メアリー
メアリーと名乗る声の主は、直接語り掛けているというより、脳にダイレクトに伝えているような感じで言葉を残していく。声の高さを感じる、そして名前からして女性なのだろう。メアリーは困惑する僕を置き去りにして、続きの言葉を発するんだ。
<驚いてらっしゃるのも無理ありませんね。ゲン様の住んでいた世界との構造が違いますし、本来ならば私の存在は眠り続けていて、気付かれる事も、声を出す事も不可能ですから>
僕はゴクリと唾を飲み込むと、恐る恐るメアリーに問いかけてみた。
「不可能なら、どうして君は話せるの?」
メアリーはくすくす笑いながら、僕の問いかけに返答をしたんだ。
<心臓のない国、ここでしか私が動く事は出来ないのです。元の世界では構造が別になるので……難しい、お話になってしまうので、簡単に考えていただくのが、一番ですよ?>
簡単に考えるって、無理じゃない? 今までこんな現象に遭遇した事なんかないし、理解しろっていう方が無理だと思うんだけど……
<……時期に慣れていきますよ>
その言葉の後に沈黙が続くと思えば、再びメアリーが口を開いた。まるで何かを思い出したかのように。
<私の存在は、内緒でお願いします、色々と大変ですし、巻き込まれたくないでしょう?>
「……もう巻き込まれてるんだけど」
<……これ以上、面倒ごとは嫌でしょう?>
「まあね」
<なら、私との約束ですよ?それではまた、お話しましょう。彼女達が不振に思いますからね>
メアリーは言いたい放題いって、消えていった。姿はよく分からないけど、簡単に言えば『妖精』のような存在なのかもしれないと、夢見心地でいる自分がいる。
そうやって時は流れ、僕は『この国』で生きる選択をするなんて考えもしなかったんだ。




