第3話
突然燃え上がった馬車を見て護衛の4人は何が起きたか分からず立ち尽くしている。
そんな中真っ先に動いたのはティアであった。
ティアは地面を蹴りつけて燃え上がる馬車に飛び込んだ。
「ッ!!」
それを見たガリウスもまた冷静になり背中に背負った反った刃のついた戦斧を構えて、臨戦態勢をとる。
それに半歩遅れる形でノイル、イルベルを各々の武器を構えた。
「イルベル!!探知スキルで敵の情報を確認しろ!」
「了解っす!!」
そうしてイルベルはガリウスの指示通り探知系のスキルを発動させ・・・戦慄した。
ガリウスはそんなイルベルを見て声を上げる。
「どうしたイルベル!!早くするんだ!!」
「ふ、紅の狼が・・・50匹」
「「なっ!?」
イルベルのもたらした情報にノイルとガリウスは絶句した。
「どういうことだ!!こんな王都の目と鼻の先でなんでそんなのが出てくる!!」
やけ気味に吐き捨てたのはガリウスだ。それに対する答えを出したのはノイルだった。
「最近頻発してる・・【魔物の大発生】・・・」
ノイルの口から漏れた言葉にガリウス達は苦虫をかみつぶしたような表情をする。
確かに、警戒はしてたのだ。だが、それでも、こんな王都の近くで発生するとは思ってもいなかったのだ。
完全な油断・・・と言い切ることは決してできないが、それでも、しかし、油断があったのは事実であった。いや、油断がなくてもこの物量ではどうすることもガリウス達は分かっていた。みな神妙な顔をしている。
そんなとき、ガリウス達のもとに二つの影が下りた。
ティアとティアに背負われたバージャスである。
2人をみたガリウスは背負われているバージャスに目を向けながらティアに聞いた。
「バージャスさんは大丈夫か!?それにティアちゃんも!」
「大丈夫です。バージャスさんも気を失っているだけなので大丈夫です!!」
ティアとバージャスの体や服にはいたるところにススがついていたが、目立った外傷はない。
それを聞いて安心したガリウス達は緊張した顔で今の状況をティアに説明する。
それを聞いたティアは目を見開き、顔色を青くしていく。
「そ、そんな・・紅の狼50匹なんて・・・」
フレイムウルフは討伐難度Dの魔物であり、それに対してガリウスのパーティーのランクはC。これだけ見れば討伐は難しくはない、というより楽に倒せるのだ。しかし、フレイムウルフが群れを成していることによりそれは一転する。フレイムウルフに限らず、ウルフ系の魔物は群れを成すことにより討伐難度が2つほどあがりBとなる。しかも今回は群れの数が多くAとなってもおかしくはない。
ティア達は警戒をしながらも曇った表情を浮かべている。
すぐそこに赤い毛で覆われた狼の大群が迫っている。
逃げられる状況ではない、いや逃げられたとしても王都に魔物の大群を連れていくことになってしまう。
勝てる見込みのない勝負をしなければならないのだ。
そしてその瞬間は来た。
群れの先頭にいるフレイムウルフがティア達に向かって走りだした。
そしてそれを皮切りに後ろにいる群が先ほど馬車を燃やしたのと同じように、ティア立ちに向かって火の球を打とうと準備をしている。
向かってくるフレイムウルフを視界に入れたティア達はそれぞれが武器を持つ手に力を入れる。
次の瞬間、走り出した狼に体の一部を食いちぎられ、無数の火の球が撃ち込まれ・・・・ることはなかった。
一瞬、ティア達の頬を温かい風がなでる。
そして、気付けばティア達に迫っていたフレイムウルフ達は全身を切り刻まれ、地面に倒れ伏していた。
何がどうなっているのかわからないティア達。
ついさっきまで確実に彼女たちは目の前に倒れ伏すフレイムウルフと対峙していた。圧倒的な物量、勝てる見込みのない勝負を強いられていたはずだった。
しかし、それがどうだ。いきなり風が吹いたと思えば、それまで間違いなく自分たちを襲おうとしていたフレイムウルフがそこに生物だったものとして存在しているではないか。
ティア達はなにが起こったかまるで理解できていなかった。
そしてそんな彼女達の耳にある声が届いた。
「間に合ってよかった。」
声のする方向を見るティア達。
そこには銀髪の髪をなびかせている青年が立っていた。
時は遡る。
3つの影が森の中を素早く移動していく。
ユーリ達3人はゴブリン討伐を終えて王都への帰路についていた。
「やっと終わったな。」
ユーリが疲れ気味に呟いた。
それを見たシャルは口を開く。
「仕方がないだろう。最近頻発している魔物の大量発生の調査の依頼が来たんだ。危険だからこればかりは他の者達に任せるわけにはいかないからな。」
彼らがゴブリン討伐をしていたのはシャルが言ったように魔物の大量発生の依頼によるものだ。魔物は群れを成すことでそのほとんどが討伐難度が上がってしまう。そのため彼らは依頼を他に回す事が出来なかったのだ。
「それにしても、少し多すぎやしないか。今月に入ってこれでもう5回目だぞ?」
「確かにこれは明らかに異常だ。それも含めて報告しなければなるまい。そのうえで何か策を講じなければな・・」
シャルが思案顔になる。
するとユーリとシャルの前を走っているルーヴが悪態をついた。
「けっ、相変わらず真面目腐った奴だなエルフ野郎!んなもん片っ端から潰してけばいいだろうが!!」
ルーヴの喧嘩腰の態度に眉を顰めるシャル。
シャルがルーヴに何かを言おうとした時、3人は異変に気付いて立ち止まる。
3人とも先ほどとは異なり厳しい顔つきになっている。
「ッ!言ってた側からもおきやがったのか!!」
ユーリが忌々し気に吐き捨てる。
「しかし、これはっ!!まずいな・・・」
シャルもそれに気づいていた。見るとルーヴも獰猛な笑みを浮かべている。
彼らは王都の近郊に紅の狼の群れが現れた事に気が付いたのだ。そして、その周りに人がいることにも。
「急ぐぞ!!」
そういって3人は先ほどとはまるで異なる速さで駆け出して行った。
3人がその場に駆け付けたタイミングはまさにギリギリだった。
十数匹のフレイムウルフがその場にいる冒険者たちに襲い掛かろうとしている時だった。
「シャル!!」
それを見たユーリはとっさにシャルの名前を叫んだ。
「わかっている!!『荒れ狂う乱風』」
シャルがそう唱えた瞬間、狼の群れに向かって強力な風が吹き荒れ、その体を切り刻んだ。
襲われていた冒険者達が無事であることを確認したユーリは肩の力を落として言った。
「間に合ってよかった。」