くうとみっちんのとあるにちじょう
上がったよぉ
なんてあざとい声がバスルームから聞こえた。
くうが出てくる。
髪から湯気を垂らして、
その小さな胸元をタオルで隠している。
なんの欲情もなければ、
ひとつも情欲も催さない。
ただ一点、心配事があった。
入って5分も経ってないのにもうあがったということ。
「お前は鴉かよ」
「いやぁー、それほどでもー」
「動物に喩えられて照れるのはお前ぐらいだ」
「えへへーみっちんも入ってこれば?」
「じゃあお言葉に甘えて」
「そうそう素直がイチバンっ!」
何も反論しないまま、
僕は、くうと交代して入る。
お湯が溜められていた。
霧にも相当しなさそうな水蒸気が室内をためなく覆っている。
視界が、白一色に変わる。
何も見えない。
僕は伊達眼鏡ではないのでいちいち外さなければならない。
改めて湯船を見る。
くうが本当に湯に浸かったのか心配になる。
「ねぇ、みっちん!」
ふと扉の向こうから声がした。
「どうした?」
「一緒に入ってもいい?」
「さっき入ったんじゃなかったのか」
「えぇー!?一緒に入っちゃダメなのぉ?」
「誰もそんな事はいってない」
「じゃ入るっ!!」
「入ってもいいとも言ってない」
「ういぃー!みっちんのイヂワルぅ」
怒ってる顔を想像するのも意外と面白い。
眼鏡を落としそうになる。
眼鏡置き場においておかねば。
くうに返事しながら手さぐりで探す。
「入りたければ服を脱がずに入るんだな。入らなければ服を脱げ」
「それ真逆だようぉ。ういぃっー!なら入っちゃうっ」
扉が開く。
溜まっていた水蒸気が出ていく。
視界が少しずつ晴れていく。
そこには、くうが居た。
身体の凹凸部分を湯気が包み込んでくれたと思いきや
それ以前の問題だった。
「お前は馬鹿か」
「いやぁー、それほどでもー」
くうは、
僕の言うことを聞いて素直に服を着ていた。