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心臓のない国  作者: 法蓮
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僕の本

少しのきっかけをものにしたかった。チャンスというものは当たり前のように転がっていて、俺を支えてくれる存在の一つにもなるのだ。


ゲンの元を去り、書庫へと訪れた。サユからの命令だ。ある本を探してほしいと、俺は執事であって、何でも屋じゃないんだが――仕方ないか。


俺は紙に書かれた数冊の本のタイトルを読みながら、書庫を歩いていく。この城の書庫は凄く広くて、俺以外の人間は把握しきれてない程だ。


なんでだろうな――頭脳に叩きつけるのも楽しいのに、他者はそれをしたがらない。そして俺はそれを簡単にこなしてしまうからこそ、いい意味でも、悪い意味でも目立ってしまう。


色々考えながら、スルリとダンスをするように、お目当ての本を手に取っていく。なるべく時間短縮しないと、この量の本を集める事は難しいだろうな、他者は。でも俺は違う。余計な時間を使いたくないから、このスタイルでしているだけ。


最後の本になった時に、ハタと足が止まった。




タイトル『過去と未来の再生』

著者 『鏡 ゲン』



メモにわざと最後に書かれたサユの心の揺れを見た。ゲンが来てからサユは変わった。俺に見せていた笑顔をゲンに見せるようになり、普通なら警戒してもおかしくない人物なのに、ダイア所持しているだけで、異例の待遇。全て納得がいかなかった。サユの一番は自分だったのに、急に出てきた男が全てを逆にしてしまったのだから……


出てきそうになる溜息と失望をこらえながら、表情を変える事なく、淡々と探しにいく。そう言えば、この本あったな、あの男の名前、どこかで見た事があると思ったが、書庫(ここ)だったか。


きっとこの行動もサユの鏡から筒抜けなのだろう、だからこそ仕事は仕事、いつもの自分を崩さずに、後で少しおどけてやればいい――心の中で闇に埋もれた俺がニヤリtろ微笑みながら、彼女をどう追い詰めようかと考えている、うさぎの皮を被った狼でいる為に。




溜息なんて出ない。俺は強いから。

彼女はいつも自分を見てくれていた。

だからゲンに渡す訳にはいかない――これは嫉妬なのかもしれない。




晴れていた空は少しずつ曇っていく、次第に色も形も変化し、嵐になった。その様子を民の者も不安そうに見つめているのが、見える(・・・)。セバスの嫉妬が天候までを荒らしたのだ。


黒い渦は空を覆いつくし、全てを破壊しそうな勢いで動いていく。


しかし同じ事(・・・)を繰り返さないようにしているのだろう。いや、まだその時じゃないから、隠したかった力なのかもしれない――それでももう一つの世界の王である僕が書いた書籍の事が、余程気に入らなかったんだと思うよ、サユがそれ(・・)を探してこいと言ったのなら余計に。


遠まわしに他の作品をメモの最初に書きだし、複数書く事によって、僕の本をメモの二枚目に持ってきたのだろう。


セバスの性格なら一枚目は確認するだろうが、後は書庫での確認をしながら、手に取っていくというスタイル。それを知っているからこそ、出来る行動の一つだと思う。


『感情を出す事はしなかったわね』

『ええ……そうですね』

『でも変よね? あの書籍の名前を見ても驚かないなんて、逆に(・・)不自然だわ。そう思うでしょ? キズナ』

『同感です、きっと感情が抑えれなかったのかもしれませんね、抑えるので必死だったのでしょう』

『そう』

『嫉妬だと思います――サユ様は愛されておられるんですよ、何もここまでしなくても』

『あの書籍は必要だから頼んだのよ。偶然(・・)にね。あたしの意思じゃないわ。でもおかげで収穫はあった』


キズナは何の考えもなしでサユが動いていると考えているのだろうか? もう一人の自分――キズキなら、サユの考えている事が分かるのだろう。


サユはキズナの抜けている所を利用し、話を合わせる事に変更したんだ。一度は否定をしてしまったが、もしセバスの耳に入ってしまう事があれば、面倒だからだ。キズナがいくら考えなしだとしても、サユの存在が心を占めているからこそ、言う事はないんだと思う。


念には念を入れて、言わないで、内緒にして、なんて言わない。


これがサユのスタイルであり、セバスも同じ行動をしたのだから――

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