第1話 出会い
推理小説ではないけれど、主人公がいろんな謎を仲間たちと解き明かして行くようなストーリー。
ちょっぴりホラーテイスト。
作者が趣味全開で、自分の読みたい物を書きなぐったような、そんなお話です。
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大抵どこの学校でも、1つや2つは存在する他愛ない噂話。
曰く、深夜に鳴り響くピアノ。
曰く、歩く人体模型。
曰く、血の涙を流すポスター。
……etc.etc.
学校には、そう言った噂の“素材”が多くあるためか。
それとも“学生”と言う好奇心、行動力、想像力が溢れている年頃の者達が集まっているためか。
都会、田舎に関わらず、大抵は1つの学校に7つ程度の噂話が登場する。
そのため、いつしか学校で起こる不思議な事や噂話を、『学校の7不思議』と1括りに表すようになったのだとか。
今回はこの、『学校の7不思議』に登場するような噂話を、科学的視点、心霊的視点など、様々な視点から見て行ってみたいと思います。
では、まず始めに――
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レポート『7不思議検証』より。
制作者 鞠片 果苗
「ねぇ、隣、いいかな?」
大学内にある食堂で、昼食を食べていると、後ろから声がかかった。
「あ、どうぞ」
「ありがと」
顔を上げ、声をかけてきた相手に小さく会釈をし、隣の席に置いていた鞄をどけると、声の主は小さく微笑んで席につく。
そのままお互いに無言で昼食を食べていたが、私が食後に紅茶を飲み始めると、その沈黙は不意に破られた。
「ねぇ、あなた……鞠片さん、だよね?」
「え? はい……そうですけど」
「やっぱり! 一緒の授業の時に、よく先生に誉められてるし、気になってたの!」
私の名前を知っていた彼女。
聞くに、どうやらクラスは違えど、同じ学部の生徒だったらしい。
新田 榛奈と名乗った彼女は、控えめに茶色く染めたセミロングヘアに、Tシャツにジーンズと言う格好で、活発な印象を受けた。
「前からゆっくり話してみたかったんだけど、鞠片さん、いつも授業終わったらすぐ帰っちゃうから……」
「あぁ……バイトとかもあるし、特にやる事もないので」
「あれ?ゼミとかは取ってないの!?」
そう言って首を傾げる新田さんは、凄く驚いたような顔をしている。
確かに、ゼミを受講せずに、学科の授業だけでも卒業単位は集まるけど、ゼミは通常授業の2~3倍近い単位が取れる。
だから皆は通常授業を減らして、その分をゼミの単位で補うことで、トータルの受講数を減らしていくのだ。
「あんまり気になるゼミも無かったし、その分授業に出れば済むから」
「それは、そうだけど……」
「まぁ、そう言う事なの。 それじゃ、私はそろそろ教室に戻りますね」
飲み終わった紅茶のカップをトレイに置き、鞄を提げて立ち上がる。
――と。
「あ、あのっ、鞠片さん! ……これ、私が所属してるゼミの教室。 気が向いたら一度見に来て。 ……力、貸して欲しいの」
そう言って差し出されたのは、一枚のメモ用紙。
ただのゼミへの勧誘にしては、違和感があった。
「一緒に頑張ろう」とかではなく「力を貸して」って?
疑問が次々と頭に浮かんでは消えていく。
そして――
最後に残ったのは、小さな興味と好奇心だった。
私は小さくため息をついて、メモを差し出している相手を見る。
その顔には、切実さのようなモノが感じられた。
だから――
「……ありがとう。 気が向いたらお邪魔しますね」
気がついたらそう答えていた。
その日の授業が終わった後、私は昼食の時に受け取ったメモを片手に、大学内を歩いていた。
「もう少し具体的に場所を書いて欲しかったわ……」
メモを眺めてため息をつく。
そのメモには、教室の名前が書かれてるだけ。
この大学は、棟が3つに分かれているので、敷地も世間的には広い部類だろう。
仕方ないのですれ違う人に聞いたりしながら歩き回っていたのだが……。
「あ……あそこかな?」
少し前に見える教室、その横に付いたプレートには、メモと同じ名前が書かれている。
そしてそのプレートの下には、いかにも手作りと言う感じの札に“民俗学2”と書かれていた。
民俗学ってたしか……時代の流れで廃れたり、変化してきた生活様式とか風習を、その地域の民間伝承を元に解明、検証して行こうって学問……だっけ?
と言うより、教室を二つに分けなきゃならないほど人気のある学問なんだろうか……。
まぁ、ドアの前に立っててもしょうがない、まだゼミに入るとは言ってないし、話聞くだけ聞いてみればいいか……。
小さくため息をついて、もう一度メモと教室の名前が一緒なのを確認し、扉をノックする。
「はい、どうぞ~」
「……失礼します」
教室の中に入ると、大学の授業と言うより、小学校とかのグループ学習を彷彿とさせる光景が広がっていた。
長机二つを向かい合わせに引っ付けて、それを囲むように座る男女数人。
とっさに「間違えました」と部屋を出そうになったけど――
「あ!鞠片さん!来てくれたんだ!」
――と言う声が、それを阻んだ。
扉を閉めそうになった手を止め、改めて室内に目を向ける。
机を囲んでいるのは、女子が2人、男子が2人、そして、ホワイトボードの前に先生と思しき男性が一人。
昼に声をかけてきた新田さんは、こちらに向かって小さく手を振っていた。
「せっかく誘って貰ったから、どんなことやってるのか、話ぐらいは聞いてみようと思って」
「まさか今日いきなり来て貰えるとは思ってなかったよ。 先生、前に話してた鞠片さんですよ。 ほら、例のレポートの」
彼女がそう言うと、ホワイトボード前にいた男性は、あぁ、と納得したように手を叩いてこちらに向き直る。
「あなたが鞠片 果苗さんですか。 あなたの『7不思議検証』のレポートを読ませていただいて、一度会ってみたいと思っていました。 あ、私は森島 和文。 このゼミの……顧問、と言った感じでしょうか」
そう言って軽く頭を下げる、森島先生。
歳は50代前半だろうか、白髪混じりの短髪ニコニコしていて優しそうな印象を受けた。
「顧問……ですか?」
「えぇ、一応“ゼミ”と言う扱いにはなってますが、私が授業をしたりするわけではなく、みなさんが自主的に情報を集めて検証していってます。 まぁ部活動みたいな感じですね」
「それで顧問ですか」
顧問がいるゼミなんて聞いたこともないし、生徒主体で進めるのなら、部活動と言う表現も言い得て妙だ。
「えぇ、ちなみにこのゼミは、民俗学と言う名前を付けてはいますが、風習とかの検証ではなくて、地方地方の都市伝説等の成り立ちとかの検証・考察が主な内容です」
「……なるほど、だからあのレポートなんですね」
「そう言うことです。 なので名前も"民俗学2"。 元々私が個人的に趣味でやっていたんですが、いつのまにか人が集まっちゃいまして、どうせならゼミとして開講と言う形にすればみなさんに単位もあげられますからね。 ただ、存在自体は非公認なので、公にゼミ単位としてはあげられませんが、他のゼミと同じ分だけ“私の授業の単位”と言う形で単位認定してるんです」
学校的には非公認、人数も少ないようだし、どうやらずいぶん変わったゼミらしい。
もっとも、非公認って事は、ゼミと呼んでいいのかも危うい……いや、だからこそ“部活動”なのかもしれない。
「あぁ、ちなみに途中からの参加も大歓迎ですよ。 なにせ“部活動”ですから。 出席分だけ単位を出させていただいてます。」
「なるほど、だいたいわかりました。少し考えてみます」
「えぇ、いつでもいらしてください。 ああ、せっかくです、考察も一区切りつきましたし、今後仲間になるかもしれない鞠片さんに、メンバーの自己紹介だけして、今日は解散しましょうか」
森島先生がそう言った途端、新田さんの向かいに座っていた男子が、待ってましたとばかりに立ち上がる。
「俺、西崎 克也! ――えっと……カナエちゃん、だっけ? よろしくね!」
「バカが……初対面の女性をいきなりファーストネームで呼ぶな! 彼女、引いてるだろ。 ──すまない、バカが失礼した。 僕は東川 雅人、法学部だ。 よろしく」
我先にと挨拶をしてくれた西崎さんは、短髪でガタイもいいスポーツマンタイプ。
東川さんの方は、少し長めの髪で、メガネをかけていて、いかにもインテリと言った雰囲気だ。
「あ、はい、よろしくお願いします」
「(ほらみろ!全然引いてないだろうが!)」
「(あのひきつった笑顔がお前には見えんのか?バカが)」
「(またバカって言いやがったなコラァ!)」
──えっと、仲いい……のかな、この二人は。
小さめの声で激しい攻防を繰り広げる二人を呆然と眺めながら、そんなことをぼんやりと考えていると──
「ごめんね、鞠片さん。 騒がしくて……」
「あ、ううん。大丈夫です」
この二人はだいたいいつもこんな感じなんだあ~、と苦笑を浮かべた新田さんが、申し訳なさそうに声をかけてきた。
「私は、学部が一緒だし、昼にも名乗ったからいいとして、後は祐子だね。 ほら」
「……伊坂 祐子、経済学部」
新田さんに促され、小さくため息をついた伊坂さんは、渋々と言った感じに名前と学部を言い、長い黒髪を揺らしてチラリと一瞬だけこちらを見たあと、そのまま頬杖を突くようにしてそっぽを向いてしまう。
学部も違うし、話すのもこれが初めてのハズなのに、何か嫌われるようなことでもしただろうか……先の二人の時とは別の意味で呆然としていると、それを見た新田さんが、この子人見知りだから……と苦笑混じりにフォローをしてくれた。
「さて、それでは一通りの自己紹介も終わりましたし、今日はこれで解散しましょうか。」
「よっしゃ! 雅人、マ○ク寄って行こうぜ。 んじゃみんな、お先に〜!」
「おい! 引っ張るなバカ!」
森島先生の「解散」の言葉を聞いた途端、西崎さんはすごい勢いで教室を出て行った。
東川さんを引きずりながら……
「相変わらず元気ですねぇ。 あぁ、鞠片さんにはゼミ日程のプリントをプレゼントしますので、参加する気になったら、それを見て直接来てください。 教務にあるので一緒に行きましょう」
「あ、はい、わかりました。 お願いします」
では行きましょう、と教室を出て行く森島先生。
私は、教室内にいた新田さん達に「それじゃまた」と短く挨拶をして、先生を追って教室を出ようとした瞬間、背後から声がかかる。
「鞠片さん! 一緒にできるの、楽しみにしてるね」
明るい声でそう言った新田さんの顔は、昼にゼミに誘われたときと同じ、真剣で切実さを感じるモノだった。
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「……彼女を私達の仲間に加えるって、本気なの?」
日も落ち、淡い月の光と、点々と設置された街灯の灯りのみに照らされる薄暗い路地を歩く影が二つ。
その片方が、まるで嫌悪感剥き出し、といったような低い声で呟く。
「うん、そのつもり。 彼女のレポートはアナタも見たでしょ? きっと……私たちの力になってくれるよ」
「……あんなレポートが何の役に立つのよ。 私達の目的は都市伝説の解明なんかじゃ──」
「わかってる! ……でも、あの場所の事を解明するのが、あの二人──聡美達に、一番早く辿り着けると思うから」
怒気を込めた言葉を遮り、なだめるように、静かに言葉を紡いでいく。
「──はぁ……わかったわ。 でも、どうやって説明するつもり? 本当の事を言ったって、簡単には信じては貰えないと思うわよ?」
「……うーん……それなんだけどさ、とりあえず次に彼女が来てくれたら、“神隠し”について考察してみたいなって思う」
その言葉を聞いて、もう一人は驚きの表情を浮かべる。
「“神隠し”って、そんな事したら、また“アレ”が来るんじゃ……」
「多分、大丈夫。 あの事とは一切関係ない場所での、一般的な神隠しを題材にしようと思ってるだけだから」
「……一般的な、ね」
「うん。 彼女の“科学的視点”での考えを聞いてみたいの。 その内容次第では、正直に全部話して、協力をお願いするつもり。 とりあえず、もし神隠しってだけで“アレ”が来るのなら──」
そこまで言って、2人は顔を見合わせる。
そして、険しい表情で、頷き合った。
脳内補完が起こってしまい、
他の人が読むと意味が分からない所がありそうなのに、
脳内補完が起こってしまうために、
自分が読んでも違和感に気づけないという罠。
初心者あるある、だといいなぁ。