第31話 消える仲間
探索を再開した私達は、とりあえず、このまま2階を調べてみる事にしたのだけど……
「驚くほど何も手掛かりないね」
「そう、ですね。 鍵がかかってる部屋もありましたけど、開いていた部屋は、普通の教室ばかりですし……」
逆に言えば、鍵が掛かってる部屋には、手懸かりがあるのかもしれないけど。
さすがに、窓のガラスを割って入るのは、大きな音がしそうだから避けたいし……
「鍵がかかってる所は、今の所どうしようもないし、とりあえず1階も調べてみましょう」
「そうだね。 あ、でも、その前に――」
伊坂さんの言葉に、同意を示した新田さんだったが、直後にどことなく言いにくそうにしながら――
「――先に、トイレ行っていい?」
――と、言ったのを聞いて、少し身構えていた私達は、二人揃ってホッと溜め息をついた。
「階段の手前にあったと思うので、1階に降りる前に寄りましょうか」
「ごめんね。 何も成果無くて、気が緩んじゃったのかも」
確かに、さっきからずっと手掛かり無しの状況が続いてるし、気の緩み……と言うより、油断しちゃってた気がする。
これじゃダメだ。
今は西崎さんも、東川さんも居ない。
力ずくで来られたら、対抗できないし、気を付けておかないと。
そうこうしてる内に、階段横のトイレに到着。
3人で中を確認してから、私と伊坂さんで周りの見張りをする事に。
「お二人、大丈夫でしょうか……」
「克也は、何とかしてると思いたいわね。雅人の方は――」
そこまで言って、言い淀む伊坂さん。
確かに、目の前で仮面の人物を押し返す所を見た西崎さんは、何とかしてくれていそうに思えるけど、東川さんの方は状況がわからない。
背後から襲われた?
そうだとしても、これと言って大きな声や物音も立てずに、男性1人を無力化できるものなんだろうか。
私の時みたいに薬を使われた?
あれだって、吸い込んでから効いて来るまでに、多少時間的余裕がある以上、完全に無抵抗でいるとは考えにくい。
――だとしたら。
「ねぇ、祐子、鞠片さん、どっちかティッシュ持ってない? 紙がなくて……」
いろんな可能性を思い浮かべていると、不意にトイレの奥から新田さんの声が聞こえ、一気に現実に引き戻される。
「あ、はい! ポケットティッシュ持ってるので渡しますね」
「ごめん、ありがとう!」
ポーチの中からポケットティッシュを取り出し、手渡すために個室のドアの下の隙間から差し込むと、「よっ……と」と言う短い言葉と同時に、私の手からティッシュが離れて行った。
「ありがと、鞠片さん」
「いえ。 持って来ておいて良かったです。 あ、伊坂さん、そっち――は……?」
廊下側には以上が無いかを尋ねようと、トイレの入り口の方に向き直った私は、そこに居るはずだった伊坂さんの姿が見えなかった事で、言葉を詰まらせてしまう。
「鞠片さん、どしたの?」
「――新田さん……警戒、してください」
ガチャっとドアを開けて、個室から出て来た新田さんに、一瞬だけ視線を向けた後、さっきまで伊坂さんがいたはずの場所へと視線を戻す。
――特に、物音も無かったよね?
伊坂さんなら、なにか見つけたとしても、先に声をかけてくれると思うし……。
――と、言う事は。
「ねぇ……祐、子は?」
「……さっきまでは、入り口の所で私と話してました。 なので、ティッシュ渡してる数十秒の間に、居なくなった事になります」
入り口の方にゆっくりと近づきながら、尋ねてきた新田さんに、極力冷静に、事実だけ告げる。
そうでもしてないと、不安で、不安で、叫びながら逃げ出してしまいそうだったから。
「って事は、近くに居るよね?」
「……恐らくは」
新田さんとアイコンタクトをしてから、同時に入り口の外を左右に別れて覗く。
「居ませんね」
「でも、隠れられるような場所はないよね?」
新田さんの言う通り、廊下は一本道で、身を隠せるような場所はない。
扉の開くような音もしなかったし、あり得るとしたら……。
「はい。 扉を開けて入ったとも考えにくいので、可能性があるとしたら、隣の男子トイレか、階段か――」
「一応確認すべきだよね? 私、階段の方見てみるから、鞠片さんはトイレの方を確認して貰って良い?」
ホントなら、数メートルとは言え、離れるのは避けたいんだけど。
伊坂さんを早く見つけなきゃいけないのも確かだし、と、新田さんの提案に頷きで答えて、隣の男子トイレに視線を向ける。
そのままゆっくりと進み、壁の影からそっと覗き込むが、特に変わった所はなさそうだ。
「こっちは誰も居なさそうです。 個室も全部開いてるみたいですし」
さすがに、1人で中まで入って行くのは、ちょっと怖いし。
「それなら、とりあえず1階に降りてみる?」
「そう……ですね。 3階で西崎さんと合流出来るのが理想ですけど、上の状況が分かりませんし、戻るよりは進む方が良いかもしれません」
3階に戻れば、西崎さんと合流できる可能性はあるけど、少なくとも1人は、仮面の人が居るわけだし。
「よし、それじゃ行こ。 祐子も探さないと」
「はい! 気を付けて行きましょう」
2人で視線を交わし、小さく頷き合うと、どちらからともなく階段へと歩を進める。
警戒しながら、ゆっくりと進む私の頭の中では、これまでの出来事がグルグルと駆け巡っていた。
すこし、情報の整理も、しなくちゃいけないかもしれない。