第22話 わかってる事、しらべる事
東川さん宅での話し合いから、数日経った日の夜。
私達は、再び東川さんの家に集まっていた。
要件はもちろん――
「じゃあ、とりあえずはこの日程で調べましょ」
――視聴覚室の調査について、だ。
数日かかったのは、視聴覚室が使われる日程を調べるのに時間がかかったこと。
そして、“旧校舎の亡霊”がいるため、学校内では不用意にこの件について話せなかったこと等が理由として挙げられる。
「えっと――4日後だから、月曜日か。 時間は?」
「朝イチの方が動きやすくない? 人も少ないだろうし」
みんなで意見を出し合いながら予定を詰めていく。
現状で決まってるのは、4日後の月曜日に、まだ学生が少なく、先生達も予定の確認なんかのミーティングをしているであろう朝一に視聴覚室の調査に入るってことだけ。
普段学生には滅多に使われないだけあって、私たち5人も入ったことがないため中の構造が分からず、どこから調べるか、みたいな予定が組めない。
まぁ、講堂程は広くないはずだし、5人がかりなら、そんなに時間をかけずに一通り調べることができるはずだ。
「なら、土日も使って色々準備しないとだね」
「あぁ。 それに、ここまでの情報も一度纏めて整理しておきたいな」
東川さんの言葉を合図に、これまでに分かったことなんかを手帳に書き込んでいく。
まずは“目標”、これは簡単だ。
“聡美さんと、孝太の発見”――これしかないだろう。
一応みんなの方に視線を向けてみるが、特に反応もない。
次、“わかってること”――これはいくつかある。
まずは警備員さん達が、“神隠し”の事を恐らく知っている、と言うこと。
そして、旧校舎に出入りしている“誰か”が一人ではないこと。
あとは――“旧校舎の亡霊”や“神隠し”が、人為的なモノであること。
「他に、何かありましたっけ?」
「……いや、確定してるのはそれくらいじゃないか?」
意見を求めて視線を巡らせると、口元に手を当てながら東川さんが答えてくれ――
「そう、ね。 今回調べる視聴覚室の隠し通路は推測の域を出ないし――」
「――旧校舎の壁の向こうに校舎の続きがあるってのも、可能性は高そうだけど、あくまでも予想で、まだ確認はしてないもんね」
――それに続くように、伊坂さんと西崎さんも意見をくれる。
そっちは、“これから調べること”に書いて……と。
「なら、大体こんな感じでしょうか?」
「……うん、いいと思う。 明日は授業あるし、土日で色々準備かな?」
一通りメモを読み返した新田さんが首をかしげるが。
「いや、榛柰、今回はあくまでも通路があるかを調べるだけよ。 調べるのにどれくらいかかるか解らないし、もし入り口を見つけても、侵入自体は別の日にちゃんと計画してからの方がいいと思うわ」
「大荷物だと怪しまれるかもしれないしねぇ。 あ、でも、小さい工具なんかはあると便利かもだよねぇ」
そんな感じで話がどんどん進んでいく。
ある程度纏まったところで、明日に備えて寝ることなったが、最後まで新田さんの表情から、焦りのようなものが消えることはなかった。
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翌朝、伊坂さんの車で学校まで送って貰った私は、教室に向かう新田さんと別れて、食堂を目指していた。
目的は自販機。
昨日遅くまで色々考えてたからちょっと寝不足で、頭がボーっとしてるから、缶コーヒーでも買おうと思ったんだけど――
朝一にしては珍しく、先客がいた。
「――おはようございます。 森島先生」
「――!? ……あぁ、鞠片さんでしたか。 おはようございます」
自販機横のベンチに、缶コーヒー片手に険しい表情をしながら座っていた先生は、私の声を聞いて弾かれたように顔を上げると、いつもの優しげな表情を浮かべる。
「先生もコーヒーですか?」
「はい。 私“も”と言うことは、貴女もコーヒーを買いに来たんですか? ふむ――なら、一本ご馳走しましょう」
そう言って、ポケットの中から小銭を出すと、「どうぞ、遠慮せず」と差し出してくれた。
「あ、えっと……じゃあ、いただきます」
「えぇ、どうぞ。 ……代わりと言ってはなんですが、少しだけ話し相手して貰えませんか? 授業まで、まだ時間ありますよね?」
その言葉に了承の意味を込めて頷き、目的の缶コーヒーを買うと、先生の隣に腰を下ろし視線を向けるが、先生は再び険しい顔でぼんやりと正面を見つめながらコーヒーを飲んでいる。
――何か話があるっぽい雰囲気だったと思ったけど。
とりあえず、奢って貰ったコーヒーをいただこうか、と私が開けたコーヒーの、カシュッという音が、他に誰もいない静まり返った食堂に小さく響く。
一口飲んで、再び視線を向けようとした、直後。
「――どうです? ゼミには馴れましたか?」
「あ――はい、まだまだ戸惑うことも多いですが、皆さんもサポートしてくれるので」
例の“神隠し”の考察をした日のあとにも、何度か色々な題材で活動があった。
あの時のような異変も起きなかったし、森島先生もいつも通り。
むしろ、あの日に起こった事が、実は夢かなんかだったんじゃないかと思うくらいに、普通の毎日が過ぎていた。
「そうですか。 それはよかった。 新田さんが急に誘ってしまって、なんだかなし崩し的に参加させてしまったのではないかと、すこし心配してたんです」
「いえ、“部活動”みたいな物と言って貰えたので、結構気楽に参加させていただいてます」
「ふふ……そうですね。 気楽にして貰える方が良いです――ところで――」
それまで和やかな雰囲気だった空気が、心なしかピリッとした気がした。
先生も、どこか真剣な表情になっている。
そして、その口から発せられたのは――
「――鞠片さんは、この大学の7不思議について、どれくらいご存知ですか?」
――思いもよらない言葉だった。