6話 『話題を変えよう』
孤独相を描いた授業の次の授業でも返答はなかった。そこで、一文はもう1匹孤独相のトノサマバッタを描くことにした。そこで、一文は閃いてしまった。
(あれ?これもっとバッタ描けば大群になって群生相になるんじゃね?)
一文はそれを悟ってからは一心不乱にトノサマバッタの絵を描き続けた。
(やったね、これで僕も群生相だ。リア充の仲間入りだぞっ!)
ヤケクソである。
今や一文の机はバッタだらけになっていた。そして授業が終わった。
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一文がヤケクソでリア充に仲間入りした次の日の授業でやっと返答が来た。
〈草〉
〈草生えねー〉
〈ww〉
いろんな人から返事が返ってきていた。しかし、あの子からの返事らしきものはなかった。
(ははっ、バッタだから草ってか、わー面白い)
他の人に「あの子」とのやりとりを邪魔されたと思った一文は、ムカついて消しゴムを手にし、バッタや草の殲滅を始めた。ちゃんと消しておかないと他のいろんな人にも見られてしまうからだ。もちろん今までのやり取りも恥ずかしいので消している。あの子が描いた絵は消せずに残しているが。
ちなみにこの消しゴムはたまに学校の門のところで塾などが宣伝で配っているものだ。一文は貰える物は貰っておく派なのできっちり2回並んだ。他にもボールペンやクリアファイルなどが家に沢山ある。キリのいい数が集まったらインターネットで売りに出そうかと考えている。姑息な奴め。
(このまま放っておいても何も変わらない気がするな、話題を変えてみるか。)
と言ってもどうしたものか。
一文は最近流行りの動画投稿サイト「腰痛部」について書くことにした。腰痛部とは、一般の人でも気軽に動画を投稿、視聴できる一文のお気に入りサイトであり、動画投稿をする人は男女問わず腰痛婆と呼ばれている。
この話題なら返事が来るだろう。
〈僕腰痛婆やってるんですけど好きな腰痛婆とかいますか?ちなみに僕のチャンネル名は「秘密結社GKK」です。良かったら観てくださいね〉
そう、一文は腰痛婆をしている。チャンネル名のGKKとは「害悪キッズ一文」のことである。名前からわかる通り一文は炎上系腰痛婆なのだ。
今までで一番再生回数が多かったのは「電車の中で学歴マウントとってみた」で、810回、次が「電車の中で踊ってみた」の334回である。
秘密結社と言っているだけあってちゃんと共犯者もいるのだが、最近老人ホームに入ったらしい。そう、共犯者というのはただの老害である。
動画では一文はいつも覆面を被っており、顔は公開していない。
しかし何回か職質も受けているし垢BANも何回か食らっている。そしてそんなチャンネルを勧める一文はどうかしている。
しかし相手はたかがチャンネル登録者514人の腰痛婆の存在など知るはずもないので返事は返ってくるだろう。
(ああ、また明日の授業が楽しみだ)
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次の日の朝、一文の目の下には隈ができていた。麻雀を徹夜でしていたからだ。
(ねっむ。今日は5時間目の生物までは全部寝とこ)
いつしか一文にとって「あの子」とのやりとりが「学校に行く理由」になっていた。
一文は今日もウキウキして学校に向かった。
読んでいただきありがとうございます。
7話は明日投稿です。