花火と言霊
なんだかんだ言いながらあっと言う間に楽しい時間は過ぎ去っていった。最初は重苦しい雰囲気でどうなるのか不安だったけど、流れに身を任せればどうにかなるものなんだな、そして女性の不思議さに驚いた。
あんなに言い合っていたのに、少し時間が経つと仲良しになるとか……そんなものなのかな? 男の僕には理解出来ない。
(でも、よかった、ヒートアップしなくて)
<ふふっ。あれ以上悪くなる事ないわよ、心配性ね、ゲンは>
(……メア!!)
<驚いた? 私は離れていてもこんなふうに貴方とコンタクトを取る事が出来る。これはキズナ達も知らない事だから――二人の内緒ね?>
何でも知っていると思ったのに、キズナにさえも隠している事がある事に驚きを隠せなかった。
(どうして隠すの?)
ダイアを通して、メアと会話を続ける僕は現実の世界ではベッドに横になっている状態で、誰が見ても眠っているように、工作してる。
<色々知られると、また過去のネガを見せつけられた時のようになりますよ? それでもいいのですか?>
敬語で突き放すメアは現実のメアとは違って、冷静で深刻そうに語る。僕はお茶られる暇も与えられずに、首をたてに振る事しか出来なかった。
そうすると、くすりと微笑むメアの声が聞こえてきた――少し安心したのは内緒。
<業務連絡はこれくらいね。今日は疲れたでしょう? おやすみなさい、ゲン>
きっと僕に聞きたい事があったはずなのに、心を見る事が出来る、僕のダイアの一部の存在のメアは知らないふりをして、微笑んでいる……そんな気がした。
僕は、その優しさに埋もれながら、ありがとうの代わりに呟いた。
(おやすみなさい)
ダイアの中の自分も、現実の僕も、深い深い眠りについたのは言うまでもないよね。
ゆりかごは永遠の揺れる
まるで人の想いのように
まるで人の涙のように
揺れては揺れて
新しいゆりかごになっていく。
これが変化――
夢を見た。温かい夢を、長い夢を。僕は輝く世界の中で、宙に浮きながら花火を見ている。沢山の空に響き渡る音と共に、まばゆくも激しい光を見つめていた。
実際は花火ではないと思う、何故そう感じたのかは、僕自身の価値観が原因じゃないかな。
宙に浮いている僕は、少しずつその光へと手を伸ばそうとする。後少し、もう少しで、手が届きそう…そんな瞬間だった。
何処からか声が聞こえてきたのは。
「ねむい」
『朝です』
「寝かして」
『もう八時ですよ、寝坊は許されません』
大げさだなぁ……ただの寝坊なのに、時間に追われる事なんてないのに、どうしてそんなにカリカリしているんだろう。カルシウム不足かもしれないね。
(この世界にもカルシウムあるのかな?)
分かんないけど、ある事にしとこうか、うん。
『ゲン様、起きてください』
「もう少しだけ~」
『ゲン様!!』
痺れを切らしたキズナは布団にくるまっている僕を引っ剥がした。強引な起こし方だなぁと思っていると、ダイアを通じてメアのくすくすと笑い声が聞こえてくる。
<王様~、お時間ですよ>
言霊はちからを持つ、そしてメア自身もそうだ。
あんだけキズナが起こそうとしても起きなかったのに、メアの一言で飛び起きる。
<これが言霊のちからだよ。おはよう>
メアの言葉に誘われるように、支度をはじめた僕を、驚いた瞳でキズナが見つめている。




