傷つく者、裏で動く者
立っているのも辛い。
それでも、私は立っている。
これは私が得たものだ。
「とりあえず、生きてるとは思うけど……っ!」
少しずつ、身体強化が薄れていくのがわかる。
一時的だから、仮初めね。
(はぁ……。この後、相当苦しみそうね……)
痛みが徐々に増していく。
身体強化の魔法が解除されると、ごまかしている痛みは直接伝わる。
(レティアが居れば問題ないけど、あの子供しかいないわね)
周囲にはレティアの姿が見えない。
治療を終えた後、宿に戻った……この騒ぎの中ではありえないわね。
どこかで買い物でもしているのかしら?
(さすがに痛みで目の前がふらふらするわね……)
目の前の景色が激痛で歪んで見える。
周りの歓声も聞こえにくい。
「……え?」
不意に、身体の内側から込み上げてくる感覚が現れ。
「ごほっ!」
大量の血を吐き、地面にうずくまってしまった。
「ルリさん!?」
「ルリ!」
「お姉さま!?」
シエラ、ゼフィア、ファリスの三人が駆け寄ってくるのがわかる。
「大丈夫よ……げほっ!」
またも大量の血を吐き出す。
思った以上にマズイかもしれない。
「お姉さま!しっかりしてください!」
ファリスが私を抱き起した。
「そんな顔し……」
言い終える前に、また血を吐いた。
私の吐いた血で、ファリスが赤く染まる。
「おねえ……さま?いや……いやあああぁ!」
ファリスが青ざめたまま叫んだ。
「誰か早く治せる人を!誰か居ないの!?早くしないと、お姉さまが……お姉さまが!」
「落ち着きなさいよ……」
「お姉さまはしゃべらないで!誰か!誰かいな……ぐっ!」
ファリスはゼフィアの手刀で意識を失った。
「ファリスを頼む」
ゼフィアは兵にファリスを預け、私の方へ向いた。
「無茶し過ぎだ」
「……ごめんなさい」
「触れるぞ」
ゼフィアが私の腹部に触れる。
触れられるだけでも、かなりの痛みはある。
「くぅ……がはっ!」
腹部を押された直後、激痛と共に血を吐き出す。
「……らん……ぼうね……」
痛みでくらくらする。
でも、ゼフィアが手を当てている部分は痛みが少し和らいだ。
「さっき使った魔法は使えないのか?」
「あれは一時的なものよ……」
「そうか。……頼むから、もう無茶はしないでくれ」
「……場合によるわ」
私がそう答えると、ゼフィアは目を瞑り。
「お前はバカだ」
と、一言いう。
「仕方ないでしょ」
と、私は切り返す。
少し楽になったので、会話がしやすい。
話すと痛いけどね。
「お前は今は魔法も使えない。ただの優れた身体技能を持っただけの人なんだよ。だから……無茶はしないでくれ……」
「……考えておくわ」
私は簡単に答えると。
「私も心配してるんだよ……」
ゼフィアの後ろから、冷たい目をしたシエラが見える。
「……怖いわよ」
「私だって怒るんだよ?」
シエラの目が語っている。『いつも心配しているのに!』、『無茶をしないで欲しいのに!』、『ルリさんが怪我をすると怖いんだから!』、『ルリさん、大好き!』と。
……あら?
最後は怒っているのではなく、好意よね?
(器用な事ができるわね)
と感心していると、『カチッ!』と小さな音が聞こえた。
「今の音はなに?」
「何か音がしたのか?」
「何も聞こえてないよ?」
ゼフィアとシエラには聞こえていないようだった。
でも、音がしたのは間違いない。
「今の音はどこから……!?」
音は聞こえないが、目に見えて異常なのがわかる。
間違いない。音の発生源はラインの持っていた武具からだった。
「まだ動くな」
動こうとする私を、ゼフィアが止める。
安静にしていた方がいいのはわかる。
でも、今はそれどころじゃない。
「もう少しだけ無茶させて!」
そう言って、ゼフィアを振り払って立ち上がる。
時間がない。直感がそう告げる。
(身体がいうことをきかないわね……)
歩くとふらつくが、気にする暇はない。
少しでも早く、あの武具をなんとかしないと。
あの雰囲気には覚えがあるもの。
圧縮された魔力の爆発の予兆よ!
(あれほど圧縮されていると……この辺りは吹き飛ぶわね……)
今、この周囲には大勢の人がいる。
それに『ミューズの安らぎ』にギルドもある。
それだけは……絶対に防がないとダメよね。
「あと少し……」
ラインの元まであと数歩。
あの武具を回収さえすればまだ……。
「……これに気が付くとはさすがだな」
「やめ……」
私が言葉を掛けるに。
「終わりだ。全員まとめて死ね!」
ラインは武具を宙に放り投げた。
「まだ今なら!」
宙に舞う武具を掴み取る。
「これで……っ!」
この状態でも武具の効力はあるらしい。
掴んだ右手に激痛が走る。
「これぐらいで……くぅうううう!」
武具を落とさないように握りしめ、翼を広げ飛び上がる。
爆発しても、空なら被害は少なくできる方法はある。
私は無事では済まないだろうけど、そんなことはどうでもいいわ!
「これぐらいの痛み……何とも……ない………え?」
身体のあちこちから血が噴き出した。
「なによ……これ……?」
傷口が開いたのなら、部分的に出血が酷くなるのはわかる。
でもこれは……傷口を広げる魔法?
悪趣味もここまでくると可愛く思える。
(爆発させても大惨事、防ぐために動いても大怪我ね……。こんな武具作ったバカは誰よもう!)
「ルリ!それからさっさと手を放せ!」
「いくらルリさんでも死んじゃうよ!」
地上から声が聞こえる。
(私だってこんな物騒なものに触れたくない。でも、今これを対処できるのは私しかいないのよ!)
身体から血が抜けていくのがわかる。
出血量も並大抵ではない。意識の低下もわかる。
「これだけは、何とかしてみせるわ!」
左手で翼を掴み、一気に数本の羽を引き抜いて握りつぶす。
(これなら、今よりさらに無茶は出来る)
翼を羽ばたかせ、更に上空へ飛び上がる。
周囲の建物よりも遥かに高く、被害がでない高さまで一気に!
「……ここまで空に上がれば大丈夫よね?」
周囲を見渡すと同時に、口から血が流れ始めた。
内部の傷も開いたようだ。
慣れたくないけど、何度目の血の味かしら?
「武具もそろそろ限界」
私は武具を上空へ放り投げ。
「消えなさい!」
羽を数本、武具に目掛けて投げる。
これで武具の爆発は最小限で済む。
「そんな!?」
私の考えと違い、羽は武具に突き刺さる事はなかった。
理由は簡単。
先に武具が爆発したからだ。
「くっ!ううううぅう!」
爆発の余波が広がらないように、爆発の元を抱え込む。
(身体強化が続いている間に対処しないと……)
爆発の核の魔力は相当なものだ。
この規模が地上で爆発していたら、周囲は間違いなく瓦礫の山になっている。
「っ!」
抱え込んでいた、両手に痛みが走る。見てみると、両手には焦げたような跡があった。
「さすがに高熱になるわよね……。爆発の元だし……ごふっ!」
言い終えると同時に大量の血を吐き出す。
「本当に最悪ね………」
吐血した時点で、出血量はさらに増える。
こうなると『私が先に力尽きるか』、『爆発を抑え込めるか』の二択しかない。
「だったら、力尽きるわけにはいかないわ!」
抑え込んで終わらせると決めた途端、身体を被う魔力が減っていくのに気が付いた。
「この武具、私の魔力まで食べてる!?」
少しだけど、抱え込むのが緩む。
それは決定的な隙とも言えた。
「しまっ!」
急激に圧縮されていた魔力が膨張した。
「ぐ……うぅぅぅ……」
爆発の方向は下に向けてだった。
私それに気付き、両手を広げて、爆発を受け止める。
両手からは焼ける感じがする。髪からも焦げた匂いがする。
逃げてもいい事が目の前で起きている。
でも、私は逃げない。
私が私である為にも、逃げるわけにはいかない。
「皆を助ける……それが私の願い!その為になら、私の命なん……!?」
魔力が更に膨れ上がり。
「きゃぁああああ!」
私は砲弾の様に、魔力から弾き飛ばされた。
「私のせいで……皆が………」
意識が薄れていく。
「また、守れ……なか…………」
私の意識はそこで途切れた。
「……ん」
目が覚めると同時に全身に激しい痛みが走る。
「まだ生きてる……」
痛みがあるということは生きている証拠でもある。
あの爆発から、私は生きている。
でも、どうやって?
「ここは……レティアが眠っているベッド?」
周囲を見渡すと、見覚えのある部屋だった。
意識が徐々にはっきりとしていく。
「そういえば……」
意識が途切れる瞬間、誰かの気配があった気がする。
でも、思い出すのは無理だった。意識がないから、仕方ないわよね。
「レティアは居ないわね」
部屋の中に居るのは私だけ。
部屋は暗く、小さな明かりだけついていた。
……少し、寂しいわね。
「……ルリ?」
タオルを片手に持った、セシリーが部屋の中に入ってきていた。
「おはよう……という時間じゃ……」
「パンッ!」と乾いた音が響いた。
セシリーは私が起きているのを確認すると、こちらに一直線に向かって歩き、私の頬を叩いたのだった。
「セシリー?」
セシリーに叩かれた頬を触る。
痛いというより、驚いた方が大きい。
「……バカ」
「セ……」
「バカ……ルリのバカ!」
大粒の涙を溢しながら、セシリーが叫んだ。
「いつも言ってるわよね?危ないことはしないでって!それなのに……それなのに!ルリのバカ!大バカ!」
セシリーに抱きつかれ、ベッドの上に倒れこんだ。
「バカ……ルリのバカ……」
「バカって連呼しないで欲しいわ……」
「ルリのバカ!」
私の意見は一蹴された。
目が覚めた直後にこれはないとは思うけど、仕方のないことよね……。
確かに、バカな行動を取ったのだから。
「バカ……バカ……バカバカ!」
押し倒された上から、手でバシバシと叩かれる。
「セシリー!?」
「バカバカバカ!」
「いたっ!ちょ、ちょっと、落ち着いて!?」
「バカバカバカバカバカ!」
「頼むから、落ち着きなさいよ!」
そう言ったものの、私は叩かれ続けるのだった。
バカと言われたのはきっと三桁はいったと思うわ……。
「落ち着いた?」
セシリーに声を掛けると。
「……ルリのバカ」
と返事が返ってきた。
「まだ言うのね……」
私が呆れたように言うと、セシリーは真剣な顔をしてこちらを向いた。
「……もう無茶はしないわよね?」
私の答えは知っているはず。
でも、セシリーは尋ねてきた。
「約束はできないわ」
「そこは変わらないのね……」
「私だからよ」
私の返事を確認した直後、セシリーの目が細められた。
「ねえ、ルリ」
「なによ?」
「私はルリが無茶してる姿は見たくないわ」
「………」
セシリーと出会って、そこそこ過ぎたと思う。
だからこそ、今のセシリーが普段と違うのが直ぐわかった。
「もう嫌なのよ……」
セシリーは言いながら、両手で私の首を掴んだ。
震えながらも、手に力が入っているのがわかる。
「大好きな人が……親友が……あんなにも傷ついている姿を見るのはもう嫌なのよ!」
「………」
「でも……それでこそ、ルリなのよね。ルリらしいっていうのも、わかってる……わかってはいるのよ……」
セシリーは寂しく、悲しそうな表情を浮かべていた。
心配してくれる人がいる。これは幸せなこと。
「だからこそ、あんな姿を何度も見るのが辛いのよ!私は弱いから……ルリの手伝いはできない……。同じ場所に立てるなら、そんな風にも思わないかもしれない……。でも、私は弱いのよ!ルリみたいに強くなんか……ないんだから……」
「……私は強くないわよ」
嫌味な言い方?違うわよ。私は本当の意味で強いと思ったことはない。
本当に強いというのは、お爺様やアルテナのことを言うから。
だから、私は強くはない。
「セシリーや皆に辛い思いをさせる私が強いと思う?」
「何を言って……」
「私の中では『強い』というのは、『心が強い人』というのを指すのよ。『剣術が強い』、『体術が強い』、『魔法が強い』ではなくね」
「……なによそれ」
セシリーはわからないという表情をしていた。
「……私はお爺様やアルテナのようになりたい。でも、それは遥かに遠いのよ」
「ルリの家族は無茶苦茶よ……」
セシリーは両手を放して、微笑んでいた。
私が気を失った後のことを聞くと、セシリーは答えてくれた。
セシリーは私が子供を助けた所から、見ていたらしい。
「王様、やっぱり凄いのね」
まとめると、こうらしいわ。
空で大爆発が起きた直後、シエラの横に居たゼフィアはその場から消えていた。
立っていた場所には陥没した足跡だけがあり、その後、上空でとてつもない魔力が集まったと思えば、爆発の元は真っ二つに割れて消し飛んだ。
そして、周囲がざわめく中、空から私を抱えた、ゼフィアが地上に降りてきたらしい。その時の私の姿は全身を血で濡らし、皮膚のあちこちが焦げ、呼吸もしているのかわからないほど酷かったと。
「あんな姿はもう見たくないわ」
セシリーはまた涙を浮かべていた。
「私も進んでなりたくないわよ。それに、レティアが治してくれたとは思うけど、痛みがあるのが不思議ね。それだけ酷かったってことよね?」
「それは……」
セシリーが不自然に視線をずらした。
何かあるわね。
「何を知ってるの?」
「べ、別に何も……」
セシリーの目が泳いでる。これで知らないはずはない。
「私に隠し事するんだ?」
「……怒らない?」
「怒るも何も、私は理由がわからないのよ?怒りようもないわ」
私を怒らせるような事したのかしら?
「本当に怒らない?」
おどおどしながら言われる。
なら、試しに言いましょう。
「怒る」
「え!?」
セシリーがその場で跳ねるぐらいの勢いで驚いた。
聞くのも怖くなってきたわね……。
「冗談よ、怒らないから教えて」
「レティアが治療した時に……『ルリお姉ちゃんは心配する側の怒りを思い知ればいいのです……』って、痛みだけ残るように細工したのよ」
「……は?」
怒るというよりも驚いた。
回復魔法にそんな細工ができるとは知らなかった。
そして、それを思いついていた、妹に恐怖すら覚える。
「私もシエラも止めたのよ……。でも、レティアがルリが怒った時みたいな笑い方をして……」
「それで止めれなかったのね……」
レティアは後日、何とかしましょう。
いえ、何とかしないとダメね。
「レティアはどこにいるの?」
「お城よ。王様も少し怪我をしてたから、その治療にね」
「城ね……ゼフィアにお礼も言わないとだから、丁度いいわ」
「今から行くの!?」
時間は夜も遅い。驚くのも納得できる。
「無事に目が覚めたと、早く教えてあげた方がいいじゃない?」
「それはそうだけど……」
「それじゃ、行くわね」
「ちょ、ちょっとまって!」
「なによ?」
「行くのはいいけど、服着てから行きなさい……」
「服?」
言われて、自分の姿を見る。
下着だけしか着てなかった。
「全く気が付かなかったわ。……脱がしたの?」
「そんなことしません!まったくもう!」
私は四日間眠っていたらしい。
一日で治りきらない程の怪我だったらしく、治すだけでも三日が経過。
レティアが城に居る理由は疲弊しきっていて、いつ倒れてもおかしくなかったから、念のために城に呼んだと。
「ほんと、過保護ね」
私はセシリーにそう言って、窓から外へ飛び出した。
ドアからじゃない?騒動の後だから、普通に出たら、囲まれるかもしれないでしょ?
あと、服は着てるわよ。
「さてと、城の前に来たのはいいんだけど」
夜中なので、城門は閉まっている。
飛べばいいのだけど、色々と迷惑かけそうだから悩みどころね。
騒動の後だし。
(普通に門番に声を掛ければいいかしら?)
正攻法?というわけじゃないけど、普通に訊ねてみましょう。
ダメだったら……飛び越えましょう。
「こんばんは。夜中だけど、お城に入れてもらえないかしら?」
私の声に、門番の槍がこちらを向く。
そうよね。それが普通の反応よね。
(仕方がないわね。飛んで抜けましょうか)
そう思った直後。
「ルリアルカ様」
ふと、聞き覚えのある声が聞こえた。
「ザインさん」
城門の横にある入口から、ザインさんが出てきた。
場所的に、城門を開けていない時の通用口なのだろう。
「気が付かれたのですね。心配しておりました」
「色々と心配かけてごめんなさい」
「いえ、無事なお顔を見れて安心しました。深夜ですが、ゼフィア王に会いに来たのですね?」
「ええ、通してもらえると助かるんだけど」
「かまいません、こちらへ」
私はザインさんが居る通用口に向かった。
「ルリアルカさんがラインという者と戦ってから、四日ほど過ぎました。皆、心配しておりましたよ。ファリス様は『私もお姉さまの傍にいる』と大騒ぎでしたから」
「……本当に、心配かけたわね」
改めて、四日間が大きなものだと理解した。
そういえば、ラインはどうなったのだろう?
「ザインさん、ラインの消息はどうなりました?あれだけのことをしたのだから、最低でも冒険者資格の剥奪ぐらいはできてると思うんだけど?」
私の問に対して。
「その方は死にました」
と簡単な返事が返ってきた。
「その場で処刑でも行ったの?」
「いえ、どこかの路地裏で遺体で見つかり、何者かが連れ去ったとしか。きっと、貴族の手の者でしょう。不始末を隠すためにでしょうね」
「そう……」
個人的には資格剥奪だけで良かったのだけど。あれだけのことをすると、後ろ盾の貴族から攻撃されても仕方がないようね。
「ルリアルカ様、ゼフィア様は今の時間、入浴なさっていると思われます」
「そうなの?私もお風呂入ってないし、お邪魔しようかしら」
「……ルリアルカ様のことですから、間違いは起きないでしょうけど、ほどほどにお願いします」
「ええ。盛大にからかってくるわ」
ザインさんが苦笑したのを見た後、私は浴場のある場所に向かって歩き出した。
以前、来た時に場所は聞いたので覚えている。
私がお風呂の事で間違える事はありえない!
「家族なら、こういう事もあるのでしょう」
ザインはルリアルカを見送り、数日前の事を思い出していた。
四日前 ルリアルカとラインの戦闘後 路地裏
「くそ!何とか逃げてはきたが、身体がまともに動かねぇ……。貴族の連中の迎えはまだか!」
ラインは爆発の騒動の中、気付かれないように、裏路地へ逃げていた。
(あの爆発は俺の魔力、魔法の構成で俺には影響がでないからな……)
姑息な切り札であった。
「このまま、裏路地で隠れていれば、迎えはくるだろうが……。いてぇなくそ!あの女、化け物と同じじゃねーかよ……」
「ルリアルカ様を化け物呼ばわりするのは止めて頂きたい」
「誰だ!」
裏路地には気配はなかった。
しかし、声が聞こえる。
「あなたにはここで死んでいただきます」
ふと、目の前に現れた、初老の男が剣をゆっくりと引き抜いた。
「俺を殺すだと?俺には貴族の後ろ盾がいるんだ!殺したとしても、後でどうなるかわかっているのか!」
「別に気にすることはありません。ちなみにお聞きしますが、どこの貴族でしょうか?」
「クレバレスタの貴族だよ!それも、名門のな!」
「ほぅ……」
ラインの言葉に初老の男の声のトーンが低くなった。
クレバレスタはファニエスタ王国よりも二つ隣にある国だった。
「クレバレスタ……そこの名門となると、サイファーレンという貴族ですか?」
「知っているのか?」
「よく知っております。……そうか、サイファーレンからこのようなバカが出てきたか」
「!?」
初老の男の気配は殺気を纏うものに変わり、話し方も変わっていた。
一体、何を知っている?何を考えている?
「その家名の貴族は……私の親類だ」
「な……に……?」
「つまり、私はそこの家の者だ」
「バカな!?あの家に、お前のような人物はいな……」
ラインの顔色が青く変わる。
それに対し、初老の男は笑っていた。
「私は弟に家名を譲った。ゼフィア様を守るために」
「おまえはまさか!?」
「気様ごときが、私の名を口にするのは許さん」
初老の男、ザインが言い終わると、ラインの胸元へ剣を突き刺していた。
「そして、一番許せないことは……ルリアルカ様を狙ったことだ」
「き……」
「簡単に死ねる幸運を喜んで……逝け」
ザインは剣を引き抜くと、身体を回転させ、そのままの勢いでラインの首をはねた。
「監視している者がいるだろう?」
ザインの言葉に、四名の黒ずくめのフードを被った人達が現れる。
「ご無沙汰しております……」
「挨拶はいい。弟に伝えて欲しい、サイファーレンからこのような目に余る人物に家名を許すなと」
「……かしこまりました」
4人が静かにラインの遺体を片付けていく。
「……弟に追加で伝言を頼む」
「何でしょうか?」
「今後、サイファーレンの後ろ盾を得た者が、ルリアルカ様を狙った場合、サイファーレンを潰すと。そう伝えておいてくれ」
「それは、実家であるサイファーレン家を亡ぼすという事でしょうか?」
ザインはその返事に無言で頷いて返した。
4名は考え込むように止まったのち。
「ザイン様の覚悟はわかりました。一言一句違えることなく、お伝えします」
「手間をかけてすまない」
「お気になさらないでください。それに我々は今でも、ザイン様に仕えたいと思っております」
「そうか。だが私にではなく、弟に仕え、家名を守ってくれ。それだけで、私は嬉しく思う」
「勿体ないお言葉……」
「では、頼む」
「「「「「は!」」」」
四名はラインの遺体を担ぎ、その場から消えるように去った。
「私もルリアルカ様の事となると過保護だな……」
ザインはそう呟いた。
魔法が使えなくなってから、ルリはボロボロになることが多いです。
それでも、周りが助けてくれるので、大丈夫なのですが。
裏の顔のザインがついにでました。
忠義の為だけに裏で動く。
今回の事はルリは知りません。
意外と、謎が多い人たちの話ですが、色々と判明していくこともあります。
次回の更新は書き終わり次第となります。




