移り変わる状況ときらびやかさ①
煌びやかな衣装と装飾品を纏いながら、民衆、いつもの自分とは違う自分へと変化していく。
僕達は観客だ。今日の主役は民衆が主役。何の用意もしていない僕達は脇役なんだ。
女性は髪をアップにしていて、額に翡翠のような飾りをつけて、舞いを踊っている。男性はシンプルだけど、和を感じさせる着物で落ち着きと大人の魅力を演出している。
――僕もいつか、あんなふうに、格好よくなりたい。
<ゲンはどんなにあがいたって無理でしょうね>
聞こえてきたのはメアの心の声だった。どんな状況でも、考えている事、思った事を読み取られるのも、つらいものだね。
最初はかなりな抵抗があったけど、日常の中に織り交ぜていくと、当たり前になってしまえば、こちらのもの。
慣れるって、ある意味ホラーだ。
(反応するとこ、間違ってるよ!!)
<ふふっ。ゲンは今のままで充分、魅力的よ?>
(……また、冗談を)
<そう思うのならそう思えばいいわ。くすくす>
これもひとつの楽しみかもね。
『本当、皆さん、楽しんでいますね』
『そりゃそうよ。今日は特別な日だもの。キズナだって冷静を装ってるけど、内心、ワクワクしてんでしょ?』
ニヤリと嗤いながら、トドメをさすサユ。
『そ……そんな訳…あるに決まってますよ!』
『あら、否定しないの? キズナのくせに』
二人の会話に入ろうとして、ついつい口を出してしまう僕。勿論、メアは結果が見えているから見守っているだけだけど。
「じゃれあわないでよ、見せつけてるの?」
……冗談、ただのジョークだった。そう思っていたのは、僕だけだったみたいだ。
『ゲン様……』
キズナが僕の名を呼んだ時には遅かった。サユの強烈なケリが飛んできた瞬間だった。
『調子に乗るでない、ゲンよ』
調子に乗ってる事を否定はしないけど、それはサユもだよね。お互い様じゃないの?
キズナとサユがじゃれあっていたのに、いつの間にかサユと僕がじゃれあっているみたいになってる。民衆は不思議そうに見ている。僕はこの国からしたら、外の人種だし、見た事ない顔の男が、王女であるサユと楽しく嗤っているなんて、普通に変だと思うよ、傍から見たら……
そんな僕たちを見て、なんだなんだ、と子供達が近づいてくる。楽しそうな笑い声に引き寄せられながら、初めて見る、無垢な姿の、王女としてではなく、一人の女性としてのサユを、皆は見ているんだよ、そう言いたい衝動に駆られた。
『ねーねー、王女さま。何しているの? 楽しそう』
子供達の仲でひときわ目立つ女の子が問いかけてくる。髪の長さは肩ぐらいで少し癖っ毛だ。でも、凄くその子に似合っている髪型で、天使なんじゃないかと目を疑ったくらいだった。
『あら、お目が高い。今ね、意地悪なお兄さんをやっつけてる所なの。貴女も一緒に退治する?』
「おいおい……退治って」
僕は敵でもなければ、モンスターでもない。討伐しても、勿論、報酬なんて貰えないし、楽しくないよ? ね? ね?
『楽しそう』
『ボクもする~』
『あたしも参加したーい』
「え……」
サユの発言には影響力がありすぎる。あっと言う間に僕の言葉なんて聞く耳なくて、サユに従う子供達。
(嫌な予感がする)
メアに助けを求めよう、そう思った時だった。
<――ご愁傷サマです>
聞こえてきた言葉は残酷なものだった。
(メア――)
僕の叫び声が聞こえているはずなのに、返答が返ってくる事などなかった。
酷い目にあった。サユの言葉がきっかけで子供達んとの楽しく、体力のいる遊びに、トコトン付き合わされた。
僕は悪者なのかって程に、コテンパンにやられたよ。
ある子供は、僕にパンチをする。
ある子供は、僕の背中に圧し掛かる。
ある子供は、僕のみぞおちをクリーンヒット。
あるサユ様は…僕を吊し上げ、見世物にして楽しんでいた。
『お疲れ様です』
「……お疲れ様。酷い目にあったよ」
『そのようですね……』
『……ご愁傷サマね』
「キズナもメアも、どうして助けてくれなかったの?」
そう聞くと、二人が一斉に返事を返してきた。
『楽しそうだったから……邪魔しては悪いと思いまして』
キズナはそう言い、メアは……
『楽しそうだったから……折角の吊し上げ、見たかったし』
「……」
楽しそうだったから、は一緒だけど、続きの言葉が違いすぎる。キズナは子供達の気持ちを優先したのは、なんとなく分かる。でも、問題はメアの発言だよ……
吊し上げを見たかった? はぁ?
実際、サユにつるし上げられたよ。よく分からない鉄の棒の先端に括り付けられて、疲れてダウンしている僕を、いつの間にかあんな高い所へと……
(される側はたまったもんじゃないよ)
だけど、子供達が楽しんでくれたなら、民衆が笑ってくれたのならそれでいいと思う自分もいて、くすぐったい。
『まんざらでもなかった癖に』
メアはそう言いながらでも、優しく微笑んでいる。その微笑みで許してしまう自分がいるんだから……どこまで甘いんだろうかと自分を責めてしまいそうになるよ。
「そうだよ、そうだけど」
『楽しかったですか?』
キズナも微笑みながら聞いてくる。そんな表情されたら、反則だよ。認めるしかないじゃないか。
「楽しかったよ、すごくね」
僕はサユとメアの嫌味を少し真似てして、おどけて見せた。




