ダイア
自分の身体なのに、うんと動かす事が出来ない。まるで魔法にかかっているようで、こんな感覚、初めてだったんだ。
僕は何か温かいものに包まれている。なんだろうこれか
――あ! これは風?
僕の心の呟きにリンクするように、ダイアが正体を見せていく。僕の心の中から宙に浮いている。まるで魂が空へ吸い込まれるように、輝きを放ちながら、体から分離していく。
「凄いわ。初めて見た。美しいとは聞いていたけど……ここまでとは」
輝きは光に代わり、命の芽吹きに変化していくんだ。
バシューンと風が吹き荒れながら『ダイヤ』を包んでいく。まるで台風だ。
「ちょ……ここ部屋なんですけど。ハリケーンが何故?」
声の主は驚きながらも、少し焦っているようだ。初対面で僕を侵入者とか言って、ボコボコにした奴の焦る顔、正直見てみたいよね。
生憎、現在の僕はその光景に拝む事なんて無理なんだけどさ。
よく分からないけど『ダイア』と言うものが身体から出始めた瞬間から、力が入らないんだ。まるで木の枝のように、動けない。
<……マ……スター……>
どこからか掠れた音のような声が聞こえた気がした。非現実的な状況に陥っているから軽くパニック症状を発症しているのかもしれない。
……て、事は。これは幻聴か?
そう考えるとさ、自分もうやばい状態なんだなーって実感してしまう訳さ。これは幻聴じゃなくて夢なんだ。今まで僕を取り巻く全てが夢だと決め込むのが、自分を守る方法だから。
<……夢…ではないですよ>
存在なんてないはずだ。確認出来ないけど。だってさ、この国を創ったと言う女の子以外は知らない。それに彼女自体も、この声の主に気付いていないみたいだから。そう言われても、正直困る。
そう思った瞬間だった。僕の心を読み取っているように、自分の存在を知らしめるように、僕の体に触れる。手を口を耳を、そして呟きを……
<私は皆の者から『ダイヤ』と言われる存在。そして貴方、ゲン様がマスターです>
マスター? マスターって何? 僕の国にもそんな用語ないよ。知らない言葉ばかりで驚いてしまう。口を開きたくても、言葉を発したくても、言う事を効かない体がもどかしい。
<無理なさらないで。私を実体化したのですから。負担が大きすぎる。初めての召喚ですからね。あの女には私が見えていません。安心してください。そして私は貴方様の心そのものですから。人間の言葉を使う必要もないのです>
僕は何も知らないよ。気がつくとこの国の前に立っていて、こうなってしまったから。君の言う事も、理解出来る状況じゃないんだ。
不安をそのまま言葉にしてしまう僕は『弱虫』なのかな?泣き虫で弱い、こんな自分嫌いなのに、どうしてだろう。
――受け入れるしか選択肢はない気がするんだ。
運命なんて言葉で終わるようなものじゃなく……これは『宿命』なのかな?