守る為の武器
闇に包まれていると言ったら分かる? 僕の知っているセバスは優しくて、いつも笑顔を絶やさなかった。例え、それが仕事の一環だったとしても。
嘘とは思いたくない、だってさいくら仕事を理由にしても、人間性って出るものじゃないかな。だから元から悪い人ではないし、何かきっかけがあったんだろうと感じたんだ。
一番、混乱しているのはサユのようだ。キズナはいたって、冷静。もしかしたら、こういう瞬間が来るって予期していたのかもしれない。キズナの中で最優先事項は、どんな状況下からでもサユを守る事だから。
『……同じ事を繰り返してどうするのです? セバス……』
『同じ事を繰り返すだと? それはお前達の方だろう』
メアの発言に反応をする彼には優しさなどはない。あるのか怒りと憎しみ、そしてその気持ちを覆いつくす程の果てしない闇しかなかった。
サユは、フリーズしたように、固まっている。余程、ショックだったのだろう。
(そりゃそうか。つらい時もそばにいてくれた人が、裏で手を引いていたなんて信じれないよな)
黒い渦は霧を発生させ、粉というか砂を巻き上げ、民衆の頭上めがけて、降り注がれていく。それは微笑みながら、人を飲み込むと、周りの人々はバタンと倒れ始めた。
「なんなんだよ……これ」
悲惨な現実が僕の瞳の中へ映り込んでくる。人の倒れていく姿、苦しみながら、助けを乞うように、僕達に求めてくるんだ。
「どうすればいいんだ?」
八つ当たりに近い言い方で、キズナとメアに向けて言葉を発する。サユはずっと突っ立ったままで、時間が止まっているようになっている、例え、僕の声が届いてたとしても、現在の状況を把握するような余裕はないだろう。
『これは魔素です。私達は心臓がない代わりに、もう一つの原動力としてマイナスな感情をエネルギーにもしているのです。通常なら、バランスが崩れないようにしているのですが、この魔素が発生してしまうと、自我を保つ事が難しくなり、襲うのです』
キズナの話によれば、人が人を喰らう事例も発見されており、危ない状況だという。なのに、肝心の王女さまは、現実を見ようとしない、それにも腹を立てたよ。だってサユの国の民衆だろう? 守るのは義務じゃないか。
そう思っていた時だった。メアはサユの前に現れ、思い切り、頬をぶったんだ。
『いつまで呆けているの? 貴女は王女でしょう。しっかりなさい』
『……つっ』
『感情的になるのも、ショックを受けるのも、自由よ。だけどね、自分の事を優先するよりも、まずは民衆の事を案ずるのが王女としての勤めじゃないの? 貴女の母、ネイなら、こんな状況を見逃したりしない』
メアからそんな言葉が出てくるなんて思わなかった。だって本来なら、メアが言うのではなくて、キズナが言う言葉だったから、キズナもキズナで、少し違和感があるけど、いつものキズナなら、サユを心配するはずだし、サポートするのに、何故だか今回は行動をしない。
最初はいつものキズナだったけど、この魔素の濃度が高くなればなるほど、どんどん無言になっている気がする。
――嫌な予感がする。
その予感は当たってほしくなかった。これ以上、サユを追い詰める現実を見せたくないのと、ここまで連れてきた僕にも責任はあるから、魔素の事をよく知らなかった、自分に腹を立てるしか知らない。
『キズナ……貴女も急に無言になったわね。濃度が高すぎて、コントロール出来ないのかしら? 一国の騎士がそんなんでは、聞いて呆れるわね』
『貴女に……何が分かるのですか』
『分からないわ、私はゲンを守る事だけしか考えていないもの。貴女達が壊れようが、それは貴女達の弱さが原因じゃないの?』
「メア、それ以上は」
『ゲン、悪いわね。私は辞めたりしない。ネイはこんな未来を望んでいないから余計にね』
メアの口からネイの名前を聞く事が多くなっていた。以前にもダイアの国に来た事があると言ってたけど、もしかして、ネイと仲良しだったりするのかな?
僕の疑問に気づいたメアは、微かに口元に笑みを落としながら、淡々と話した。
『ネイは私の姉なのですよ、だから理解しているのは当たり前です。真相を知る為に、ゲン、貴方を利用した節がある。それは認めるわ。でもね、貴方とは対等でいたいと思うようになった――ゲン……ネイにそっくりね。さすがネイが愛した人』
「え」
『今は語るのは辞めましょう。今はそれよりもする事があるのですから、ゲン様行きますよ』
メアの右手が僕のダイアに触れて、輝きを放つ。その光はセバスの創り上げた闇を浄化してしまう程、神聖なものだった。
『ダイアの光は癒しの光――これで呆けている二人も、マシになるでしょう。能力を開放させます、よろしいですか』
こんな時にあの時の会話を思い出した。noはないyesだけ。
だから僕は大きな声で叫ぶ。
「yes。鏡 ゲンが命じる。解放せよ」
言霊には力がある、そして言葉は新しい武器にもなるんだ――人を守る為の。




