2話 『席替えと貯まりゆく運』
2話です。
新しい座席表を見た一文はフリーズしていた。そして盛大にため息をついた。
「はぁーーー。」
なんと一文の周りは男子で固められていた。なら窓から外なり他のクラスなり眺めれば良いではないか、と思うところであるが、窓からは隣の校舎の壁しか見えない。ロマンチックな展開など学校が消せる範囲で消してくる。一文の学校は自称進学校であり、恋愛は禁じられてはいないが、学問に最も必要のないものとして扱われているため、恋の始まりを導くようなイベントは片っ端から潰されていた。例えば夏祭りや花火大会、クリスマスは課外授業、バレンタインは期末試験が被る。
しかしこの席替えの結果は学校の思惑とは別なので完全に一文の運が悪かっただけである。
今回の一文の前後と右隣は野球部やらラグビー部のゴツい男子、斜め前は女子だが彼氏持ちだった、そして斜め後ろは不登校の男子だ。そして左側は窓越しの壁だ。
ちなみに、不登校の男子の名前は牧野といい、一文の幼馴染ともいえる存在である。牧野の家はレストランを経営しており、一文もたまに行くことがあったが、高すぎて何も買えないのでお冷だけで飲んで帰るということを繰り返していると、ある日、
「今日はたくさんお代わりしていいから次からもう来んなよ。」
と、牧野のお父さんに言われた。出禁である。冷やかしなら帰れということだ。お冷だけに。
「マジっすか!あざす!」
部活帰りで喉が渇いていたので、一文は喜び、店のお冷のタンク半分ほどを飲み干して帰った。ちなみに一文は卓球部で部長をしている。部長のお仕事は大変なのでとても疲れるのだ。
「クソガキッ、もう来んな!」
案の定怒られた。牧野のお父さんに怒られたのは牧野のレストランでテーブルクロス引きをして食器やら料理やらをぶちまけた時以来だ。何故その時出禁にならなかったのか不思議である。
(むっ?もう来んなって言ってたな、ということは牧野ん家水屋辞めるのか?まずいな)
牧野の家は水屋ではない、レストランだ。あれから牧野のレストランには行っていないが、牧野とはたまに連絡はとっていた。その連絡もだんだん少なくなっていき、春休み明けから牧野は何故か学校にあまり来なくなった。不登校になり初めた頃、一文はちゃんと学校に来るように牧野を説得しに行ったことがあった。
「おい、不登校なんてやめろよ、不凍港はロシアに狙われるんだぞ!」
「つまらんダジャレ言ってんじゃねえ、くだらねぇんだよ」
まるで氷のように冷たい態度でそう跳ね除けられた。
「もう来んじゃねえよ」
牧野はそう言って去っていった。
「なんでそんなに冷たいんだよ、まぁ、ロシアに狙われることはなさそうで良かったよ。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「はぁ、しっかし今日も暑いねぇ」
「お、おう」
「水でも飲むか、あれ?凍ってるぞ、なんでだ?」
「「「・・・(お前のせいだよっ!)」」」
自覚がないとは恐ろしい。
シャリッ!
「え?霜柱⁈今夏だぞ!スゲ〜!」
その日数人が凍傷で病院に搬送されたらしい。
そんなこともあり、牧野とはあれから話していないが、今周りにいる人とは上手くやっているので、気を入れ替えて次に期待しよう。また運が貯まったと思えばいいさ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
3話をお楽しみに!