散策の続きと喧嘩
ルリアルカ、セシリーは王都の散策を続ける。
シエラも合流して、散策を続けるのだが。
王都を数日散策していますと、色々な物があるというのがわかります。
娯楽というものでしょうか?弓で的を射るものがお店であったので驚きました。
「セシリー、弓って町中で使えるのですね」
「遊びの弓だからね。本物はダメよ」
「わかってますよ」
散策は思った以上に楽しいものですね。
散策、三日目
「シエラ、ギルドの仕事はいいの?」
「セシリーこそ。人の事言えないと思うけど?」
散策、三日目は、シエラさんも一緒です。三人で遊びに行くこと自体が初めてです。
「私は宿の皆から温かい目で追い出されるのよ」
「ルリと出会ってからね」と小さく呟いたのは聞き逃しませんよ。
「私はルリアルカさんが気になったからかな?お父さんに聞いてみたら、二つ返事だったし」
「何かが起きるかもしれないしね」と、シエラさんが呟いたのも聞き逃しませんよ。
「でも、ルリアルカさんがここまで変わるとはねぇ」
シエラさんが私を見て言いました。私の姿はいつもの黒いワンピースではなく、先日、購入したものですから。
「見られてますね」
そう、周囲から見られるのです。
「私は予想してた通りの結果ね」
セシリーは満足そうに言いますが。
「予想通りですか」
周りから視線らしきものが頻繁に向いているのがわかります。自意識過剰?違いますよ?
「ギルドに登録しに来た時の姿でも、ルリアルカさんは目立った気もするけど」
「ルリは表情が見えている方が目立つわよ」
「……」
セシリーに言われ、散策のために着替えたのはいいのです。ですが、宿を出てから数分も経たない間にどれだけの視線を浴びたのかわかりません。
私の服装ですか?黒紫のシャツに黒いスカート。首には薄い朱色のチョーカーと……。
「あの人って……」
「だよな……」
色々聞こえます。でも、詳しく聞きたくないので無視します。
「ここまで見られるのですね」
表情が見えるように、髪留めで前髪を留めただけなのですよ?
セシリーが少し髪を結ってくれたのもありますけど。
「それは、ルリが…」
「ルリアルカさんが…」
セシリーとシエラさんが。
「「可愛いからよ」」
最後の部分だけ見事にはもりました。
「私は可愛いというのがわかりませんが、この視線は厄介です」
通り過ぎる人がほぼ毎回こちらを向いています。自意識過剰?だから、違います!
「ルリは自覚がないから困ったわね」
「町中に一人置いていくと危ないかな?」
酷い言われようですよ。
「私は気にしません。ただ、見られているだけですから」
私に被害はありませんからね。
視線を気にせずに、三人で歩いていると、気になるお店がありました。
「武具屋さん?」
看板には文字ではなく、大きな剣が飾られていました。
「ルリって武器とか使うの?」
「私ですか?うーん……」
武器ですか。島にいた時に一通り教わりましたけど。
「ルリアルカさんだと、ナイフとか似合いそう」
「ルリがナイフ?」
二人が黙り込みます。
「ダメ……」
「ルリアルカさん、不審者に……」
「二人とも酷いですよ……」
「だって、ルリがナイフとか……あはは」
セシリーが笑いだしました。
「でも、セシリーはナイフだし」
「え!?」
驚きです。セシリーがナイフを使う?
「包丁ですか?」
料理用に用いられる包丁しか思い浮かびません。大きさ的にナイフと変わりませんし。
「ルリアルカさん、セシリーは料理ができないのよ」
「ええ!?」
「悪かったわね……」
宿屋の経営者なのに料理ができない?あ、上の立場だとしなくてもいいのですね。
私が一人で納得していると。
「ルリ、失礼な事考えてない?」
「いえ。経営者だと料理する必要がないから、できないと理解したところです」
「それが失礼というのよ!」
あ、セシリーが拗ねました。
「シエラさんも武器は使うのですか?」
「私は籠手かな。武器を持つ戦いって苦手なの」
ギルドマスターの娘というのは大変そうですね。
「ルリアルカさんには私のギルドカード見せてなかったよね」
シエラさんが一枚の板を渡してくれました。
「シエラ・エルナンド。種族 人族。性別 女性。得意系統魔法 火と風。出身地 王都フェイマス。あれ……?」
内容はセシリーとほぼ変わりませんが、出身地の後に文字があります。
「特技、格闘術?」
「一定レベルまで使えると記入されるらしいよ」
「そうなのですか」
私は特技は表示されていません。何でしょう?表示されたらされたで、また問題になる気がしますね。
「ルリアルカさんだと特技があっても表示されないのかもね」
「かもです」
ばれてました。ちなみに、シエラさんの話し方はこちらが素らしいのです。ギルドの受付の時は猫を被っているらしい(本人談)です。
「まぁ、問題になった時に解決したらいいわね」
「それしかないよね」
「問題になるのは確定なのですね」
私も思いますし、諦めましょう。
「ルリ、お店入ってみる?」
「いえ。ただ気になっただけですから」
「私は用事はないからいいかな」
武具屋さんを後にした私達は色々なお店を見ました。
衣類屋さんで服の試着をしたり、装飾品のお店でアクセサリを見たり。
「不思議です」
本当に不思議です。島とはかけ離れた状況で過ごしていますが、違和感がありません。
お友達と服を見たり、アクセサリーを見たり。これがお友達と過ごすということなのですね。
「ルリ、島には娯楽みたいなものはなかったの?」
「ないですね。練習が娯楽みたいなものです」
「練習が娯楽って嫌ね……」
「私もそう思う……」
セシリーとシエラさんが、うんざりとした表情をしています。これが普通の反応なのでしょうか?
「私は趣味がありませんし、色々習えてよかったと思いますよ」
「ルリは純粋すぎるというか、なんというか」
「ルリアルカさんのいいところだと思うけど」
「「損してると思う」」
所々ではもりますね。
「いいのです。おかげで一人旅には困らないのですから」
「それは凄いけど」
「島は確かに閉鎖的ではありますけど、色々と遊んだりして楽しんだものです」
「どんな遊びなの?」
「気になるわ!」と言わんばかりに、セシリーが反応しますね。
「川で遊んだり、山で遊んだり、教えてもらって狩りもしましたね」
「具体的にはどういうことをしていたの?」
「川だと泳いだり、のんびりしたりです。山は谷を飛び越えたり、登ったりです」
「普通の人は真似出来ないことしてるわよね?」
「絶壁登るの楽しいですよ?」
「「楽しくない!」」
「えー」
私の娯楽的な物は、二人には普通ではないようでした。ちょっと、残念です。
雑談をしながら、歩き続けること数分。大きな建物が見えてきましたね。ここは何でしょう?
「セシリー、ここは一体?」
「ここは王都にある学校の一つよ。勉強はもちろん、魔法も教えてもらえるわ。あとは、学年が上がると選択で武器の扱いか魔法のさらに詳しい勉強になるわね」
「そうなのですか?セシリーは詳しいのですね」
「私とシエラはここの学生だったからね」
「懐かしいね。セシリーが軟派な学生にまとわり付かれて魔法で吹っ飛ばしていたのが」
「魔法で吹っ飛ばす?」
さりげなく物騒な言葉がでましたね。
「なによ。シエラこそ、まとわり付かれては、投げたりしてたじゃない」
「台風女」
シエラさんがボソっといいました。
「な!誰が台風女よ!破壊魔!」
「誰が破壊魔よ!」
あら?喧嘩に流れていきましたね。
「えーと」
「ルリは黙ってて」
「ルリアルカさんは静かにしておいてね」
ダメです。一触即発状態です。
「学生時代の決着つけましょう」
セシリーが物騒な発言を……。
「いいよ。はっきりさせましょう。どちらが上かを」
シエラさんまで……。
「行くわよ!」
「かかってきなさい!」
「まってください!」
思わず、声をかけます。
「町中での魔法は使用禁止ですよね?」
「あー……」
「そうだけど、学校の武道場を借りればいいだけよ」
もう、決着つけるの決定なのですね。
「それで気が済むのですか?」
「シエラとは決着をつけないとダメだからね」
「セシリーに負ける気はないけど」
「わかりました……」
仕方ないですね。
「でも、危ない技や魔法は使わないでください」
「「………」」
使う気ですね。仕方がありません。危険と判断した時は、私の判断で介入して止めましょう。
王都フェイマスにある学校の一つ、『リヴィア学園』の中にある武道場に移動しました。
『リヴィア』というのは、フェイマスに実在した英雄らしいです。
リヴィアですか。どこかで聞いたことがある気がするのですが……。
「さぁ、シエラ!きれいに吹き飛ばしてあげる!」
「セシリーこそ、壁にでも埋まればいいよ!」
ああ……。すごく物騒な発言になっています。
決着をつけるとか言っていましたけど、学生時代は常にこのような感じだったのでしょうか?
セシリーもシエラさんも優しい方ですけど。
学生は皆さんこんな感じなのでしょうか?
「風よ、目の前の敵を吹き飛ばせ!」
セシリーが叫ぶと同時に、シエラさんに向かって突風が吹きました。
詠唱を使うのですね。少し興味が出てきました。え?さっさと止めろ?開始直ぐに止めるとさらに悪化するのです。
「一直線の風なんて当たるわけないでしょ!」
シエラさんが慣れたように左側に飛びます。そして、セシリー目掛けて走っていきます。
「近寄れば、そこは私の範囲だか………っ!」
目の前まで迫っていたのに、シエラさんが後ろに飛びのきます。
「残念。あと一歩だったのに。ふふ……」
セシリー、笑っていますが怖いです。
「危なかったぁ……。あと一歩踏み込んでたら、空に打ち上げられてたわ。危険なもの仕込まないでよ!」
「踏まなかったから安全でしょ?」
理不尽な会話が始まりましたね。私はその間に色々と見てみましょう。
(最初の突風が風魔法の中級ですか。結構な威力ですね。それに、あの足元の物は……)
セシリーの足元を見てみると風の魔法が設置されていました。
(これは、風の地雷ですか。踏むと空に打ち上げるものと。セシリー、やることが酷いです……)
魔法の簡単な分析を終えて、二人を見ます。会話が……。
「もういいわ!これで片づける!」
セシリーが魔力を集めてます。ちょっと、集める量が多いですね。
「それはこちらのセリフよ!」
シエラさんも魔力を集めてますね。ああ、こちらも量が……。
「風よ舞い踊れ!目の前の者を弾き飛ばせ!」
「炎よ、風を纏いて弾き出でよ!」
ダメです。確実に大怪我コースです。
「はい、そこまでです」
そう言って、二人の中央に移動します。移動手段ですか?方法は秘密です。
「ル、ルリ!?」
「ルリアルカさん!?」
二人の声が響くと同時に大気が揺れました。
「この魔法は二つとも危険すぎます」
両手を広げ、左手をシエラさん、右手をセシリーに向けたまま言います。
「本当に大怪我したらどうするのですか……」
「ルリ!飛び出してきたら危ないじゃない!」
「ルリアルカさん、怪我してない!?」
二人が私の元に着ます。
「この程度、何でもありません。でも……」
二人の頭を叩くように手を置きます。
「「いたっ!」」
「それはやりすぎた罰です」
先ほどの魔法は介入しなければ、シエラさんは弾き飛ばされて、武道場の壁に激突ですね。セシリーの方は魔法に打ち抜かれるという感じで大怪我です。
「いいましたよね?危ない技や魔法は使わないでくださいと」
「で、でも、シエラが……」
「でも、じゃないです」
「反省してください」
「はい……」
セシリーが小さくなります。
「シエラさんも、危ない魔法はダメですよ」
「え、えーと、セシリーにつられて……」
「シエラさんの魔法の方が、種類的には威力が上でしたからね」
「ご、ごめんなさい……」
シエラさんも、セシリーと同じように小さくなります。
「まぁ、致死性の魔法なんて使ったりしたら……」
二人から少し離れて行き、肩越しに振り返ります。
「魔島で使われるような魔法を使う事になりますよ?」
「「ご、ごめんなさい!!」」
ええ。二人にはきちんと反省してもらいました。
「ルリ、結構おっかないわね……」
「美人が真剣に怒ると、想像以上に怖いね……」
「なにかいいました?」
「「なにも!」」
『リヴィア学園』を後にして、暫くすると。
「ねぇ、ルリ」
「なんですか?」
「魔島の魔法ってやっぱり凄いのよね?」
「あ、私も興味ある」
仲直りをした、セシリーとシエラさんが訊ねてきました。
「そうですね。お二人が先ほど使った魔法が魔島だと……悪戯レベルかもです」
「「ええ!?」」
事実ですし、他の言葉が思いつきません。
「結構、威力上げた気がしたけど」
「私は二属性合わせて使ったし」
「普通に使うには危険なレベルです。だから、無暗に使ったりしないでください。使うのなら、狩りや討伐にした方がいいです」
「「はい……」」
二人とも、へこんでしまいました。
「セシリー、シエラさん」
「なに?」
「どうしたの?」
私の真面目な雰囲気に二人が息を吞みます。
「大切なお友達と喧嘩をするなとは言いません。喧嘩も必要な時があるとは思います。ですが、相手に大怪我させるような魔法を使ったりするのはダメです。後で気が付いても意味はありませんから。事が終わって、大切な物を失ってしまったりしたら、お二人は立ち直れますか?」
「自信がないわ……」
「私もない……」
二人が肩落として落ち込んでいますが、続けましょう。
「次からは、あのような危険なことにならないようにしてください。私は目の前で、大切な人が傷ついていくのは見たくないですから。それに、守れなかった時の無力感なんて味わいたくないですよね?」
私は『守れない』という意味を知っています。だから、言うのです。
「大切な人を守れない時ほど、辛いものはないのですよ」
「「………」」
二人は無言のままですね。でも、私の言いたいことは伝えました。
「シエラ、ごめんなさい。自分でもバカな魔法使ったと思うわ」
「それは私も……」
「反省して、仲直りしたのなら、前よりもっと仲良しになれると思います」
私は人には興味はありませんが、セシリーとシエラさんは別です。
「そうね」
「だね」
二人が頷いてます。
「喧嘩はしてないけど、ルリも仲良しの中にいるんだから」
「そうよ。ルリアルカさんもその仲良しの一人よ」
「はい」
「守れることはいいことです」
二人に気が付かれないように、私は呟いたのでした。
「全てを失った少女は何を求め旅をするのか」で初めて戦いらしきものがでました。
簡単な表現だけですけど。
これから、戦闘描写が増えるかもしれませんが、きれいに書ける自信はありません……。
次回も書き終わり次第の更新となります。