第4話
全身を黒のローブで包んだ銀髪銀眼の青年がティア達に話しかける。
「遅くなって済まない。怪我はないか?」
いきなり話しかけられたティア達は互いに顔を見合わせた。
何が何だかわからないといった様子だ。それを見た青年、ユーリは口を開く。
「その様子だと大丈夫そうだな。それにあっちも終わったところだからな。」
そう言ってティア達の向こう側に視線を向ける。
ティア達もそれにつられて視線を移動させ・・・・・またも言葉を失った。
そこは先ほど直接襲ってきたフレイムウルフとは別に火の球を打とうとしていた群れがいた所であった。しかし、そこには生きているフレイムウルフは1匹もいなかった。辺りには血が飛び散り、ばらばらになったフレイムウルフの体のパーツが散乱していた。
その惨状を見たティア達は顔を青くする。先ほどの切り刻まれた死体よりもはるかに血なまぐさいものなので無理もないだろう。
そこにその惨状を生んだ張本人のルーヴがやってきた。
ユーリはルーヴに対して苦笑いしながら言った。
「もう少し綺麗に殺ってくれ。みんな引いてるぞ。」
それをうけてルーヴはティア達を一瞥して
「けッ、たかがクソ犬ごときに情けねぇ!雑魚が意気って冒険者ごっこなんかやってんじゃねぇよ!」
忌々し気に吐き捨てたルーヴの言葉を聞いてティア達はバツが悪そうにうつむいた。
そこに声を掛けたのはやれやれといった表情をしているユーリ・・・・・ではなくルーヴと反対方向から歩いてきたシャルであった。
「口が過ぎるぞルーヴ!普通の冒険者に【魔物の大発生】の殲滅などできるわけがないだろう!!」
先ほどのルーヴの発言をたしなめるシャル。
それに対してルーヴは
「いちいちうるせえぞエルフ野郎!!雑魚に雑魚つって何が悪いんだ?」
2人の間の空気が重たくなる。シャルとルーヴはにらみ合う。先ほどまでルーヴに罵倒されてへこんでいたティア達も緊張した面持ちで2人を見つめている。
だがその空気を壊したのはユーリだった。
「お前ら今はそんなことをしている場合ではないだろうに。とりあえず、死体の処理と魔石を回収したら王都に行こう。王都はすぐそこだからな。お嬢さんたちも一緒にどうだ?察するにそこのご老人の護衛か何かだったのだろう。俺たちと行けば少しは安全だからな。」
ユーリが一気に話すと先ほどまでにらみ合っていた2人はにらみ合いをやめて自分達の倒した魔物の魔石の回収に向かった。またティア達もユーリに幕しててられ頷くことしかできなかった。
こうして彼らは王都までのわずかな道のりを共にすることになった。
いまだなお気絶しているバージャスをユーリが背負い彼らは王都に向かって歩いている。
歩いているといってもすでに王都の門が見えてきているのだが。
歩いているとティアが意を決した表情でユーリに話しかけた。
「あの、さっきは助けてくれてありがとうございました。あのまま、皆さんが来てくれなかったら私達いまごろ・・・・・」
「俺からも礼を言わせてくれ。今生きているのはあんたたちのおかげだ。ありがとう。」
そう言ってガリウス、イルベルもノイルも頭を下げた。
それを見たユーリは微妙な顔で
「いや、真に礼を言われるべきなのは俺じゃなくて彼らだ。それに、冒険者は助け合いも時には大切だろ?」
そう言ってシャルとルーヴの方を見た。
ガリウス達はルーヴとシャルの前に行き礼を言った。
「あんたらのおかげで助かった。ありがとう。俺はガリウス、それでそっちのノイルが俺の嫁だ。もう一人のほうはイルベルでノイルの弟だ。あとあっちの嬢ちゃんがティアちゃんっていうんだ。よろしくな!!」
そう言ってガリウスは手を差し出した。しかし、ルーヴはガリウスを人にらみするとそそくさと歩いて行ってしまった。ガリウスは気まずそうにルーヴの後ろを眺めている。そんなガリウスにシャルは声を掛けた。
「済まないな。あいつは気難しい奴なんだ。私はシャルテリアルだ。シャルでいいぞ。助けた事なら気にすることはない。ユーリも言ったようにこういう時はお互い様だからな。」
そう言ってシャルは笑顔でガリウスの手を握る。ガリウスもシャルが思ったよりも気さくだったせいか笑みを浮かべている。
するとそこにティアが話しかけた。
「あ、あの、さっきのフレイムウルフを倒した時のやつ魔法ですよね!?私達には全く害を与えずに魔物だけを倒すなんてすごいと思います!!!」
興奮気味に捲し立てるティアに若干引き笑いをしながらシャルは答えた。
「あ、ああ。確かにあれは魔法だ。それに特定の相手にだけ攻撃するのは難しい事ではないぞ?まぁ、ちょっとしたコツはいるが・・・ッと門についたな。」
あれやこれやと話すうちに彼らは門についていた。
王都の入り口だけあってかなり大きな門である。地味な装飾だが中心にこの国の紋章が彫られているのが特徴だ。
そんな門を見上げてティアは感嘆の声を上げる。
「うわぁ~大きいですね!!流石は王都です!!」
ユーリはそんなティアを見て優しく微笑む。
「王都に来たことはなかったのか?」
ティアは
「はい!!これが初めてです!!」
そうか。とユーリが返して前に進むと門番によって止められた。
「身分証の提示をお願いします。ない場合は仮身分証を発行しますので奥の扉に進んでください。」
王都に入るためには身分証が必要になる。
ティアやガリウス達が順に身分証が割となる冒険者ギルドのギルドカードをみせていく。
「ほぉ。Cランク冒険者の方ですか。大したものですな。」
門番がガリウス達のギルドカードを見て感嘆の声を上げる。
ガリウス達のギルドカードは黄色でCランクを示すものである。Cランクは立派な中堅所である。
このような反応をされてもおかしくはないのだ。ガリウス達は照れ気味にギルドカードをしまい込みユーリ達を待つ。
「では次!身分しょ・・・・・・・・・・・・」
ユーリ達がギルドカードを提示した瞬間、門番そしてティア達は凍り付いた。
ユーリ、シャル、ルーヴがそれぞれ見せたギルドカードは黒のカード。そして、それは現在この世界に10人しか持つことが許されていないものである。
世界が認めた最強の証、SSSランクのギルドカード。
それを何事もないかのように平然と見せる3人。
ユーリは固まっているティア達や門番に不思議そうに首をかしげながら「どうした?」と聞いた。
すると
「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!!!!!!!!!」」」」
ティア達の絶叫が辺りにこだました。