黒真珠――くろしんじゅ
サユの計らいで街に出る事になった。今日は一年に一度の祭りがあるみたいで、皆で一緒に楽しもうと誘われたんだ。
今までバタバタしていたから、癒しも含めて楽しめたらいいな、そう想いながら、四人で街を出かけようとした時だった。
『――お待ちください』
僕達を呼び止めたのは他でもないセバスだ。どうしたのだろうかと思いながら様子を伺っていると少し恥ずかしそうに、あるものを取り出した。
「これは?」
つい言葉を出してしまった僕に待ってましたと言わんばかりんに、会話を続けたんだ。
『これは「黒真珠」というものです。特別な日に持ち歩くと幸運をもたらすと言われている特別な石です。昨日セイと探してやっと四人分見つけたので、皆さまにお渡ししようと思い、呼び止めました――申し訳ありません』
黒真珠かぁ……やっと四人分見つけたという事は、滅多に入らない貴重な石なんだろう。正直、石よりも探してくれたその気持ちが嬉しくて、受け取ろうとした瞬間、メアが口を開いて邪魔をしてきたんだ。
『初めてお目にかかります、メアと申します』
『キズナから話は聞いています。私の名はセバスと申します、以後お見知りおきを』
ふふっと口元に手を沿えながら、再び言葉を紡ぐ。
『セバスさん、貴方のお気持ちで充分です。私達にはそのような風習はありませんが、別の風習があるので、サユ様達にだけ渡してください。私達は、気持ちを受け取ります』
『そうなのですか、申し訳ありません』
『謝る事などないのですよ? そのお気持ちが嬉しいのですから、ありがとうございます』
セバスとメアの会話がどんどん加速していって、僕がとりつくしまもない状況になった。そんなの聞いてないと言いたいけど、言える雰囲気でもないし、それでも……何かメアに考えがあっての事かもしれないから、僕は彼女の流れに漂う事にしたんだ。
サユとキズナは、セバスから「黒真珠」を受け取り、微笑んだ。
国のルールが違うと大変ね、なんてサユに言われたけど、苦笑しながら、なんとか乗り切る事が出来たから少し安心。
最近では毎日メアと心の会話を続けながら、現実でも会話をする事に慣れてきたので、平行して行動する事に対して苦痛を感じなくなっていた。だからサユ達と表では会話をしながら、ダイアを通じて心の会話でメアに聞いてみたんだ。
(どうして「黒真珠」を受け取らなかったの?)
<……この国では幸運をもたらす石、しかしスペードの国では不運をもたらす石とされています。私達の国……いえ、世界が崩壊をしたのも「黒真珠」が原因ですから>
「そうなの?」
<ええ。ダイアの国でも本当に幸運をもたらす石なのかは言い切れませんが、浸透しているみたいですし、ここは様子見がいいかと……>
真剣な話になると敬語になるんだな、別人みたいになるから凄く厄介。まるで振り回されている感じ。
表で会話をしているのはダミーだ。スペードの国でも上流階級でしか取得する事が出来ない『特別なちから』の一つ。
――取得出来たという事は、今までの事は嘘、偽りがないという事だと思う。
サユ達が持っている二つの黒真珠の事も気になるけど、それ以上に、セバスに対して不信感を抱き始めた僕がいた。
<今更、不信感を抱いてどうするのです?>
(え?)
<あの者が怪しい動きをしているのは明白。そんな事にも気付けないなんて……気付いたと思ったら今更なのね>
(ええええ? メアは気づいていたの?)
<ええ。だから緊急事態だからこそメアリーとしてではなくメアとして姿を現したのよ。空気を読んでいるものだと思っていたけど、本当に鈍感な事>
(……ごめんなさい)
<素直でよろしい。まぁとりあえず、様子を見ましょう、話はそれから>
(……うん)
何も起こらないといいな、そう思うのは平和に慣れてしまっていたからなのかもしれない。僕自身は、過去のネガを見ても、記憶を思い出す事は出来ないし、崩壊した世界を、現在の僕は知らない。
ここでのまったりとした生活しか知らないから余計不安だったのかもしれない。不信感を抱いたのだって、本能的な何かかもしれないと思うんだ。
二人の間の会話を終了し、ダミーの記憶を垣間見ながら、表に出る、僕とメア。話がずれないように、合わせると、簡単に馴染むようになっていた。
どんな意味でも慣れとは怖いものなのかもしれないね。
◇◇◇◇
四人分揃えていた黒真珠の内、二つしか処分が出来なかった。チッと舌打ちをしながら、返された二つの黒真珠を睨みながら、鏡を通じて、僕達の行動を監視している瞳がいる。
『セバス様』
そう呼ぶのはセイの声だ。いつもより緊張しているようで、声が上ずっているように聞こえる。
『どうした?』
『……本当に大丈夫なのですか? 黒真珠、危ないものではないのですか?』
『俺の言葉が信じれないのか?』
『そういう訳では……』
『お前にとっても、俺にとっても必要なものだ。しかしサユ達にとっては悪魔になりうる存在だろうな』
『……』
セバスの言葉を聞いて、黙るセイ。
『納得がいかないのか? しかしお前が望んだ事だぞ? セイ』
『……はい』
腹をくくるしか選択肢のないセイは、無言になりながらも、後ろを振り向かない覚悟を決めた。




