表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役王女の竜騎士団生活 〜婚約破棄後に溺愛されても困ります!〜【コミカライズ】  作者: 新奈シオ
序章 春の花舞う就任式(初の女性騎士団長なんて、荷が重すぎます)
1/37

第一話

 あるうららかな春の日。

 ヴィステスタ王国の王城内――大聖堂前の中庭には、やわらかな陽光が降り注いでいた。


 まるで今日という日を祝福するかのごとく澄み切った青空に、嬉々(きき)として響く鳥の声。

 近くの庭園から飛んできたのだろう。風に乗ってあたりを舞う桃色の小さな花はかぐわしく、まるで結婚式のフラワーシャワーのようだ。

 

 ――ああ、なんて美しい光景なのかしら。


 そう感嘆しつつも、リリアの心には分厚い雨雲がたちこめていた。


「リリア・アンセルム・ヴィステスタ、ここへ」


 その名を呼ばれてしまえばなおさらだ。

 大聖堂前に集まった、揃いの団服を着た者たち――総勢五百余名の男たちの視線がただちにリリアに集まり、途端に身体が震え上がる。


 ああ、どうしよう。いよいよ呼ばれてしまった。

 ならば返事をして、祭壇前に立つ王のもとまで行かなければいけない。

 王女であるリリアの父、ヴィステスタ王の御前おんまえに――。


「リリア・アンセルム・ヴィステスタ、ここへ」


 再度、その名を呼ばれる。

 今度は先ほどよりも強い調子で。


 ――落ち着くのよ、リリア。もうどうすることもできないのだから、予定どおりに事を進めなさい。


 ようやくいくばくかの平静を取り戻し、顔を上げる。

 左胸に右の手の平をあて、「はい」と、声を絞り出した。


 リリアが身にまとうのは王立騎士団、竜騎士隊の黒を基調としたコート風の隊服だ。

 一歩を踏み出せば、その裾とともに、結った亜麻色の長い髪が風になびく。


「リリア・アンセルム・ヴィステスタ、そなたを王立騎士団の最高責任者に、そして竜騎士隊の隊長に任ずる」


 (ひざまず)くリリアに、王から細身の長剣が手渡される。

 それは騎士団の団長と任命された者が、代々受け継いでいる宝剣だった。


「ヴィステスタ王国、第二十三代王立騎士団長、リリア・アンセルム・ヴィステスタ、ここに誓います」


 リリアは、もう何十回も繰り返し練習した文言を口にした。


「神の守護を得、騎士の掟を剣とし、竜とともにヴィステスタ王国の民を守らんとすることを……!」


 立ち上がり、さやから長剣を引き抜く。

 その剣先を青々とした空に勢いよく向けると、五百余名の男たちから歓声が上がった。

 しかしそれは、リリアを祝福してのことではない。リリアが天に向けた剣先の上を、銀色の大きな竜が翔けたからだ。


「あれが直系の王族のみが持つ銀竜か……なんて美しいんだ!」

「ようやく騎士団が聖竜を手に入れたぞ! これで大国テシレイアの脅威に怯えることもなくなる!」


 歓喜に沸き立つ中庭で、けれどリリアの心はやはり重々しかった。


 ――無理よ……初の女性騎士団長なんて、わたくしには荷が重すぎる……!


 助けを求める視線を父である王に向けるが、苦い顔で首を左右に振られる。「もう後戻りはできないのだ」と、言わんばかりに。


 わかっている。

 もうこうするしかないのだと、リリアだとてじゅうぶん理解している。

 けれどどうにも不安でしかたがないのだ。

 若干十七歳の自分に――王女である、というだけで騎士団長へと就任した自分に、騎士たちが従ってくれるわけがない、と。


「絶対にうまくいかないに決まっているわ……!」


 しかも日々を過ごすことになる竜騎士隊には、かつて自分の婚約者であった男が在籍している。

 二年前、あちら側から一方的に婚約を破棄してきた、憎きあの男が。


 ――その彼がわたくしの副官ですって?


「冗談じゃないわ、どんな顔して会えというのよ……!」


 前途が多難すぎてつらい。

 できることなら今すぐここから全速力で逃げ出したい。


 いまだ歓声が響き渡る空の下、リリアは盛大な溜息を吐かずにはいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ