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心臓のない国  作者: 法蓮
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言葉の色気と言霊

些細なきっかけで運命が動き出す。

僕とセバスの出会いもその中の一つだったんだ。


「セバスさんですか……よろしくお願いします」


こんなきれいな人、ここにいたんだな、と思いながらたどたどしい言葉を(つむ)ぐと彼が僕が緊張している事に気付いたように、微笑みかけてくる。


『大丈夫ですよ、そんな緊張しなくても。ゲン様』

「どうして僕の名前を知っているの?」

『私はサユ様のお傍にいるのが仕事なので、貴方様の事を聞きまして、話してみたいと思ってたのですよ? 夢が叶いました』


セバスは大げさな言葉を吐きながらも、瞳は真剣で、目を逸らす事が出来なかった。きっと、これも仕事の一環(いっかん)であり、(おだ)てているだけに決まっている、そう思うのに、どうしてだか惹きつけられる彼の瞳の奥に。


緑色で覆われる瞳は太陽の光が反射して、より一層輝いている。


(――なんて綺麗な目なんだろう……)


さっきから自分が変なのが分かる。どうしてだろう、人に興味を抱く事など殆どないし、サユやキズナと出会った時とは違う、異質な空気が流れていて、どうしてもはねのける事が出来ない。


まるで纏わり付けられているような感覚でもあるが、嫌悪感はなく、逆に居心地のよさを感じてしまう程だ。不思議で不思議で堪らない僕は、ボンヤリとしながら、逃げるように、セバスから瞳を逸らし、空を見た。


その様子に気付いたセバスは、ふっと微笑みながら、彼もまた僕と同じ行動をする。まるで共鳴しているように、真似をする。


僕は気付けなかった、彼の瞳の奥にわずかに顔を出した闇の存在に……


『ゲン様、空は青いですね、まるで貴方様の心のように澄み切っていますね』


セバスの言葉は全てが肯定的で否定をする事がない。不思議な言葉の使い方をしている。どうしてだろう。そう言えば、あの頭に流れてきた僕の過去であろう映像に言霊は力を持つとか言ってたな。


「セバスさん、恥ずかしい」

『ふふふ。セバスとお呼びください。『さん』は必要ありません』

「でも…初対面なのに」

『それは重要ですか? サユ様やキズナが認めたお人からそう呼ばれる事は光栄な事なのですから』

「そうなんですか?」

『ええ……それと敬語もおやめください。私との約束です』


言葉に色気がある。どうしてだろう言霊の事を信じる訳じゃないけど、彼の口走る言葉には何か力が宿っている、そう思うほか納得が出来ない程なんだよ。



どうしてだか、少し胸騒ぎがする――



色々な感情や考えが交差する中で、ただ青い空だけは変わらず笑っている、本これが本当の優しさなんだなと思いながらも、その場から離れる事が出来なかった。


思い出したように、口を開く。さっきの会話の返事をしなくてはいけないから、彼の要望通りに言う事にしたんだ。有無を言わさない、力を感じたから余計に、逆らうのは今じゃない。


「わかったよ、セバス。改めてよろしくね」


今の僕が自分らしく表現出来る唯一の言葉を投げかけると、たれ目なが微笑むと余計たれ目になり、それが優しさを演出しているみたい。


『はい、よろしくお願いします、ゲン様』

「あのさ……その『ゲン様』ってのもやめてくれないかな?」

『それは出来ません、キズナもそう言っているのでしょう? なら私がそう呼んでも問題はないはずですが……私では嫌ですか?』


最初ははっきりと強い口調だったのに、最後は悲しそうな口調にいつの間にか移り変わっている。セバスが呟くと自然に聞こえるのは彼のいい所なのかもしれない、そう思うと、ハタと時が止まったかのように、もう一度考え、訂正する。悪用すると、面倒な才能だと――セバスがそんな事をする事はないとは思うけど、自分の状態を受け止めれない僕はどうしても、疑問を抱えてしまう。それ以外にも理由があるのだろうけど、言葉に出来ない、どう伝えたらいいのか分からないんだ。


プラスに見えるもので力を感じたら、道、いわゆる選択肢を間違えてしまうと脅威になる、人を陥れる事も出来るし、クモの糸のように絡みついて離れない言葉の糸は、人の人生さえも変えてしまうものだから――


「そんな事ないよ、呼びたいように呼んで」


どうしてだろう、先ほどまであてられていたようにクラクラしてたのに、誰かに守られているみていに、温かい風が僕の体と心を包み込んでいく。それは今まで感じた事のない最上級の安心だった。


少し冷静を取り戻した僕は、セバスとの心の距離のバランスを上手く計り、距離を取る。防衛本能に近いかもしれない、そうしないといけないと感じてしまった。



その会話を最後にセバスは微笑みながら、またお会いしましょうと僕の元を後にした。彼のいなくなった空間には微かに残る香りが漂っている。


それでも最初とは違い、慣れてきた自分がいた。

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