表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/60

ルリの服

ルリが王都に逗留して数日。

一緒に王都を散策をしてみた。

目的を果たすために。

 ルリは本当に不思議な娘だと思う。

 私、セシリー・ミューズはルリアルカと友達になり、数日一緒に王都を散策した。


 散策初日 ルリの服装を考えてみよう


「ルリ、あの店に入ってみましょう」

「はい」


 ルリは素直について来てるわね。まず、最初の問題を……いえ、一番難しいかもしれないわね……。

 入ったのは女性服等を主に販売している店よ。理由は………、察してよ。


「えっと、セシリー」

「なに?」


 ルリが困った顔をしているわね。でもね、今日は諦めてもらうわよ。


「ここで何を買うのですか?」

「ルリの下着よ」

「えー」

「反論は認めません」

「むー」

「拗ねてもダーメ」

「うぅ……」

「泣くのは却下」


 魔島出身だけあって、年齢よりも子供っぽいと思うけど。

 だからかしら?ルリは捉えどころのない娘だと思う。

 でも、それでも!最初に着ているものを何とかしないと!

 あの下着だけはダメ!


「ルリ、諦めなさい」

「セシリー、意地悪ですよ」

「意地悪で結構よ。それにルリが可愛くなるからいいの」


 前髪で表情を隠しているけど、ルリは本当に可愛い。

 シエラが言っていた一目惚れって言葉通り?違うわよ。


「私はこのままでいいのです」


 ルリの服装は真っ黒なワンピースと布の黒い靴。

 これだけなのよ。


「ルリはもう少し服とかに興味持ちなさい」

「嫌です。面倒ですよ」


 若い女の子がこの格好よ?しかも、可愛いのに自覚なし!

 表情が常に見えていたら、周りが騒ぐに違いないのに!

 もしかして、ルリのお爺さんは、悪い虫が付かないように、こういう教育したのかしら……?


「もっと明るい服を着なさい。スタイルだって悪くな……」


 そう、そこなのよね……。


「どうしました?」


 じーっと、ルリの胸元を見る。ええ、私よりもね……。


「はぁ…。ほんと、残念だわ……」

「いきなり酷いですよ!」


 ため息も吐きたくなるわよ。


「素材はいいのに、着ている物で全てを台無しに……」

「泣きますよ?泣いていいところですよね!?」


 黒いワンピースが似合わないわけじゃない。

 顔が見えていれば……。


「ルリの下着の前に服を選びましょうか」

「無視ですか……」


 横で泣いている感じのルリが見えるけど、表情が見えないのもあれよね。


「えーと」


 並んでいる服をざっと見てみると、真っ白なワンピースが目に入ったわね。

 真逆の服装。冒険的にはありなのよね。


「あれ?」


 ルリは前髪で表情が見えない。後ろ髪も足元まであるし、横髪も長いわね。

 この髪型で白のワンピース。


「ダメね」

「何がです!?」


 私、何もしてませんよ?とルリが慌ててる。ごめん、そうじゃないの。


「ルリが着ている服を黒から白にしてみると、どうかしらと思ったのだけど」

「白ですか」

「似合わないわね」

「否定しませんけど、酷いですよね?」


 白はダメと。ルリに似合いそうな色か。

 イメージしてみましょう。ルリのイメージに似合いそうな色を。


「………」

「セシリー?」


 ルリが不安そうな顔をしているけど、今はそれどころじゃないのよ。


「青はダメね。似た色で空色もダメ。緑は似合わないわね。黄色は言うまでもない……」

「ダメダメって、そんなに言わなくても……」


 ああ、ルリが本格的に泣き始めたかもしれない。ちょっとまずいわね。


「ルリに似合う色を考えていたのよ」

「……私に似合う色ですか?」


 うん、こっちに反応した。


「黒いワンピースも似合うんだけど、もうちょっと他の色をねって考えていたんだけど」

「黒はダメですか?」

「悪くはないけど」


 そう。悪くないのよ。似合ってるのもあるけど。


「そうですよね。黒が楽ですから」

「楽?」


 聞き間違えじゃないわよね?


「はい。汚れても目立ちませんし、服を考えなくていいですから」

「ちーがーう!」


 ええ、吼えたわよ。まったく、この娘はもう!


「そうじゃないでしょ!まさかとは思っていたけど、ルリが黒を選ぶ理由がそんなことだったなんて……」

「ええ!?」

「驚くところじゃないわよ!まったく……」


 お爺さん、ルリの教育間違えたって思わせてもらうわよ?

 会ったこともないから失礼かもしれないけど、これは酷いわ!女の子を何だと思っているのよ!


「ルリ、好きな色とかないの?」

「黒です」


 即答するわね。でも!


「黒以外で」

「えー……」


 本当に悩んでるわね。


「あ……」


 ルリが声を上げた方向を見てみると、赤い色のワンピースがあるわね。


「赤?」

「小さい頃に一度、赤い色の服を着たことがあります」

「ルリに赤い色ね」


 似合いそうな感じね。


「ただ、その時に怪我をしていたのに気が付かなくて、気が付いたお爺様たちに赤はダメと言われまして」


 あはは…って笑ってるけど、かなりの怪我だったのよね……?

 突っ込んだら負けかしら?


「似合っていると、お爺様に言われて喜んで遊びに行ったのですが、転んでちょっと落ちまして。服は川で洗えば汚れは落ちましたし、バレないと思ったのが失敗だったようです」


 ルリのお爺さん、ごめんなさい。ルリは本当に、色々なことが残念だったのね……。


「それで、色が変わっているところがあって、お爺さんに怒られたと」

「はい」


 教えることが増えた気がするわね。ちょっと、頭が痛くなってきたわ……。


「あ、今は怪我していても目立つ色じゃないですし……」

「ちーがーうーでーしょー!」


 吼える以外、手段ないわよね?


「ルリ、怪我をしたらまず、それを何とかしなさい!女の子が身体を大事にしないって、それこそ問題だわ」

「でも、たかが怪我ですよ?」

「何て言ったのかな?」

「えっと……」


 ルリが怖がっているわね。ええ、私でも怖い表情していると思うわよ。


「あなたは女の子なの。身体は大事にしなさい!」

「はい……」

「よろしい」


 ルリの住んで居た島には女性は居なかったのかしら……?

 そう思いながら、ルリが見ていた赤いワンピースを見てみる。


「赤ね……。でも、深紅はちょっと派手ね。というより、これは違う意味で派手過ぎね……」


 赤でも深紅でも似合うかもしれないけど、これはルリには派手過ぎるわ。

 模様と思った部分は穴を空けたものだもの。下着とか見えるわよねこれ……。


「もっと違うものはないのかしら……」


 きょろきょろと周りを見てみると、気になった服があるわね。


「これ、悪くないわね」


 私が手に取ったのは、黒紫のシャツと黒いスカート。

 結局、黒なのか?ですって?違うわよ。

 黒紫のシャツの長さは、ルリの腰より少し長く、袖の長さは長袖。

 黒いスカートの裾には銀色の刺繍が入っているわ。裾に沿って2本の線かしら?


「あとは……、これかしら」


 薄い朱色チョーカーを見つけた。それと、髪留めね。


「さ、ルリ、これを試着してきな……」


 そうだった、試着する前に買うものがあるのよ!


「ルリ、下着選ぶわよ」

「やっぱりですか……」

「好みとかは……」

「黒がいいです」

「却下」

「ルリには似合わないから」

「着けてもいないのにわからないですよ?」

「想像つくから嫌なのよ……」


 私が、ルリに運ばれた時を思い出す。ルリがその時に、黒の下着を着けていたりしたら、問題になってたわよね。いや、裸の時点で大問題だけど…


「白でいいです」

「無難な色ねぇ」

「下はいいとして、上を何とかしないと」

「私はこのままで……」

「それが一番ダメ!」

「ぐすん……」


 一番の問題なのよ。見逃すわけないじゃない。


「さてと、どういうのが合うのかしらね」

「巻くのが楽ですよ……」

「ルリは例外ね」

「そんなー」


 簡単なのじゃないと、下着つけなくなりそうよね……。そっちの方が別の意味で問題になるし。

 ルリの事だから、見られても平気ですって言うでしょうけど……。


「あ、これがいいです」

「え?」


 普通ね。ルリにしては普通だわ。

 別に驚くところじゃない?逆に普通じゃないことが多いから驚くのよ……。

 ルリが選んだのは白い布地をぐるっと回して胸元で留めるだけの物。


「いいわね」

「ですよね。楽そうで……」

「何か言った?」

「言ってません……」


 楽なの選んで普通に辿り着いたのね……。


「下着は先に何着か買って、服を試着してきなさい」

「下着は同じ種類のでいいのです」

「そう」


 本当に下着に興味ないみたい。

 迂闊なことを言うと失敗しそうね。


「あとは、セシリーが選んでくれた服の試着ですね」

「いいから、行ってきなさい」

「はい」


 ルリが少し嬉しそうに歩いてるわね。

 これを機に色々と興味持ってくれるといいんだけど。


「セシリー、問題です!」

「な、なに!?」

「胸が合わなくて着れません……」


 ルリは本当に、怖い娘よね……。



「どうですか?」


 ルリが試着を見てみると。


「別人ね……」

「いい意味に聞こえませんよ……」


 本当に別人よ。やっぱり、黒のワンピースだけだとダメね。


「あとはこれ」


 髪留めをルリの表情が見えるように付けてみないとね。


「………」


 えっと。


「どうかしました?」

「………」

「何か言ってくださいよ!?」

「可愛いわねぇ……」


 思った以上に変わりすぎたわね……。


「そうですか?」


 薄い赤い瞳がこちらを見ている。本当にお人形みたいね。


「お人形が歩いてると言っても不思議じゃないわね」

「それはいい意味か悪い意味かわかりません……」

「誉め言葉よ」

「そうですか」


 実際、見惚れてたしね。

 表情は変えないけど、顔がはっきり見える。これだけでかなり違うわ。


「服はそれでいい?」

「はい。セシリーが選んでくれた物ですから」


 恥ずかしげもなく、真っすぐ言うわね。私の方が逃げそうになるわよ。


「それじゃ、お店の外にでたら少し休憩しましょ」

「はい」

「ルリはお腹空いてる?」

「少しお腹が空きましたね」


 返事と同時に「くぅ~」と音が聞こえたわね。空腹じゃない?


「食事にしましょう」

「……はい」


 ルリがへこんでるわね。美味しい物食べれば、機嫌も直るでしょう。



「さてと、ここで食事にしましょう」


 時間もちょうどお昼時だしね。


「ここは?」

「ここは隠れた人気のお店でね」


 慣れた手つきで、お店のドアを開けてお店に入る。ここはパンが美味しいのよね。

 お店の名前は『憩いの森』という名前。森って文字は木造からついてるとか聞いたことあるわね。


「いらっしゃ……、セシリーか」


 営業スマイルから、一気に愕然とするの止めて欲しいのよね……。


「私で悪かったわね」


 気にせず、カウンターに座ろう。


「すまん、すまん」

「セシリー、こちらの方は」


 ルリがひょこっと入ってくる。横に座るように言って、座らせる。


「こちらは店のマスター、面倒だからマスターって言えばいいわ」

「雑な扱いだな……」

「マスターさんですか」


 「それでいいか……」といいながら、メニューを渡してくれた。雑にもしたくなるわよね?


「私はいつもので」


 そう言って、メニューを返す。私の「いつもの」は果実の入った水と野菜が沢山入っている、サンドイッチよ。あっさりしてるから、食べやすいの。


「私はえーと……」

「ルリには、私と同じ物に追加でお肉を挟んだものをお願い」

「それでお願いします」

「はいはい」


 素っ気なく奥に引っ込んで行ったわね。ルリもいるんだから、もう少し優しくてもいいじゃない。


「何か気に障ったのでしょうか?」

「ルリは気にしなくていいわよ。いつもの事だから」


 ルリと雑談をしながら時間を潰していると。


「いつものだ」


 私とルリの前にプレートが置かれた。


「いい香り」


 このお店のパンは香りもいいのよ。


「美味しそうですね」

「ええ、美味しいわよ」

「店の主としては、まずいとは言えん」


 本当に素っ気ないわね……。


「さぁ、食べましょう」

「はい」


 ルリの感想は聞くまでもないから、私は飲み物を頂こうかしら。

 そう思い、青い色の飲み物を飲む。果実はマスターがメニューを受けてから決めるから、何になるかは基本的にわからないのよね。


「ふぅ……」


 さっぱりとした感じに一息吐くと。


「はむはむ……」


 予想通りね。

 ルリは一口食べてから、目を輝かせ食べているわね。


「美味しそうに食べるな」

「でしょ?」

「はむはむはむ……」


 私は自分のペースで食べることにした。

 ルリの分は多いから、ゆっくり食べて、いいぐらいの時間だと思うしね。



「ご馳走様でした」


 ルリが静かに言う。


「いい食べっぷりだったな。作ったかいがある」

「美味しかったです」


 何かしら?どちらも表情が変わらないのに会話が成立しているというのは不思議な感じね……。


「セシリーに新しい友達か。不思議なもんだ」


 のんびりとしていると、そう言われた。

 ルリを見ながら失礼なこと言わないでよ!


「私にも友達ぐらいいるわよ」

「シエラ以外に?」

「ぐ………」


 言い返せないのが嫌ね……。


「不思議なのですか」

「行くわよ!」


 ルリの手を掴んでお店を出る。


「お金は?」

「カウンターに置いてるわよ!」


 背中越しに言う。


「セ、セシリー!?」

「いいの!行くわよ!」

「は、はぁ……」


 ずるずると、ルリを引きずっていく。


「新しい、お友達。姪をよろしく頼んだよ。身内には愛想もないけど、悪い子じゃないから」

「はい」


 ドアが閉まる直前にルリが返事をした。


「いいのですか」

「いいのよ。普段と同じ」

「そうですか」

「そうです」


 ルリを引きずりながら、店を離れていく。

 私は見た。

 叔父の表情を、あの笑顔を。


「まったく、もう」


 次にお店に行った時に言おう。



「私は友人が少なくても、恵まれているのよ!」 と

 ルリアルカは好みの色が黒なので自然と黒になってしまいます。

 

 幼少期の失敗も理由の一つではありますが…。

 

 王都の散策はまだ続きます。



 次回も書き終わり次第更新となります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ