第2話
静かな街道を一台の馬車が進んでいる。そして、その馬車の隣には馬車を守る形で4人の男女が並んで歩いていた。
「こんな静かな所進むのに4人も護衛がいるのか?バージャスさん?」
そう言ったのは4人の中の1人でがっしりとした体格で、あごひげを蓄え、つやのある黒髪をオールバックにしている顔にある1本の切り傷が特徴の男である。
いかにも不思議そうに尋ねた男に対して一人の女がそれをたしなめる。
「ちょっとガリウス!!失礼じゃない!」
「ノ、ノイル・・だってよう.……」
ガリウスはノイルの剣幕に思わずたじろぐ。ノイルとガリウスは夫婦でありもう一人、ノイルの弟と三人でパーティーを組んでいる。ノイリは西部劇のガンマンのような恰好をしている。ガンマンと違うのは腰につけている銃ではなく鞭という点だ。
ここでノイリに便乗して彼女の弟のイルベルもガリウスに言う。
「そうですよ!兄貴!!折角王都までの移動がてらに依頼を受けれるんですから、文句を言ったらだめっすよ!」
するとノイルはイルベルの頭を殴った
「いてっ!なにすんだよ姉貴~」
「あんたもあんたでそういう事じゃないんだよ!!」
ノイルは頭を抱えるイルベルを見て溜息をついた。
そんな様子を見てもう1人の少女がクスクスと笑った。
「ティアちゃん、笑い事じゃないんだよ」
3人のやり取りを笑った少女、ティアは目元の涙をぬぐいながら
「すみません。・・・でも御三方はとても仲がよろしいなと思いまして。」
そう言われた3人は照れて下を向いて黙り込んでしまった。
「ほっほほ・・・ほんとですな。これだけにぎやかだと道中も退屈しませんなぁ」
そう言って最初にガリウスに話しかけられていたバージャスも微笑んだ。
「バージャスさん、本当にうちの馬鹿どもが失礼なことを言って申し訳ありませんでした。」
「いやいや、謝らんでくださいノイルさん。もともと無理を言ったのはわし等なんですから」
「そ、そうですよ!!ほんとは私が・・・・・」
そう言ってティアは下を向くが、それを見てバージャスは首を横に振った。
「いやいや、おぬしも悪くはない。儂がもしもの時のためにと、この御三方に頼んだのじゃ。この歳になると心配性に拍車がかかって敵わんわい、ほっほほ・・・」
そう言って白い顎鬚を触りながら再び笑う。慰め?られたティアはほっとしたような顔をした。しかし、それとは対照的にノイルに叱られていたガリウスは微妙な顔つきで再びバージャスに尋ねた。
「いや、心配性つたってよ・・この街道に盗賊や魔物が出たなんて話聞いたこともないぜ?さっきも言ったが、俺らを雇ってよかったのか?」
現在彼らが進んでいる街道は、他の商人や旅人が比較的よく使う道で、そのためにきちんと治安維持をされているのでこの街道を使うものはある程度以上の武装は基本的にしておらず、ガリウスの問いは決して的外れなことではなかった。ガリウスだけでなく、ノイルやイルベルもバージャスを見ている。
バージャスは先ほどまでの緩い表情をしまい込み真剣な顔をして話し出した。
「うむ・・・この街道ではまだ被害がでておらんのじゃがのう、どうやら今、王国のあちこちで魔物が不自然に大量発生しておるのじゃが・・・・・」
そこまで言うとティアが何かに気づいたように口を出した
「あ、私もうわさで聞いたことあります!なんでも、普段魔物が住む森やダンジョンだけでなく、街のすぐ近くにも魔物が大量に現れたことが何度かあるって・・・」
ティアのその言葉にガリウス達も相槌を打つ。
「あぁ、そのうわさなら俺らも前の町で耳にしたぜ。なんでも王国の兵士達や各町の領主の私兵が調査をしてるが一向に原因がつかめないとかって・・・・・なるほどそれで俺たちか。」
納得がいったと、ガリウスは頷いた。
バージャスも口を開く。
「そうです。原因も大量発生が次にどこで起こるかもわかっていない状況ですから、用心するに越したことはないと思いまして依頼をしたのです。」
「わかったぜ!そういう事なら俺らに任せな!!ちゃんと王都まで護衛するぜ!」
「はい!私も頑張ります!!」
ガリウスそしてティアも意気込む。それを見たバージャスは穏やかな表情に戻っていた。
「ほっほほ、頼りにしてますぞい」
それからしばらくティア達は街道を進み、目的地である王都は目前といった距離に来ていた。
「ここまでくれば流石に大丈夫ですよね。」
ティアが先ほどまでの緊張が解けたのかどこかほっとしたように言った。ここに来るまでいつ件の魔物の大量発生に遭遇するか分からなかったため常に緊張状態だったのだから目的地に近づいて緊張が解けたのだろう。
「おいおい、ティアちゃん最後まで油断は禁物だぜ!・・・つっても確かにここまでくれば目的地には着いたようなもんだし、まぁ大丈夫だろうがな!!」
ガリウスもティアと同じように緊張状態を解く形になっていた。いや、ガリウスだけでなく、ノイル、イルベルそしてバージャスまでも緊張が解けていた。
それ故にみな反応することができなかったのである。
それらが突然そこに現れたことに。
そしてそれらが明確な敵意を持って彼らに襲い掛かっていこうとしていることに。
次の瞬間、彼らの護衛する馬車が突然燃え出した。