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心臓のない国  作者: 法蓮
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書庫

最近、毎日が凄く早く過ぎ去っていく。どうしてだろうか。少し前までは不安でいっぱいだったのに、今ではなるようになる、と言い聞かせている自分がいる。


この国で生活をしていると、色々な事に気付く。連絡手段は鏡のみ。体の中に時計があり、正確な時間を把握出来る。後は、一部の人間に予知能力があるらしい。


どうして予知能力があるなんて分かったのかというと、キズナに何かする事ない? と聞いた事があったんだけど、その時に、ならば書庫に行ってはどうでしょうか、と提案してくれて、この国の事を知る一環と暇つぶしで本を読む事にしたんだ。


広がる本達の寝床は別世界。その光景に眩暈を覚えてしまう程だけど、それも新鮮でいいかもしれない。


「沢山あるな、何から読んだらいいんだろう?」

『これなどどうでしょうか?』

「ん?――この国の予知能力の基盤(きばん)?」

『興味深いお話ですので、ゲン様もお気にいるかと……私のお気に入りの一冊でもあります』

「へぇ、そうなんだ。ありがとう、セバス」

『いえいえ』


……あれ? 僕一人で書庫(ここ)に来たよね。どうしてセバスがいるんだろう? そして何故、僕は当たり前のように、疑問も思わずに会話をしてたの、警戒心なさすぎる。


「セバス? なんでここに?」

『くすくす、気付くのが遅いですよ、本当面白い人ですね、ゲン様は』

「集中してて、気付けなかったんだよ」

『私と会話してたのに?』


痛い所をつかれた。耳まで真っ赤になってしまった僕からは何も言えない、言う言葉が見つからないから。


「……もういいでしょっ」


数秒経って、僕は()ねた。うん、拗ねたよ。だって逃げ場がないんだもん。セバスは一度狙ったら獲物を逃がさない狼のようだし、すぐに言葉でからめとられるんだ。


『くすくす、今回は逃がしてあげましょう。私の言葉は鎖になるのでお気をつけを。絡みとられたかったら、いつでも願いのままにしますが、検討するのもいいと思いますよ?』


「からかわないでよ……もう! そんな事よりもセバスはどうして書庫(ここ)にいるの?」


『そんな事とは、悲しいですね。まぁよいでしょう。書庫(しょこ)は私が管理している管轄(かんかつ)なのですよ。時々、様子を見に来るのです』


「そうなんだ」


言葉では分かったふりをしながらも、頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされていった。そんな僕に気付いたように、言葉を付け足したんだ。


『私だけが本の配置などを全覚えています。頭の中に全部叩き込みましたので、タイトルか著者、それか私のオススメでよければお探ししますよ?』


こんな大きな書庫の本の配置を覚えているって、やばいよね。普通の人間の出来る芸当じゃないよ。だって書庫(ここ)は僕が知る中でも一番大きな図書館なんだから。入って、見た瞬間にすぐ理解したから。桁ちがいだもん。


『頭脳に記録出来ているのが私しかいないので、本の状態や紛失してないかなどチェックを定期的にしているのですよ。本も人間と同じで繊細ですからね』


そう言うと、先ほどの本に手を置き、僕に『この本でお勉強するのもいいと』と耳元で囁いてきた。僕は力の抜けないように、ダイアを隠すように両手でしっかりと胸元を隠すように本を持ちながら、彼の言葉から逃げた。


僕の手とセバスの手は本を通して、後数センチの所で、留まっている。


まるで時間が止まったかのように感じたのはどうしてかな? 不思議で不思議で仕方がない。セバスといる時はいつも空間が違う。


その時、どこからともなく女の声が脳内を駆け巡る。


『言霊は言霊ではねのけるのです。それがゲン様の力なのですから』


声に出そうになるのを抑えて、脳内で問いかける。


「君は?」


『私には名はありません。貴方にとってその方がよいのですから。メアリーと私は貴方の味方です。セバス……あの者には気をつけてください』


一方的に切られた会話からハッと我に返ると、目の前には心配しているセバスがいる。その様子を見ていると、どこを気をつけるのか、と言いたいくらいだ。


ただ一つをのけて――そう言葉だ。


セバスの言葉には見えない力がある。それを使うと人の心を操る事も出来てしまう恐ろしいものがあると、思う。直観もあるけど、自分で経験して、理解した部分が多い。


言霊は言霊で返す、か――

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