移り変わる状況ときらびやかさ②
お祭りは、笑顔に満ち溢れていた。だからすっかり黒真珠の事なんて頭から離れていたんだ。
メアの言う通りのものなのか、ダイアの国での言い伝えが正しいのか、僕には判断がつかなかったから、脳みそがオーバーヒートを起こして、記憶からストンと消してしまっていた。
結局のところ、自分で都合の悪い事、頭の痛い事はなかった事にしようって、結論だったんだけどね。
(何も起こらなかった、よかった)
祭りも終盤に差し掛かった時だった。僕の言葉がフラグを立ててしまったのかもしれない。
遠くで何かの破裂音と、人の差kr日声が木魂する。僕達は笑顔をさっと捨て去り、音のする方角へ急いだ。
「何があったんだろう?」
『分かりません。しかし非常事態なのは事実ですね』
キズナは深刻な声がそう言い放ち、僕にもプレッシャーを与えた。
――気を引き締めろ、試練が待っている。
そう言われているように感じたんだ。
鼓動は足音よりも響いて、加速していく。ドクンドクンと不安を煽るように、止まる事なんてないんだ。
生きているからとか、ダイア……いや、心臓があるからとか関係なくて、僕の想いが加速しているから、そう感じたのだろう。
先に異変に気付いたのはキズナと僕のようだ。サユとメアとは、いつの間にかはぐれてしまった。王女だから、皆が騒いでいる方向にいるはずとか、甘い考えを抱いていた自分が情けなく思えた。
≪私達はクロスの国を支配する者。ダイアの国も我物にする≫
何処からか聞こえてくる声に苛立ちを感じながらも、サユ達を探し続けた。
『早く、お二人を見つけなければ……祭りの騒ぎを逆に利用するとは…おのれクロス』
クロスって何だろう? 初めて聞く名だ。だけど何も知らない僕でも分かる事がある。
それはこの声の主が敵って事、それだけ。
「急ごう」
相手の思い通りにならない為にも、行動する必要があった。
◇◇◇◇
僕は勘違いをしていた。上の世界はダイアの世界、下の世界はスペードの世界、その二つで構成されていると思っていたけど――実際は違ったんだ。
クロスは中立の国らしい。走りながらキズナが完結に説明してくれた。今の事態を考えると、説明する余裕もないはずなのに、こんな時でも的確に動けるキズナは尊敬の的。
サユの母、ネイがクロスを支配していたらしい。何者かによって始末されたとされたネイはの遺骨はどこにもなく、勿論、サユの元へと戻ってくる事はなかった。
母の名前を知ったのは、その直後だった。立場を隠す必要があったサユはネイの命令でセバスが育てていた。
だから女王ネイの事を母としてではなく、大人の友達として呼び捨てに呼んでいたらしい。
『ネイは何処にいるの? 遊ぶ約束したんだよ――ねぇ、答えてセバス』
『……ネイ様は…サユ様、貴女のお母様は…もう』
悔しそうに悲しそうに言葉を選ぶセバスは、どれだけ苦しんだだろうか。
『ネイが……あたしのお母さん?』
サユの中で何かが弾けた。
ネイから聞いていた、セバスから教えてもらった母の話。どうして今更、気付く事になったのかと……
『やだぁ…いやあああああああ』
嗚咽をあげるサユと止まる事のない悲しみを支えるセバス。この時から、二人は支え合ってきたのだろう。
――本当に、そうならよかったのに。




