5話 『チー牛は孤独相』
【チー牛】という言葉をご存知だろうか。
【チー牛】とは、単にチーズ牛丼の略称ではない。じゃあ他にどんな意味があるんだ一言で説明しろ、と言われたら「陰キャ」だろうか。細かく分けると他にも【チー牛】が指していることは沢山ある。例えば、「メガネ」「低身長」「根暗」「理系」「覇気がない」「ぼっち」「童貞」「キモオタ」などなど、それぞれの陰キャのイメージにもよるが、だいたいがマイナスイメージであり、モテない男の典型的な特徴である。そしてだいたい高身長残念ボーイである一文に当てはまる。
つまり、一文は自分は陰キャでキモオタですと言っているようなものである。
実際、一文は外食をするときはいつもチー牛を頼んでいる。いつからか店に入って注文しなくてもチー牛が出てくるようになった。そのときは店の女性店員に顔を覚えられたのかと思って嬉しくなったが、何日か通うようになってからはずっと男性店員が接客相手をし、しかも注文を聞かれずチー牛を出されたので、ただ単に自分が常連になっただけだと悟った。実際はそういうわけではないのだが。
最近一文が驚いたことは、初めて入った店で、
「いらっしゃいませー、ご注文は、あ、3色チーズ牛丼温玉乗せですね〜、サイズはどうしましょうか、特盛でいいですか?」
「え、なんでわかったんですか?」
「え、顔に書いてあるじゃないですか、違いましたか?」
「いや、それであってます」
と、こんなやりとりがあったことだ。
その日一文は店の窓に映った自分を見ながら顔を揉みまくっていたところを警察に通報されたらしい。そのときは職質だけで済んだそうだ。
一文にとって職質は同級生と歩いていて援助交際と間違われたとき以来だった。
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一文がチー牛であることを告白した次の授業では、返答が来なかった。
(あれ?返答が来てないな?なんでだろう?)
理由は簡単、チー牛にかける言葉が思いつかなかっただけだ。
メールや交換日記などをしたことがある人はわかるだろうが、このようなやりとりは一回返信がないだけでもかなり寂しいし、辛いものである。
(嫌われた?いやまさか、そんなことはないだろ)
きっと忘れてるだけだと思い直したいが、やっぱり悲しい。
(返答ないと辛いなぁ、かなぴい、ぴえん超えてぱおん)
きもっ。
気を取り直して一文は今日描く生き物を探すために資料集を開いた。そして、たまたま開いたページのある2文字に目が留まった。
そのページに書かれていたのはトノサマバッタについてだ。
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《群生相と孤独相》
トノサマバッタには群生相と孤独相がある。
孤独相とは、単体で生活する個体にみられる身体のつくりであり、比較的餌が豊富なところでみられ、後ろ足がより発達している。
群生相のバッタはいわゆる「バッタの大群」にみられるものであり、後ろ足に比べて羽がより発達しており、長距離移動に特化している。
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そう、一文の目についた2文字とは「孤独」である。
(あ、これにしよ。孤独相なんて今の僕にぴったりじゃないか)
今日描くものが決まったら、あとは描くだけである。
(はあ、僕も早く群生相になって飛び立ちたいなぁ)
そうして一文は孤独相のトノサマバッタを描き上げるのだった。
説明多すぎた?