ねぇねぇ聞いてよ
『いつまで寝てるのかしら、この男は』
僕をダイアの世界から呼び覚ましたのは、その言葉がきっかけだったんだ。ムクリと寝ぼけまなこで起き上がると、サユとキズナが僕を覗くように観察している。サユは怪訝な表情で、キズナは無表情で生体を観察しているように、じっくりと見つめている。
視線が痛いと思ったのは、初めてで、キョトンと見つめ返す、僕の瞳がある。
『……やっと起きたわね、寝坊助。どんだけ寝る訳よ』
怒り口調よりも呆れに近い言い方で、溜息を吐きながら、両手を胸の前に組んでいるサユは、まるで仁王像のようで笑いそうになる。
どれだけ、高圧的なんだろうって。
『何よ、その顔! なんかムカつくんですけどー』
『……サユ様、感情的になるとお肌にきますよ?』
『うっさいわね。キズナの癖に』
なんという扱いなんだろう。近しい存在でも言い方があると思うんだけど……キズナは傷ついていないのかな?
横目でチラリとキズナの様子を確認してみたけど、動じてない。むしろ堂々としているのが勇者のようで、輝いて見えるのは僕だけかもしれない。
僕の世界でこんな態度を取られると、ショックを受けるか、怒ると思うのに、どうしてこういう時も無表情を崩さないのだろうか、と首を傾げると、キズナが口を開いた。
『どうしました? 頭でも打ちましたか?』
いやいや、今まで君達から見たら寝てたように見える人間に言う言葉じゃないよね? ねぇ。どうしてそうなるの……
『はぁ……そんなどこの馬の骨かも分からない奴、ほっときなさいよ! キズナはあたしの事だけ考えてればいいの』
『ですが……』
『どーせ寝すぎでしょ。ったく、何でこんな男が『ダイア』の所持者な訳ぇ? 意味不明』
さっきから『この男、この男』とうるさいなぁ。僕にも名前があるのに、それも何処の馬の骨とか酷くない? キズナに対しても恋人に言うセリフみたいなんだけど、君達、女性同士だよね。
サユの言葉を聞けば聞く程、カチンときた僕は、つい言葉を荒げてしまう。
「僕にも名前があるんだけど」
『は? あんたに聞いてないんだけど、黙りなさいよ』
『サユ様……』
『何よ、キズナ』
キズナは溜息を吐きながら、起きた僕に向き合う形になり言葉を告げる。
『お名前は何と言うのですか?』
そして僕は、こう告げるんだ。
『鏡 ゲンだよ』
二人が僕の名前を知った瞬間だった――