セバスの新しい住処
牢屋の中が俺の住処になってしまった。ゲンにちからを吸われたせいで残りの魔素をだいぶ減らされた俺はサユにふいを突かれ、今に至る。
全て思い通りになるはずだった……セイの言う通りにすればネイを手に入れれると勘違いをしていたのだ。
「俺は……騙されたのか?」
冷たい鎖に両手を封じられ、メアのちからのせいで、ただの人間になってしまった俺は必要がないという事だろうか。
「馬鹿だな」
自分に向ける言葉は牢屋の中で響き、心をも冷たくさせていく。項垂れる自分を認めたくなくて、何か理由づけをしてしまうとしても……何も浮かばない。
その時だった――
『セバス様……貴方のそんな表情を拝めるとは思いもよりませんでした』
何処からともなく聞こえてくる声。これはセイの声だ。ピクリと身体を動かすと、反応するかのように、姿を現した。
「セイ……貴様」
『おお、恐ろしい……そんなに睨まないでくれませんか? 僕の与えたチャンスをものに出来なかったのは、貴方様の力不足かと』
煽るように楽しむセイに苛立ちを覚えた。まるで立場が逆転しているみたいで、腹立たしい。
「お前は俺を裏切ったのか?」
『裏切るも何も、最初から僕の駒として動く事を選んだのはセバス様ですよ?』
「図ったな」
『終わった事を悔やんでいても何も変えれませんよ? そしてネイも貴方様のものにはならない……永遠に』
セイの言い回しに、引っかかった俺は、声を荒げ、怒鳴る。
「ネイに何をするつもりだ」
『貴方様には関係のない事です……もう準備は整いましたから』
「……お前は言ったよな? サユを暗殺し、ダイアの民衆の者から命を吸い上げる事でネイは身体を手にする事が出来ると……それが、お前の望みでもあると」
くすくすと笑い声が牢屋の中に響きながら、セイは怪しく微笑んだ。
『そんな事、まだ覚えていたのですか? 貴方様を騙す為の嘘に決まっているでしょう?』
「……なんだと」
わざわざ言葉を聞かなくても、分かっていた事なのに、何を期待していたのだろうか。助けてもらえるなどと、甘えるつもりはないが……聞きたくない言葉だった。
「何が目的だ?」
『……今に分かりますよ』
それだけの越して、セイは消えていった。闇に飲み込まれるように、スッと。跡形もなく。
夢を見ていたのではないかと思う程に……
「くそっ」
俺の苛立ちを残して、辺りは再び静寂が訪れたのだ。
何度も何度も繰り返す。
過去の過ちを未来へこぼさぬように……
僕達は本当の意味の始まりに気付く事なく、時を過ごす。
「今度こそは……」




