8話 『シリタイ』
(ついに見つけたっ!あの子か、結構かわいいじゃないか。これは僕の嫁確定だなぁっ)
お前の嫁じゃねぇ。どこのドルオタだよ。
一文はすっかり興奮していた。
(よし、顔は覚えたぞ、出てきたら話しかけよう)
しばらく待っていると、授業が終わったようだ。一文はあの子が出てくるのを待つ。
いざ話しかけようと思ったその時、それは現れた。
バリアだ。
バリアが張られた。バリアといってもファンタジー小説に登場するようなバリアではない。一文のような攻撃力(コミュニケーション能力)≒0の男子はもちろん、攻撃力高めの男子、さらには女子でさえもこのバリアを破れるものはそういないだろう。
そのバリアとは、人である。あの子の友人であろう女子が3人ほどあの子の周りに集まっている。
(やべえ、これじゃ近づけねぇ)
しかし、顔は覚えた。そして、あだ名がミオシンだったので、おそらく下の名前はミオだろう。モータータンパク質か、流石は生物選択者だ。後で入学式のときの名簿で確認しよう。
(そうだ、返事!)
一文は急いで机に向かった。そしてそこに書いてあったこととは、
〈あやしいのでお断りします。ちゃんと授業受けましょう〉
(いや真面目か)
真面目で何が悪い。そもそも一文もちゃんと授業を受けるべきなのだ。
(あ、絵が全部ない)
絵が全部消されていた。頑張ったのでちょっとショックだ。
(そうか、怪しまれたのか。今度実際に声掛けてみよう)
その日一文はあの子のことで頭がいっぱいで終始上の空だった。
そんな一文を正気に戻したのは、帰りの電車の中での出来事だった。一文は電車通学で、いつものように駅のホームで電車を待っていたのだが、そのとき同じホームであの子を見つけた。そのまま同じ車両に乗って、あの子のことを観察していたのだが、ふと視線を外したとき視界に入ってきたものに、一文は目を見張った。思わず二度見もした。
そこにあったのは、尻だった。
(は⁈尻⁈なんで浮いてんだよ)
しかしよく見ると、ハゲたおっさんが並んで立っているだけだった。思わず吹き出してしまった。
(ハゲ頭 並んで立つと 尻頭)
一文、心の一句。
明日で最終話です。