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第10話 夜の大学へ

 時刻は間も無く午前0時。

 後半時もすれば、終電も無くなるためか、駅には殆ど人影がなかった。


「西崎さん……遅いですね」

「あいつの遅刻は今に始まった事じゃないが、こう言う時ぐらいは時間厳守して貰いたい物だな」


 静まり返った駅のロビーで東川さんが溜め息をつく。


 昨日立てた計画通り、私達は旧校舎へ侵入するため、学校の最寄り駅に集まっていた。

 後は、集合時間2分前になっても、姿を見せていない西崎さんのみ。


「時間になっても来なかったら、置いて行くしかないかもね」

「……そうだな、1人の為にチャンスを棒に振る訳には――」


 東川さんがそう言い掛けた途端。

 おーい!と大きな声が、ロビー内に響き渡った。


「いやぁゴメンゴメン。 電車一本間違えちゃってさぁ」

「……寝坊か?」

「え? いや、だから、電車を――」

「……寝坊なんだな」

「――はい、ゴメンナサイ」


 東川さんの尋問にぐったりとうなだれる西崎さん。


 一方の東川さんは、それを見て溜め息をついてから、私達の方に向き直る。


「とにかく、メンバーは揃った。 出発しよう」

「学校の坂の下までは車で移動するわ。 榛奈、鞠片さん、行くわよ。」

「え? 俺、雅人と2人? 気まずいから俺もそっちに――」

「……いいから早く乗れ」


 伊坂さんの言葉に、便乗しようとした西崎さんだったが、言い終える前に東川さんに引きずって行かれた。


「あ、あはは……祐子、私達も早く行こ」

「えぇ。 乗って」


 東川さん達を苦笑混じりに見送って、私達も車に乗り込み出発する。


 緊張しているのか、新田さんも伊坂さんも、一言も言葉を発さず、表情も固かった。


 車内が沈黙に包まれたまま、前を走る銀のセダンに付いて走る事十数分。

 もう少しで学校と言う所で、セダンがハザードランプを出して路肩に停車する。


 それを確認した伊坂さんも、それに習う様に車を停止させた。


 程なくして、車から降りて来た東川さんが「降りて来い」と促す。


「ここで止めちゃうの?」

「あぁ、流石にこんな時間に車で入るわけにはいかないだろう」


 東川さんの意見に、皆は「なるほど」と頷いた。


「警備員さんがいるのは学校の裏側ですけど、車の音やライトに気付かれないとは限りませんもんね」

「そう言う事だ。 用心するに越した事はないだろう」


 そう言うと、東川さんは「行くぞ」と言って歩き出し、皆はそれに付いて行く。


「普段は車とかバスだからあんまり気にならないけど、歩くと長いね……」


 学校へと続く並木坂は、車なら1分もかからない様な坂道だが、傾斜が少しキツく、歩くとなると結構大変だった。


 そんな坂道を登りながら、新田さんが1人ごちる。


「……ですね。 それに、なんだか不気味です」

「まぁ大学で、ビルみたいな建物とはいえ、仮にも学校だしね。でも――」

「……あぁ、これから行くのは、その奥の旧校舎。 しかもずっと放置されてるはずだから、今じゃ森の中だろう。 こんな比じゃないと思うぞ」


 淡い月明かりに照らされた、およそ幻想的とは言えない景色を眺めながら呟くと、伊坂さんと東川さんの2人が、肩越しにこちらを見ながら苦笑を浮かべた。


「お……脅かさないでくださいよ!」


 幽霊なんて居るワケないんだから……こんなの雰囲気だけ、雰囲気だけな――



 ━━━━バサバサバサ━━━━



「―――っ!!?」


 必死に心を落ち着かせようとしていた私は、突然鳴り響いた音にビクリと立ち止まる。


「カラス……あんなに沢山」

「さすがにあれだけいると不気味ね」


 音を聞いて、咄嗟に周囲へと視線を巡らせた新田さんと伊坂さんは、空を覆う様に飛び立ったカラスの群を見て声を上げた。


「大丈夫か、鞠片?」

「うぅ……大丈夫、です」


 空と私を交互に見て、心配そうに声をかけてくれた東川さんに、なんとか返事を返す。


 ホントは、心臓止まるかと思ったけど……


「そうか、じゃあ行くぞ」

「あ、はい!」


 私の返事を聞いて表情を和らげる東川さん。

 それを見て、みんなもホッとした様子で再び歩き出した。


「もう少しで並木道を抜けるな」

「……このまま一固まりで動いてて、大丈夫かしら」


 並木道の終わりと、そこから一番手前にある第一棟が見えて来た所で、東川さんと伊坂さんが口を開く。


「まぁ、5人だからそう大した人数ではないが、確かに、まとまって動くと見つかりやすいかもな……」

「じゃあどうするの? 二組に分かれる?」

「二組に……か」


 新田さんが首を傾げながら尋ねると、東川さんは口元に手を当てて考え込んだ。


 伊坂さん達の言い分――固まって動くと見つかり易い、と言う意見は正直正しいと思う。

 それに潜入するわけだから、ある程度身軽に動ける2人程度が望ましいだろう。


「鞠片さんはどう思う?」

「え? あ……そう、ですね――」


 東川さんと同じ様に考え込んでいた私は、伊坂さんから声をかけられてハッと顔を上げた。


「――侵入の成功率を上げるには、二組に分かれるべきかと。 人数が増えると、身を隠せる場所も限られてきますし。 それに――」

「それに?」


 言い淀んだ私の様子に、伊坂さんは首を傾げる。


 ――もし、警備員さんに、予想していた様な隙が出来なかったら……


「――二組に分かれていれば、万一の時、どちらかが囮になる事もできます」

「囮……」

「あ! えっと……万一と言っても、警備員さんに隙ができなかった時……と言う意味ですが」

「あぁ! つまり、片方がわざと見つかって、並木道から引き離してる間に入り込むわけだね」


 囮と言う単語を聞いて、顔を強ばらせた伊坂さんを見て、私が慌てて付け足すと、西崎さんがポンっと手を叩きながら補足をしてくれた。


「はい。 なので、もしどちらかが囮になった時の事を考えて、東川さんと西崎さんは別の組に。 あと、東川さんは伊坂さんとも別の方がいいと思います」

「僕と西崎が別なのは、両方に男手を入れる為だとわかるが……伊坂と僕、と言うのは?」


 私の案を聞いて、東川さんが質問をしてくる。


「メンバーの中で伊坂さんと東川さんが、一番状況に応じて冷静に動ける気がしたんです」

「つまり、二つに分けたチームそれぞれのリーダーのようなモノか、僕はそれで構わない」

「私も、それでいいわ」


 伊坂さんと東川さんは、お互いに顔を見合わせた後、頷きながら答えてくれた。


 これで、元々ゼミメンバーだった新田さんを東川さんと組にすれば、チーム間のバランスは良くなるはずだ。


 後は私がどっちに入るか……だけど。


「この感じだと、榛奈は雅人と組ね。 鞠片さんはどうする?」

「メンバーを見る限り、そっちの方がよくないか? 頭の回る人間がいないと伊坂もやりにくいだろう」

「おい雅人! それじゃまるで、俺が全く頭使えないみたいに聞こえるじゃんか!」

「……事実だろう」


 東川さんの、「何を言ってる? 当たり前だ」と言わんばかりの返答に、西崎さんは「そりゃないよ」と大げさに肩を落とし、私を含めた女性陣からクスクスと笑い声が上がった。


「とにかく、これでメンバーは決まったわね」

「あぁ、僕と新田で一組、残り3人でもう一組だな」


 確認をした所で、それぞれ組毎に分かれて集まる。


「せっかく二組に分かれたんだ。少し時間を離して出発しようか?」

「そうね。 5分位開けて――」

「――あ、いえ!」


 時間を開けて、と言う言葉を聞いて、私は慌てて声を上げた。


「その……あの時、警備員さんは、学校を上から見て、時計回りに、休憩に行くみたいでした」


 並木道から休憩室や食堂がある棟には、その方が近いから当然とも言える。


「なので、人数が少なく、咄嗟に身を隠し易い東川さんの組は、ココから反時計回りに。 そして、こちらの組は、少し遠回りですが時計回りに……別々に並木道を目指しませんか?」

「……ふむ。 休憩に行く警備員と遭遇する危険はあっても、それなら並木道を左右から挟むように待機出来る……か」


 そう呟いた東川さんは、皆に意見を求める様に視線を巡らせるが、誰の口からも言葉は出ない。


「……決まりだな。 そろそろ1時になる、早速出発しよう」


 その掛け声を合図に、私達は二手に分かれて並木道を目指し歩き始めた。

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