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心臓のない国  作者: 法蓮
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キズキとキズナ

ずっと長い夢を見ていたきがします。悲しみやどんよりした気持ちで泣いている私がいるのです。遠目で見ているような違和感を感じながら、、キズキと混ざり合っている事に気付いたのです。いつもの私なら、制止しようとしたのだろうけど、どうしてだか、キズキの願いのまま消えてもいいかな、思っている自分がいました。


「私は貴女を一人にしません」


何故、優しい言葉が出てきたのか分かりません。しかし、もう一人の私……キズキが痛みを堪えているような、我慢しているように見えたのだから、放っておけないのです。


『嘘だ。どうせ、また現実(おもて)に戻るんだろう? 僕を一人ぼっちにして……』


元からキズキは闇を抱いています。多分、私が浴びてしまった魔素(まそ)の影響で、不安定になったのかもしれません。


私、一人の力では彼女を安定へと導くのは、無理でしょうね。自分自身の事でもあるので、分かるのですよ。


どんな言葉を与えても、喜ぶ事はないでしょう。このまま彼女と共にいる、それか、彼女を渡しの代わりに現実(おもて)へと背中を押す事も考えました。


私には、この二つの選択しか残されていないように思ったのです。


皆さまと会えなくなるのがつらくないと言ったらウソになるかもしれません。それでも、私は、微笑みながら彼女を抱きしめ、こういうのです。


その言葉に偽りはありませんでした――そう、あの時までは……



遠いようで近い……誰かが近づいてくる足音がしました。情緒不安定(じょうちょふあんてい)のキズキは、いつもなら気がつくはずなのに、全く、気付く気配はありません。


どうしてでしょう……覚悟をしていたのに、私は彼の存在を受け入れ、彼女に内緒に、ここまでの道を示したのです。


そう、必ず、私達の元へと辿り着けるように……



貴方に出会って、喜びを知った。

いつも笑顔にしてくれる貴方からは、なんだか懐かしい匂い。

愛しさが溢れていたのは恋ではなかった。


そう愛情なのです――



涙が溢れてしまうのです。温かい光に抱きしめられながら子供に戻る、私とキズキ。私達、二人に囁くように、愛の言葉を与え、言ってくれました。


『大丈夫だ、キズキ、キズナ。父さんが迎えに来たんだから――皆の所へ帰ろう?』


私一人の名だけではなく、キズキも含まれている事が嬉しくて、私もキズキもわんわんと泣いてしまいました。


「キズキ、一緒に行きましょう、お父様と一緒に」

『いいの?』


瞳に涙を沢山ためながら、聞いてくるキズキ。まるで妹のようで、可愛らしく思いました。


「勿論です。お父様と一緒に行きましょう」

『うん!!』


貴方が何者なのかやっと分かりました。どうして、このような青年の姿をしているのか、あえて聞く事はしません。お父様もきっと、色々、事情(じじょう)を抱えている事でしょうし。


……しかし、驚きました。


(貴方が、お父様だったとは……)


何故、父と言われ、すぐ受け入れたのか理解しかねるでしょう。私は、この腕の温もりを、鼓動を、声を、そして匂いを覚えているのです。そして、私のお母様であり、サユ様のお母様でもある、ネイ様が私にゲン様の記憶のネガを見せたのです。


それが一番の理由かもしれません。


「『迎えに来てくれてありがとう』」


私とキズキはいつの間にか笑顔になりながら、彼に感謝を述べるのです。


繰り返す事が全てだとは思わない。

新しい物語も、素敵で美しい。

そう思うから、だから、僕達は始めるんだ。


未来へと近づくために――

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