異色のコンビ
『ゲンが起きたって本当なの?』
サユは大きな声でメアの耳元へと向けた。余程、大きな声だったらしく耳を守るように、少し抑えて放してくれない? と不機嫌そうに言い放った。
『キズナも目を覚ましたのでしょう?』
メアが問いかけるとパッと明るくなっていた表情が、少し曇った。その様子を見ながら、何かあった事を察知したんだ。
『何があったの?』
優しく囁くと、素直になったサユは本音を、語る。
『キズナの様子が変なのよ』
『変って? どんなふうに?』
悲しそうに呟くサユを支えるように問いただす。
『まるで別人みたいなの。あんなキズナ……あたしは知らない』
ずっと一緒にいたからこそ分かってしまう異変。なかった事にするほど、サユは大人でもないし、深い関係性だからこそ、心配にも不安にもなる。当たり前の事。
キズナ本人も気付いていない事に、気付くサユはなんだか親みたい。
『ゲンの様子はどうなの?』
『……相変わらず、無茶ばかりね』
心の底から、そう思ったのだろう。心の呟きと言葉はリンクして、現実味をアピールしている。
『安静が必要ね』
『二人に言える事だわ……なんでもかんでも一人で抱え込みすぎるのよ、本当に悪い癖だわ』
僕と、キズナ、キズキの会話を聞いていたのだろうか。いや、メアなら映像化しながら見ていたのかもしれない。それなら僕に対する発言も納得の出来るものとなる。
『お互い大変ね』
『本当に……』
『とりあえず経過を見るわ。メアもゲンが無理しないように監視してて? ほっとくと何をはじめるか分からないから』
『言われなくても、そうするつもり』
『なら、安心』
今の二人は状況が少し違えど、立場は同じ。だからこそ、余計に共感するのかもしれない。なんだか保護者みたいだ。
そんな二人の想いをうまく汲み取れない僕は、メアにばれないように部屋を抜け出し、キズナの素へと急ぐ。あの二人がいると、色々話したい事も話せないから、このチャンスを逃すつもりはなかった。サユとメアは少し離れた休憩室で話しているようで、キズナの部屋に行くのはたいした問題ではない。
部屋の前に辿り着くと、コンコンとノックをする。ドアを伝って聞こえてくるのは、キズナの返事だった。
「ゲンだけど、入るよ? キズナ」
ここでキズナ、キズキと言いたいけど、あの二人が何処に隠れているかもw狩らない状況で、それはリスクが高いと判断したから、いつも通りの『鏡 ゲン』として接する事にしたんだ。
まるで、何事もなかったかのように――
ガチャッとドアノブをまわして、部屋に入る。すると、上半身起き上がった状態でこちらを見つめてくるキズナの姿があった。
「そのままでいいよ」
僕が来た事に驚いたのか、ベッドから出ようとするキズナを止め、そのままで話しをする事にした。近くにあるイスに僕が座ると、なんだかソワソワしている彼女がいる。
(……やはり、あの夢を覚えているのか?)
そう思いながら、会話を切り出そうとすると、彼女も同じ事を考えていたらしく、言葉が重なった。
「ごめん、被っちゃったね」
『いえ……私の方こそ』
僕は遠まわしに切り出す。
「僕の事は、今まで通りの呼び方でいいよ。僕も今まで通りに接するけど二人は、大丈夫かい?」
今、外に出ているのは、キズキなのかキズナなのか分からないから、そう問いかけてみた。これなら、彼女も理解してくれるだろうと信じて。
『分かりました……ゲン様』
「うん。それでいい」
隠すつもりだった真実。二人を説得し、安定へと導くためには告げる必要があると思ったから言ったんだけど、少し負担になったのだろうか。今まで通りに接するって、少し無理があるよね。
『私からは何も聞きません、しかし一言だけ言わせて下さい』
「うん。いいよ」
『ありがとう、お父様』
その一言があれば、どんな壁も乗り越えてゆける。
純粋にそう思ったんだ――




