身分証?
身分証を得るためにギルドに登録した、ルリアルカ。
表示された内容が問題となり違う部屋へ。
案内された部屋はギルドマスターと呼ばれる、偉い人のお部屋の様ですね。
部屋の中を見渡しながら、椅子へ腰かけます。
「さてと、本当に困ったわね」
「私も、こんなのは初めて見たかも」
セシリーとシエラさんが私を挟んで座ります。
「そこまでの事が起きたのか」
目の前に戦争にでも行ったのでしょうか?傷跡が無数にある人が居ます。
この方がギルドマスターなのでしょう。
「ええ。おじさんはこれ、どう思います?」
セシリーが私のギルドカードをギルドマスターさんに見せました。
え?ギルドマスターさんでも悩むのですか……。
「ルリアルカさん。自己紹介がまだだったな。私はシエラの父であり、王都フェイマスギルド支部、ギルドマスターのウェイス・エルナンドだ」
「ご丁寧にありがとうございます。ルリアルカ・トゥルーと……正式にはトゥルーエンドらしいのですけど、トゥルーでお願いします」
「礼儀正しいお嬢さんだ」
笑いながら、ウェイスさんが言いますが。
「でも、これは確かに厄介だな」
私のギルドカードを見ながら言いました。
「ねぇ、ルリ。あなたは人なのよね?」
セシリーが訊ねてきます。
「はい。私は人族ですよ」
でも、ギルドカードには不明と書かれています。
「お父さん、こんなパターンってあるの?」
シエラさんがウェイスさんに聞きますが。
「はっきり言うとわからん。私がギルドマスターをやってから初めての出来事だよ」
それだけ私は謎なのですか。
故郷の島も関係しているのかな?と疑問に思っている時。
「ルリは魔族とかじゃないわよね?」
改めて聞いてくるセシリー。私は人間です!
そう思った直後、「パキン!」と音がしました。音の方を見ると、それは私のギルドカードでした。
『ルリアルカ・トゥルーエンド 種族 魔族』
「「「「え?」」」」
表示された内容に全員、驚きました。
「ルリって魔族だったの!?」
慌てだすセシリー。
「魔族だとしたら、場合によっては……」
シエラさんは穏やかじゃないですね。
「魔族か……」
ウェイスさんは難しそうな顔をしています。
「本当に人間なのですけど……」
これは嘘、偽りはありませんよ?
そう思っていた時、また「パキン!」と音が響きます。
「ルリアルカ・トゥルーエンド 種族 神族」
「「「「は!?」」」」
改めてギルドカードを皆で見ているとまたも「パキン!」と音が響きます。
「ルリアルカ・トゥルーエンド 種族 ―――」
「今度は表示がないわね」
「ええ……」
セシリーとシエラさんが呆然と呟く。
その中で一人、考え込んでいた、ウェイスさんが私の方を向いて言いました。
「ルリアルカさんは島出身と聞いたが」
そう言いながら、私の出身地を見ますが。
「出身地 不明」
と、ギルドカードは表示します。私の故郷はやはりでないのですね。
私は一人、納得しています。
「ルリアルカさん、あなたは魔島の出身じゃないのかね?」
ウェイスさんがこれしか心当たりがない、といった感じで言いました。
「……はい」
否定はしません。私は確かに魔島出身ですからね。
「魔島っていうと、あの魔島ですか?」
セシリーが戸惑いながら聞いています。
そうですよね。それが普通の反応だと思います。
魔島とは各属性と同じ名前が付いた島です。
魔島に行く人は、主にその能力の限界を超え、その先に到達した人が辿り着けると言われていると、お爺様から聞いたことはあります。
「そうすると、ルリアルカさんは何かに特化した能力があるということね」
シエラさんが言いました。
ですが。
「得意系統魔法 不明」
それすらも、私のギルドカードは明確にはしませんでした。
「「「「………」」」」
全員が沈黙します。ですが、均衡を破ったのはセシリーでした。
「ルリは普通の人が到達できない力を持っているけど、人に危害を出したりしないわよね?」
「当然です。私は……」
言うのをそこで止めました。セシリーが悲しい目をしてこちらを見ていたからです。
「なら、一体何が目的なのか教えてくれないか?さすがに事態が大きすぎるからな」
「そうよね。これだけの事態は普通だと起きないわ」
ウェイスさんもシエラさんも理由が知りたいらしい。
この国、いやこの世界に災いをもたらす人なのか?と。
「私は……」
「ルリはね、死ぬ場所を探しているのよ」
セシリーさんがお二人に言いました。何かを決意したような眼をして。
「セシリー……」
「ルリ、私が言うのは変だとは思うの。でも……でもこれだけは説明させて。お願い……」
決意は確かのようです。ですが、同時に泣きそうな顔もしています。
「わかりました。お願いします」
私は任せることにしました。人と関わらないように生きてきたので、最善と呼ばれる手段を持っていませんから。そこ、丸投げとか言わないで下さい。
「私とルリが出会ったのは昨日の事よ。王都へと続く道でね。ルリは何もせずに景色を眺めていたわ。でも、天気も悪くて。無理を言って、フェイマスまで一緒に来てもらったの」
私とセシリーは出会って、1日しかありません。ですが、セシリーは淡々言います。
ここまで心配してくれる人がいる。初めてのお友達ですが、私は恵まれているようです。
「でも、私が声をかけた一番の理由は……」
セシリーが思い出すように、目を瞑ってますね。
「今にも、消えてしまうような気がしたから」
シエラさんとウェイスさんは黙って聞いています。
「話しかけて、一緒に馬車に乗って王都に向かい、私の宿屋に案内して、色々と話もしたわ。それで確信したの。この娘は何かが欠けていると。でも、何が欠けているかというのも漠然としたイメージでしかないけど」
そこは感じるだけらしいです。
「それでも言えるのは……」
私を見て、セシリーが微笑みます。
「決して悪い娘じゃないということよ」
はっきりと言いました。
「そうか、セシリーがそこまで言う程か」
「あなたがそこまで言うなんて珍しいわね。一目惚れでもしたの?」
真剣に言う、ウェイスさんに対して、冗談をいうシエラさん。
「シエラ、冗談で言っているのはわかるけど、今は真剣なんだからね?」
「ご、ごめん!」
シエラさんが慌てて謝ります。少し怖がっているような気がするのは気のですかね?
「ルリに関しては確かにわからないことは多いわ。私も驚くことの方が多いし。でも、悪い事はしないとわかっただけでいいでしょ?」
「確かに」
「王都を陥落させに着ました」とか言われると困るしな。とウェイスさん。
呟いても聞こえていますよ?
「でも、死に場所を探しているなんて、物騒を超えた話じゃないかしら?」
「そうね。私もそうとは思うの。でも、ルリにも事情があるのだろうし、内容が内容だけに踏み込んで聞けないわ」
お二人とも心配されていますね。
「ルリアルカさん」
「はい」
ウェイスさんが真剣な声で言います。迫力あるので怖いですよ……。
「あなたが魔島の出身とわかって、また危害を加えるような人ではないと言うのもわかった。だが、他の魔島の方の意見はわからないのが、正直言って、私は怖い」
「そうですよね」
ですが、私には答えがあります。
「私が住んで居た魔島は……」
一瞬、当時の光景を思い出します。ですが今は……。
「私以外、生き残っている人は居ません」
「魔島の人間が、生き残って居ない…?」
ウェイスさんは信じられないという顔をしています。
「事実です」
「だ、だが!」
「この事は、今は私からは言いたくありません……」
私の雰囲気からしてわかったのでしょう。追及はなかったです。
「あと、この私の種族がわからないというのは、少し意味が解った気がします」
「「「え?」」」
一呼吸終えて、私は言いました。
「私には多種族の血が混ざっていますから」
「それはハーフとかそういう意味?」
セシリーが聞いてきますが。
「いいえ。私の場合は島の家族の皆の血を得ている。そして、魔力も得ているということです」
魔力を得る。それは師事した人の魔法を覚えるための方法です。ですが血は別です。
「島の家族の皆さんは、私を大事にしてくださいました。お爺様をはじめ、沢山の家族がです。私の島の皆は島にいる人が家族である。という認識で共に生活をしていましたから」
三人が沈黙する中。
「それって、ルリアルカさんが予想以上にとんでもない人という証明よね?」
とシエラさん。とんでもないは余計です。
「島の家族以外からしたら脅威としか思えないでしょうけど……」
私は静かに言います。
「守る力もなかったのですから、私は無力です。ええ、誰も救えませんでした」
暫く沈黙が続きましたが、私が危険ではないということを理解してくれたみたいで、気軽な会話などをしていました。
「はぁ……。セシリーがのぼせて、ルリアルカさんが裸で運ぶって……」
「ル、ルリ!別に言わなくてもいいじゃない!」
「ええー。私は楽しい会話をしようとしているだけですよ」
「はは……」
「ちょっと!お父さん、裸って言葉に反応しないの!」
「誰がするか!」
シエラさんの言葉にウェイスさんは居心地が悪そうな感じです。
「まったく……。世間話も楽しい話もするのは構わんが、ここはギルドマスターの部屋だからな?」
そうでした。
「普段と変わらないから、忘れてたわ……」
「そうね……」
セシリーとシエラさんが今度は居心地が悪そうです。
「いや、そこまで落ち込まなくてもいいんだが」
「「そうよね」」
二人が綺麗にはもりました。
「好きにしろ……」
あ、ウェイスさんが拗ねました。
「ウェイスさん、少しお尋ねしたいことがあるのですけど」
「…何かな?」
「魔島の出身者というのはどのように過ごしているのですか?」
私は島で暮らしていた人しか知りません。他の魔島の仕組みがわかりませんから。
「魔島か……。難しくもあり、簡単でもある」
一呼吸おいてから。
「まず、魔島出身という時点で、能力がその分野で圧倒的に強いというのはわかる。これが簡単なところに当てはまる。その能力を買われて、色々な職に就いたり、冒険者として旅をしたりと多様だ。ただ、難しいというほうは、ルリアルカさんと真逆の方向に育った人だろうな」
ウェイスさんがこちらを見ています。
「犯罪等に手を染める人と言えば解りやすいだろう」
「犯罪ですか」
変ですね。お爺様から聞いているのと少し違うところがあります。
「ああ。意味もなく、力を行使し、やりたいがままにするのもいるということだ」
「その人は本当に魔島出身なのですか?」
やっぱり、変です。
「どういうことかな?」
「いえ。お爺様から聞いた話だと、魔島で暮らす人は誇りがあると聞いたのですけど」
「そういうことか。職に就いている人、冒険者として有名になっている人はそうだろう。だが、それ以外は誇りなんて基本的に持っていない」
「そうですか……」
お爺様は言いました。「誇りを持たない者は魔島の者であると言ってはならない」
私は家族と一緒に過ごせればいいと思っていたので誇りという物はわかりませんが、家族の一員であるということに恥じないようには生きていました。たぶん……。
「お父さん、難しい話して、ルリアルカさんを困らせて楽しんでるんじゃないでしょうね?」
「いや、それはない。まぁ、困った顔は可愛らしいとは思うがな」
「え……」
不意に振られて、反応に困ってしまいました。
「うふふ……」
あ、シエラさんがこの部屋に来る前の様な雰囲気を出しています。
「怒っていいところよね?セシリー、判断は?」
「怒っていいわ」
二人とも、うんうんと頷いています。
「ま、まて!」
「待ちません!私達と同じ歳の娘を困らせ、それを楽しむだなんて…」
シエラさんが満面の笑顔でいいました。
「素直にやられてね?まぁ、手加減する気なんてないけどね!」
「やっちゃえ、シエラ!」
「セシリーまでですか!?」
私が言い終わったと同時にシエラさんがウェイスさんを殴り飛ばしました。ええ、文字通りに。
「まったく。ルリアルカさん、お父さんがごめんね」
「い、いえ。気にしてませんので」
そう言いながら、ウェイスさんが倒れているところを見ます。痛そうですね。殴り飛ばされて激突した壁にひびが入ってます。
「ウェイスさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ…。うちの娘は加減を知らないというかなんというか……。ルリアルカさんのように大人しい娘だと良かったんだが」
「おじさん、私は?」
セシリーが横から聞いていますね。
「普通だな」
「可もなく不可もなくな答えね…」
普通っていいと思いますよ?
「はぁ……。父親がギルドマスターなんてしてるから仕方ないのかもしれないが、シエラはもっとお淑やかに育ってほしか……」
「お父さん」
シエラさんが低い声でいいました。え、なんですかセシリー?え、ちょっと。
私はセシリーに引っ張られていきました。直後。
「ちゃんと反省しなさい!」
ウェイスさんが蹴り飛ばされました。部屋の壁が崩れましたね。
「ルリ、これがシエラとおじさんの日常よ」
「はぁ……」
「まぁ、退屈しないと思うわよ?」
「ですね。それにしても、驚きです」
「あ、ごめんなさい。驚かせたわよね」
シエラさんがこちらに戻って来ながら言いました。
「はい。人の形のまま壁に穴が開かないのが驚きでした」
「「驚くところはそこなの!?」」
セシリーとシエラさんの声が綺麗に重なります。
「ルリには本当に色々教えないとダメね……」
「セシリー、私も手伝うわ。思った以上に大変だと思うから」
二人してこちらを可哀そうな目で見ます。泣きますよ?
「明日からは何をしましょうか」
私はぽつりと言いました。
「3人でお出かけしましょう。ルリにも色々なお店を案内したいし」
「いいわね、それ」
セシリーとシエラさんが色々と話し合っています。
「本当に退屈しなさそうです」
こうして、私の初ギルド訪問は終わったのでした。
「えっと、これは身分証として使えるのでしょうか?」
「「絶対無理!」」
「ええ!?」
この様な会話があったのかは3人の秘密です。
ルリアルカ・トゥルーエンド
種族 不明
性別 女性
得意系統魔法 不明
出身地 不明
ルリアルカのギルドカードです。
ギルドに登録はされたので、身分証として使えますが、怪しさの方が上回りますね。
次回の更新も普段と同じで書き終わり次第となります。