序章の終わり
『面白くないのではありませんか?』
『何が?』
『メアが現れてからため息が多くなったような気がしたので……』
『そう? 考えすぎじゃないの?』
軽く、緩くかわそうと考えていたサユは溜息を吐きながら、右手をひらひらしていた。あり得ないと言わんばかりの態度に、キズナが物申す。
『私は今までサユ様を見てきました。だから余計に理解出来ます』
意気込んで話すキズナをよそに、サユは上の空。いくら仲良くなったからと言っても、僕とメアがキスをした事実が消える事はないから、余計に考え込んでいるようだった。
サユにはセバスという婚約者がいるはずなのに、どうしてだか僕の存在をおろそかに、無視出来ないみたいだ。何故だか分からないけど、記憶のネガが原因なのかもしれない。
『……何が理解出来るというの?』
ポツリと毀れるのはサユの本音そのもの。何が言いたいのか、本当の意味で理解していないキズナは驚きの言葉を口にするんだ。
『ゲン様の事を愛しているのでしょう?』
『っ!? キズナ自分が何言っているのか、分かってる?』
吹き出しそうになりつつも、少しは当たっているな、そう感じながらも、自分の気持ちに気付かないフリをしている。
少しは正解、でも大半は不正解――それが事実なのは変わりがない。
サユは心の中で呟く、また同じ事を繰り返してしまうのか……と、そしてメアのあの姿を見て、驚いた部分もあった。
あの姿はサユの借りの姿でもあったのだから、メアがそれを使っているという事は、記憶が書き換えられているという事。だからこそ、あの姿を見た時、キズナはメアに反応をした。同じ事を繰り返す為に、わざと用意された偽りの記憶にしか過ぎないのに、それに気付いているのはサユのみ。
『そんな簡単なものじゃないわ。愛しているとかそういうのだったら、どれだけ楽か』
ポツリと呟いてしまった後に我に返る。言ってはいけない言葉だと実感しつつも、止める事が出来なかった自分の弱さが歯痒い。
『そんなたいした事じゃないから、安心しなさい。キズナ、貴女に心配は似合わない』
フッと微笑むと、ゆっくりとキズナに近づいていく。そして慈しむように抱きしめた。
『いつもありがとう』
それはサユの素直なキズナに対しての感謝の心。いつもならこんな事、言わないし、行動もしない別人みたいなサユを目の当たりにしても、驚く事のないキズナ。
『それはこちらの台詞ですよ』
穏やかなアルビノ色の瞳がサユを捉えると、サユの頭を撫でた。抱きしめられたキズナは、これ以上聞いてはいけないと判断し、感情を抑え込むように、伏し目がちになる。
当たり前の環境の中で、人との温もりを感じる事が少なくなった世の中で、僕達は凄く恵まれていて、幸福なんだと思いながらも、沢山の想いを胸に、仕舞い込んでいく……
◇◇◇◇
もう少しだ、もう少しでショーが始まる。俺はニヤリと嗤いながら、これから起こる事を考え、身震いをしながら、喜んでいる。
セイは所詮、使い捨ての駒でしかない。ある程度までは部下として置いておけるが、それ以上になると危ないだろう。俺が何を企んでいるのか、全部を知っている訳でもない彼を、手元に置いていくのを躊躇いながらも洗脳をし続けた結果、徐々にではあるが、俺にとってプラスの方向に転ぼうとしている。
(まぁ……今はその時期ではない。使い方次第と言う訳だな……)
心の呟きは荒れる天候のように、黒く染まり、渦を発生させる。
まるで、序章の終わりのように――




