許せなくなった自分の弱さと無力さ
私の名前はキズナ。身体に二つの魂を半分半分持つ者。
体の負担がないというと嘘になる、正直、自分の意思ではないもう一人の自分の意思もあるから二つのバランスを保ちながら生きている不思議な存在。
自分で不思議なんて言うと、笑ってしまいますよね、私もそうです。
だけど、本当の事なのだから、笑ってもいられない。
私には表情がある喜怒哀楽を表現出来る、人間。だけど、もう一人の私には何もないのです。不思議でしょう? 一つの体に二人の自分が正反対なんて、しかし、これも自分の欠けている部分を補う為の方法なのかもしれませんね。
何から教えればいいのか、語ればいいのか分かりかねまずが……これはゲン様の為だとだけ言っておきましょう。
思い出したくない記憶だからこそ、ダイアに傷を負っていた貴方様から無理矢理、過去を引き出して実体化させるなんて手荒な事……私ならしません。しかし、もう一人のキズナは研究気質でして、私でも抑える事が難しいのが現状なのですよ。
これは浸食に近いのかもしれませんね――
『私はいつまで私として保つ事が出来るのでしょうか』
寂しそうに微笑む私を見ているのは、闇に埋もれてしまったもう一人の私。
見たくもない、自分の鏡なのです。
醜い自分――
呟きは闇に消え
私は動き出す
『久しぶりだね、もう一人のキズナ』
私がためらっていると痺れを切らしたように、口を開いたのは紛れもないもう一人の自分。一番嫌いで、一番好きな、私の理想だったキズナの姿。
『お久しぶりです』
なるべく表情を読み取られないように、形づくると、クスクスと笑いながら、会話を投げかけてきました。
『そんな怖がらなくていいよ、キズナ。どうしたの?』
怖がっているように見えるのでしょうか。いくら隠してもここは心の内側ですから、お見通しという訳なのですね、仕方ないのかもしれません……
『お話があってきました』
『クスクス、そうだと思ったよ』
『どうして――』
『鏡 ゲンの記憶を引き出そうとしているのか、だろう? 君が聞きたい事は』
『分かっているのなら、何故ですか。こんな手荒な事しなくてもよいのではありませんか?』
感情的になる自分を抑えながら話すのは大変ですか、荒ぶってしまった方が負けだと思いますから、なるべく淡々と話していくのです。
そうしないと情報を抜き出す事が出来ないのですから――
自分自身なのに、彼女には私の考えている事が理解出来、私には何mの見えません。正確には見える事が出来ないのです。
これは主導権の問題かもしれません。私より彼女の方が力を持っているからこそ、何も見えない、見せてもらえない。広がっているのは闇しかないのですから。
『手荒ではないよ、彼には打倒な制裁だと思うけどね。彼自身の問題に、私がきっかけを与えたまでだから』
『……どういう事です? 貴女は何を知っているのですか?』
『キズナ、君に言う必要性はないね。感情を持ち、表情に出してしまう君には言えない。言うつもりもないけど……』
『私が感情を持っているから言えないですか。なら貴女には感情はないのですか?』
彼女は呆れたように呟く。
『そんなの、君自身が一番理解しているでしょう? 私は私のやり方で役目を果たすまで』
『……納得できません』
『ふうん。サユ様の為だと言っても?』
『!!』
今はゲン様の話をしているのに、何故ここにサユ様の名前が出てくるのか分かりません。何がサユ様の為だと言うのでしょうか。
『どういう事ですか』
感情を出さないと決めていたのに、口調が強くなり、追い詰めるような言葉を放ってしまいます。きっと彼女は言うでしょう、そんなんだからサユ様を守り切れてないのだろうと――私は私のやり方でお守りしている、それも一つの現実であり、事実なのです。
『そういう所ってよく分かってるじゃない。理解しているなら答える事はないよ。まぁ、してなくても言う必要性ないしね』
それを最後に、あの部屋から追い出されそうになっている私は、最後の問いかけをするのです。彼女の耳に届いているのか、いないのか分からない、問いかけを――
『貴女の目的は……』
それが最後の言葉でした。シインと静まり返った空間へ戻された私は無理矢理、こじ開けられた瞼に恨みを抱きながら、ゲン様の様子を観察するしか術はないのですから。
弱い自分が許せなくなりました。




