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黒い渦

ゲン様を包み込んでいる液体は少量でも体内に入ると記憶を導き出すものとなります。きっかけを与えて、隠された記憶を引き出し、カプセルに映像として移されるのです。


もう一人の私が何かのたくらみをしているのは明らかで、正直、その通りに動くのも嫌ですし、見たくもありません。


しかし『サユ様の為』と言われてしまったのですから、立場上、確認するしか出来ないのです。


『すみません、ゲン様』


私の声がゲン様に届く事はありません。貴方様は記憶の嵐の渦中(かちゅう)にいるのですから……どんなに叫んでも止められない、止まらない。一度スイッチを押してしまうと、後戻りが出来なくなるのです。


昔、罪人がいました。何度問いかけても本当の事(・・・・)を話さない罪人を過去の人々は見過ごす訳にはいきませんでした。サユ様の母上を(あや)めたのですから、皆の者が怒りに身を任せるのは当然かと思います。


この装置は全ての真実を暴く為に創られた過去の産物――どのような構造で作られたのか、過程などは分かりませんが、この装置の力は未知数と言われております。


その罪人は耐え切れず、ショートしてしまい映し出された記憶の映像だけが保管され、体は跡形もなく、消滅したと言われてるのです。


だからこそ、私自身はこの装置を使いたくなかった。


体の主導権を握られている自分が歯痒く、もどかしい。後悔の念でいっぱいです。


私は、ゆっくりと映し出されつつある映像を見つめながらも、ゲン様に耐えきれる力があるのかどうか心配をしていますが、貴方様からしたら、関係ありませんよね。


だって、私達は初対面に近い関係なのですから――


そう考えると不思議なものです。初対面に近いゲン様に対して、どうしてだか、失礼がないようにと配慮している自分がいるのですから。いくらダイアの所持者としても、これは異例。


不思議と懐かしさと愛しさと……悲しみを感じてしまうのですから。




私達の意思に反するように装置は作動を続けます。まるで見せつけるように。最初は荒い映像だったのですが、形になってきたようで、物語のように進んでいくのです。



◇◇◇◇



太陽と月はいつまでも争っていた。

この星は、沢山の命に溢れ、笑顔に溢れ

そして……


その反面、闇も溢れていたんだ。




いくら時が過ぎたのだろうか? ここには一人の女と僕しかいなくなった。沢山の人間に埋め尽くされていたのに、僕達、二人を除いては静寂と過疎しか残っていなかった。


沢山の建物も、いつの間にか植物が巻き付き、人が住んでいた過去が嘘のように思う。全ては幻で、夢だったのかもしれない――いや、妄想かな。


それでも幸せだった事には変わりなくて、現実の突きつける風の痛みも感じて、僕は項垂(うなだ)れ、女は真っすぐな瞳でそれら(・・・)を見つめていた。


「……どうして?」


僕が聞くと、彼女は冷静に呟く。か細い声で。


『見ないといけない現実があるから見るの。あたしはいつでもそうして生きてきたから。貴方はどうして現実から目を背けるの? 生きる為には必要よ。今の現状を理解すれば』


「そんな余裕ある訳ないだろう。見たくないよ、こんな現実なんてなくなればいいんだ」


『…言霊は力を持つ、貴方も知っているでしょう?』


「僕は貴方じゃない、鏡 ゲンだ。ちゃんと名前がある。そう呼べよ」


八つ当たりをして、涙する僕がいる。彼女は呆れたように、溜息を吐きながら、手を差し伸べてきたんだ。


『貴方はこの星の主なんだよ? 貴方の言葉は力となり、世界をどうとでも出来るんだから、気をつけてよね。ゲン様(・・・)



そこで映像は途切れて、最後に声が流れたんだ。


『見捨てないで……ゲン様。あたしはまだここ(・・)に、貴方と同じ時を生きて行きたい』



悲しい叫びと、黒い渦が彼女と僕を引き裂いていった。

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