素直になろうよ
好きな事は好き、嫌いな事は嫌い。
素直になるだけで世界って違って見えて、新鮮さを感じる事が出来る。
君も素直になってみればいいと思うよ。
色々な事を教えられた。知りたい気持ちと何も聞きたくない気持ちが合わさっていたのが実情。それでも知るべきだと感じたから、聞きたくない、知りたくない気持ちを抑えて、キズナに聞いてみた節がある。
もしかしたら、ただの好奇心かもしれないけどね。
サユがカギを握っているらしいけど、そう簡単に教えてくれるのかな。僕の事不審者とか侵入者とか怪しんでいるし、警戒もしていると思う。
キズナが言うには気に入られているらしいけど、そうは思えなかったんだ。
念の為にもう一度キズナに聞いてみようと心に決めた瞬間に、サユが姿を現した。確認をとっていない以上、今回の件は僕個人の判断で問いただすのは難しい。タイミングを失った現実に、呆気にとられながらも、流れるように流れていく。流されてく僕だった。
『あら、もう帰ってきたの? 一人の時間を満喫してたのに~』
僕達の間の会話を知らないサユは、呑気にそう呟いた。ルンルンと鼻歌なんか歌っちゃって、何かいい事でもあったのだろうか。
「……酷くない、それ」
『何よ~。迎えに来てやったんだからありがたく思いなさいよね! ゲンの癖に生意気すぎ~』
……ん? 今僕の名前を呼び捨てで呼んだふうに聞こえたけど、幻聴だよね、これ。
ここは突っ込むべきだと思ったかrた言ってみたんだ。どんな態度を取るのか未知数だけど、試したかったのもある。
「今、ゲンって名前で呼んだ?」
『あら。不審者のままの方がよかったかしら』
「いや、名前の方がいいよ、凄く嬉しいし」
名前を呼ばれただけで、こんなに気分が変化するなんて考えもしなかった。さっきまでの深刻さはどこにいったんだろう。
『そんな事はどうでもいいから、早く夕食にするわよ。ボサッとしてないで中に入りなさい。ほら、キズナも』
呆気にとられたのは僕だけじゃなく、キズナもみたいで、このいつもよりも親密になれた空気感が面白くて、抜けていて、なんだか笑いがこみあげてきた。
キズナも同じだったようで、クスクスと笑っている。
『な~に笑ってんのよ。意味不明』
呆れたように言うサユもまんざらでもなくて、なんだか少し穏やかになっている気がする。もしかして、いつもの僕達とは違う事に気付かれたのかな。近くに来るまでサユの姿に気付かなかったし、まさか迎えに来てくれるなんて想定外だったからさ。
『サユ様も微笑んでいらっしゃるじゃありませんか』
『はぁ? 何言ってんの、キズナまで。二人していじわるしようと考えてるなら、容赦しないんだからね』
「おいおい」
『あんたは黙ってなさいよ、あたしはキズナと話してるの、部外者は引っ込んでなさいな』
『……サユ様』
「部外者って」
僕達二人が暗い表情をしていても、サユのいさぎいい、態度とあっけらかんとした話し方で、ここまで空気が変わるんだな、そう思いながら、僕達は城へと戻ったんだ。
心臓のない国の王女の住まいへと――
◇◇◇◇
時間は流れ、僕達は夕食をとった。目の前には美味しそうなシチューに似たものがある。そなえつけはパンだ。この世界に来てから何も食べてなかった事を思い出したかのように、お腹の虫がなってうるさかった。
『『凄い音』』
二人にそう言われて、頬が熱くなった。そんなタイミングよく同時に言わなくていいし、僕のお腹の虫もKYだ。空気を読んでほしいよ。
「うるさいなー」
キズナは食事を中断し、口元に手を沿え、お上品に微笑んでいる。少しくすくすと聞こえるけど、配慮として、我慢しているんだろう。反対にサユは豪快に食べながら、ケラケラ笑っている。
どちらが女王なのか、分からなくなる。正直、おしとやかさはキズナがダントツだもん。
『なーにじろじろ見てんのよ。あんたも調理してあげようか?』
二人の様子を観察していると、サユが毒を吐きながら、ニヤリと怪しく微笑む。まるで子供だ、いや、子供そのもの。
「なんでもないよ」
ここで立場が逆なら納得がいくけど、下品なサユが女王ってありえないよね、なんて口が滑っても言えない。
言ってしまったら、スプーンや食器が飛んできそうだし、ここは大人になろう。
『ふ~ん。怪しい』
「気にしすぎ」
僕をフォローするように、キズナも話を合わせてくれている。そして言葉で支えてくれるのがありがたい。
『そうですよ、サユ様。楽しみましょう、お食事を』
『うーん。納得出来ないけど、それは当たり。食事は楽しみながら食べるのが一番なんだから』
「そうだね」
『ふふっ。お二人とも仲良くお食事をとられている。凄く、嬉しい光景で感動してしまいました』
『は? こんな事で感動とか、どんだけなの。ほら、ゲンも何か言ってやりなさいよ』
僕は沢山の入り乱れる楽しい会話の中でシチューの中に入っているお肉をつついていた。僕の世界にも色々な食材があったけど、これは、どんな動物の肉なんだろうと考えながら、掬って口に運ぶ。
すると、じっくり煮込まれた肉は、口の中であっという間に溶け、味が広がっていく――何て美味しいんだろう。
『ちょっと、ゲン聞いてんの?』
「うん」
本当はサユに色々聞きたい事があるけど、この楽しい空間を壊したくない。
だから、何も知らないふりをして、食事を楽しんでいる自分がいる。




