こういうのも悪くない
過去の唾狩りが、こんな身近にも存在してたなんて知る由もなかった。僕とサユは会話の中心から外されいつの間にかメアとキズナがメインで話を進めている。
『どうしてそんな破廉恥な事をしたのですか?』
『別に何しようと私の勝手よね? 貴女に何の関係があるの?』
『……あるに決まっています』
言い切るキズナに溜息を吐くメア、二人の会話はこのまま平行線で進んでいくと思っていた。僕とサユは圧倒されながらも、その光景を見つめている。
震えながら泣いてたサユでさえも、今では何もなかったようにケロッとしている、それがまたにくたらしくもあるけど、その変は『触らぬ神に祟りなし』だ。
(そっとしておくのが賢明だな……)
一つ輝くダイア、もう一つは賢明なスペード。
一人の女王は若くもじゃじゃ馬を発揮しているサユ。
一人の王は過去のネガを失い、自分が何者かも理解していない僕、ゲン。
女王には頼れる騎士の一人のキズナが傍にいる。
王には守り神と称される一人の女神のメアがいる。
こうやって二つの世界の王、上の世界と下の世界の僕達が出会う事など、誰が考えたのだろうか。誰も想像もしなかったと思う。
しかし、こうやって出会い、縁が出来、僕達は本来の自分の役目に気付きながら、同じ事をループしていく。
それに気付かずに、心臓のない国で何かが動き出していた事にも気付かずに――
≪二つの世界の鍵を握る存在があいまみえる時、本当の時間は動きだす≫
『そうだろう?――セイ』
『貴方様の仰せの通りです、セバス様』
『もう少しで時間は来る。それまでサユ達には幸せを感じさせてやる必要がある』
『サユの母上の時と同じ……ですか』
『ふっ、口を慎め』
『……申し訳ございません』
『いい子だ』
二人の会話は闇に消える、そうやって、知りたくもない、見たくもないものを見る予兆と化していく。
◇◇◇◇
メアの一言でお茶会をする事になった。今回執事は必要ないと拒否したのはメア本人だった。
『ゲン様もそう思うでしょう?』
そう聞いてくるメアには逆らえない威圧感を感じていて、ここもyesと言え、と脅迫されているように錯覚してしまう。
(女性って……こんなに怖かったっけ?)
心の言葉は誰にも届かない、見えない、聞こえないから大丈夫と安心しているとメアが口を開いた。
『何を安心しているのですか? 筒抜けですよ』
「……何の事?」
ギクリとしながらも、サユ達に悟られないように、演技をしながら、紅茶を啜る。僕は何もなかったように話題をすり替えて、言葉の鎖から逃げようとしてみる。
それがいいとは思えないけど――方法が分からない。
「四人でお茶会を開くのもいいね、凄く新鮮で。そう思わない? サユ」
『……そうね。ってどうしてあたしにふるのよ、意味不明』
「まぁまぁいいじゃんか」
『そうですよ、サユ様。ゲン様もこう言っておられるのですから』
『……キズナ、あんたはゲンの味方なの?』
『ええっ』
「ここは喧嘩をする場じゃないだろ? 楽しもうよ、ね?」
少し弱い口調で説得すると、僕とサユの目線が合った。その瞬間、サユは頬を赤らめて、フン、と目を逸らした。
(顔が赤いけど、熱でもあるのかな?)
どこまで鈍感なのかしら、と僕の心の呟きを聞きながら、紅茶を楽しむメアがいる。
『こういう時間も悪くないね』
形上、僕の事をゲン様と呼ぶのだけど、時々、素が出るのか呼び捨てに変わる時がある。公務の時は基本、様付けで呼ぶと言われたけど、初めの挨拶だけ様付けをして、今はリラックスしているのか、口調も僕の知るいつものメアになっていた。
メア的には気をきかして、サユの前だからこそ呼び捨てにならないようにしている事に気付くのは、まだ先の話。
『そうね』
フンと素直になれないサユは、なんだかんだ言いながらメアの言葉に同意をし、紅茶の味と、僕達との時間を満喫しているように思えた。
僕の思い違いではないと思うよ――多分……




