識も暗闇へと落ちていくのだった。

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