表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/60

高級宿での驚きと楽しみ

 宿の案内を聞く、ルリアルカ。

 見たこともない風景に驚きが続きます。

 セシリーさんに案内された『ミューズの安らぎ』の設備を簡単に説明しますね。

 まずは食堂。ここは先ほど私とセシリーさんが食事をした場所です。夜になるとお酒も飲めます。未成年はダメですよ?

 次にお風呂です。時間は20時間いつでも入浴可能。時間というのはこの世界は20時間で1日になります。

 驚くことに、高級宿になると身体をマッサージしてくれる場所があるようです。やはり、ここは別世界ですね。せっかくですから、一度行ってみましょう。

 そして、最後に私が案内された部屋ですが。


「ね?凄いでしょ」

「………」


 セシリーさんが自慢げに言いますが、私は反応に困ります。部屋の鍵を使って開けると、驚くぐらい広い広間がありました。


「で、こっちに個人で入れるお風呂があって、こちらがトイレ。部屋の奥に続くドアの先に寝室…」


 パタパタと歩きながら説明をしてくれますが、私はそれどころではありません。


「あと、ここにあるベルは鳴らすと受付にわかるようになっているから、用事があったら鳴らしてね」

「………」

「食事は選択になってるけど、面倒よね。全部手配するわ」

「……は!?」


 食事に反応してしまいました。食いしん坊?違いますよ?


「えーと、説明は一通りしたけど、覚えてる…?」

「たぶん?」


 疑問形でしか答えることができず、横を向きます。


「各場所に入るとわかると思うから大丈夫よね。あ、ルリアルカさん、裸で外に出たりしてはダメよ?」

「そんなことはしません!セシリーさんは私を何だと思っているのですか…」

「だって、財布の時を考えるとねぇ?」


 真顔で言われてしまいました。


「下着はつけてますから大丈夫です」

「服を着なさい!この娘は本当に……」


 セシリーさんが頭を抱えてます。島だと別に下着でも平気でしたよ?


「とにかく、部屋を出る時は服を着て出ること。いいわね?」

「わかりました」


「ルリアルカさんの両親はどんな教育をしたのかしら……」という言葉が聞こえましたが、聞こえないふりをします。私には両親は居ませんからね。その代わり島の皆が家族でした。


「さてと、私もここで休憩するわね」


 そういって、席に座るセシリーさん。宿屋のお仕事はいいのかな?


「私は平気ですけど、宿屋のお仕事はいいのですか?」

「大丈夫。逆に、休んでこいと言わんばかりの目で見送られたわ…」

「そうですか」


 ここの宿屋の皆さんはいい人ばかりのようですね。


「ルリアルカさんはお風呂はどうするの?大浴場の方に行くのなら、一緒にいかない?」

「大浴場ですか。気にはなりますけど」


 私はやっぱり、大勢のところは苦手です。関心もないですしね。


「人が少ない時間を選んで、その時に行きましょう。はい、決まり」

「拗ねますよ?」

「え!?」


 あら?思っていることが言葉に出てしましました。


「ご、ごめんなさい。浮かれてるのは認めるけど、そこまでとは思わなくて」

「いえ。私も思っていた事が言葉に出てしまい。驚きました」


 追い打ち?嫌なことを言わないでください。


「私も同じ歳の人と一緒に食事や話をするのは初めてですから、どうすればいいのか悩んでしまいまして」


 フォローはばっちりです。たぶん。


「じゃぁ、大浴場にいくのはいいの?」


 困った顔のセシリーさん。ちょっと可愛いですね。


「はい。それにこれだけの大きな宿屋ですから、仕方がないと思います」

「よかった」


 本当に安心したようです。私、そこまで酷い事を言いましたか?


「お風呂に行くのは少しゆっくりしてからでいいですよね?」

「ええ。ルリアルカさんのタイミングに合わせるわ」

「はい」


 セシリーさんは明るい方ですね。ちょっと意地悪な気もしなくはないですが。


「ルリアルカさんは王都に来るまではどこを旅していたの?」

「私の旅路ですか?あても無く歩いて、し…」

「こーら」

「むー」


 先に手を打たれてしまい、膨れます。


「気軽に言わない。ルリアルカさんは生きてるんだからね」

「そうですけど…」

「王都にはスラム街もあるわ。そこでは生きたくても生きれない人もいるの。ルリアルカさんの過去に何があったかはわからないけど、生きているんだから。気軽に言っちゃダメよ?」

「気軽に言っ……」

「なぁに?」


 怖いです!セシリーさんの笑顔が怖いです!


「こほん…。私の旅路ですか」


 怒られるのは嫌です。逃げていませんよ?


「そうですね…。島を出てからは海を渡って。そのまま、陸地を歩きながら魔物に遭遇したら、倒して素材を得て、町等で売って…」


 簡単に私の旅の行動を説明します。


「つっこみどころが多すぎるのは私の気のせいかしら……?」

「そうですか?」


 私はそれが普通でしたし。どの様に言えばいいのかわかりません。


「わかったことは、ルリアルカさんが強いってことだけね」

「………」


 私は公定しません。


「魔物も倒せる。盗賊も撃退できる。それで強くないわけないじゃない」

「私は強くなんてありませんよ。ただ、その時にできることをしただけですから。ダメだったときはそれまでです」


 思わず、俯いてしまいます。本当に強いのなら、昔も大丈夫だったはずです…。


「………」

「………」


 沈黙が続いてしまいましたね。どうしましょう?


「お風呂です」


 こうなれば、人が居ても構いません。私の方から誘ってみましょう。


「いいの?今の時間だと人多いわよ?」

「いいのです。行きましょう」


 あ、着替えを出すのを忘れていました。


「準備をするので少し待ってください」


 そう言って、右手を広げるように動かします。着替えを出しているのですよ?


「準備できました」


 言い終わった直後、右手に就寝時に着る服を持っていると。


「……空間魔法?」


 セシリーさんが珍しい物をみたという目でこちらを見ています。


「です。旅の手荷物が減るので便利ですよね。物をいつでも収納できますから」


 当然のことですという顔をしていると。


「普通はそんな魔法使えないわよ……」

「え……?」

「使えません。魔法の超上級レベルじゃないの……」


 セシリーさんがまたも頭を抱えています。あれ?空間に物を収納できるのって普通じゃないの…?

 補足説明をここでしますね。この世界の魔法は無、光、闇、火、水、風、土の7つの属性が存在します。私が今使ったのは無属性の魔法です。本来は空間魔法という種類なのですが、無属性の派生ですのでここでは割愛しますね。


「そうなのですか?日常の魔法と思っていましたけど」

「そんな日常はありません!」


 怒られました……。私、本気で泣きますよ?


「どうして、ここまで常識がないのかしら……」


 セシリーさん、さらりと酷い事言いますね。


「ルリアルカさん、空間魔法が使えるとバレないようにしてね?面倒なことに巻き込まれるから。……他にも色々ありそうね。私で対応しきれるかしら?」


 さらに追い打ちが入ります。あ、ダメです、目元が熱くなってきました。


「どうすれば、ルリアルカさんを普通の人に見えるようにできるかしら……」

「うぅ……」


 泣いてしまいました。ええ、無理です。さすがに耐えれません。


「え……」


 私の頬に流れている涙を見てセシリーさん完全に止まりました。


「うぅ……。セシリーさん、酷いですよ……」

「ご、ごめん!泣かせるつもりなんて本当にないのよ!?ただ、ルリアルカさんがこのまま生きていくと無条件ですごい事に……」

「……さらに追い打ちなんて。酷いです。酷いですよー!」

「いや、だって!?ああ、もう!」


 セシリーさんが叫びます。


「ルリアルカさん、ごめんね。本当にごめんなさい!」


 深々と頭を下げられます。


「いいです……。私は非常識の中で生きてますから……。うぅ……」


 泣いて拗ねてあげます!


「私なんか一般常識なくて、何も知らなくて、何もないのですよ!」


 私が泣き叫び、セシリーさんが大慌てでフォローに入るも追い打ち発言をする。そのようなやり取りがしばらく続いたあと。


「むー」


 私は盛大に拗ねました。泣くのはやめましたよ?子供じゃないんだから拗ねない?知りませんそんなこと!


「落ち着いてくれたかしら…?」

「落ち着いてます。拗ねてるだけです」

「もう…」


 セシリーさんが頭を撫でてきました。


「ルリアルカさん、宿代は気にせずにここで色々と覚えていかない?」

「むー」

「今まで覚えるきっかけがなかったのよ。そうじゃないと、ここまでひど……こほん」

「…きっかけですか?」


 人と関わりを持たないように生きていましたから、今後も覚える予定はないのですが。それと、最後はきっちり聞こえましたよ?


「ええ。別に変わらなくてもいいの。ただ、知っているだけでいいわ」


 真剣に言われました。私の本心が言い辛いです。


「私が教えてあげる。って、そこまで偉くはないけど……。それでも、ルリアルカさんには今よりも違った道を進んで欲しいの」

「…そうですか」


 島の家族以外、ここまで気にしてくれる人は居ませんでした。ちょっと嬉しいですね。


「聞くだけですよ」

「うん。それだけでもいいの」


 ここまで言ってくれるのです。色々学ぶのも悪くないかもですね。


「お風呂に行きましょう」


 私はぽつりと言いました。


「泣いたので顔を洗いたいのもありますから」

「ごめんなさい……」


 少しぐらい反撃もしますよ?


「案内するわね」

「はい」


 何度やり取りを交わしたかわからない会話をし、部屋を出ます。あ、鍵を閉めないと。


「大浴場は本当に大きいから、くつろげるわよ」

「お風呂は好きです」


 1時間ぐらいは平気で入りますからね。そう思いながら歩いていくと、大浴場と書かれた看板が目に入ります。看板も大きいですね。


「脱いだ服をこの棚に入れてね。あ、宿屋で洗うこともできるから。こちらで服を洗えばいいかな?」


 セシリーさんの決定事項が増えました。私だって洗濯ぐらいはできますよ?でも、今はお風呂です。ゆったりとくつろげる空間が目の前にあるのです!


「早くお湯に浸かりたいたいです」


 そう言って、ワンピースを脱ぎます。下着姿になりますが。あれ?


「…ルリアルカさん、胸に巻いてるのはなに?」

「布ですよ?長い布を巻いていると楽ですから」

「下着をちゃんと買いなさい!」

「私の島だと女性でもこういう…」

「か・い・な・さ・い!」

「はい……」


 私、また泣いてしまいそうです。島だと本当にこうなのですよ?


「う……」


 突然、セシリーさんが変な声を出しました。何かあったのかな?

 気にせずにそのまま布を外していきました。


「負けてる……」


 肩を落とすセシリーさん。何か勝負しましたか?


「何が負けてるのかわかりませんけど?」

「それよ!」


 布を外し終わった、私の胸を指さします。胸の大きさ?そんなに重要なことなのですか?

 私が首を傾げていると。


「私の方が背は高いわよね」

「ですね。10cm以上違う気がします」

「それでも負けるのって何かね……」

「女性の価値は胸で決まるのですか?」


 下着も棚に入れ、セシリーさんに尋ねますが、私は違う方向を見ています。

 お風呂が私を呼んでいるのです。


「それはないわ。ただ、私がへこんだだけよ」


 セシリーさんも服を脱ぎ終え棚にしまいます。

 ふと目に映りました。綺麗な姿です。空の様な青い髪も綺麗です。

 私がじーっとセシリーさんを眺めていると。


「ど、どうしたの?」

「いえ、綺麗だなーと思いまして」

「ええ!?」

「では、お風呂に入りましょう」


 慌てている、セシリーさんを置いてお風呂場に進みます。浴場のドアを開けると見事な空間でした。

 思い切りくつろげそうです。


「えっとシャワーか、お湯を浴びないとー」


 見渡しながら探してみるとシャワーがありました。高さ的に私にはうれしいですね。

 蛇口を捻り頭からシャワーを浴びていると。


「きゃっ!?」


 と悲鳴が聞こえました。今の声は、セシリーさんですよね。

 声の方に振り返ります。


「ルリアルカさん、怖いわそれ……」


 少し青い顔をして言われます。私が怖い?別にシャワーを浴びているだけですよ?後ろ髪は足元までの長さがありますから、少し動くと身体に張り付きますけど。


「うん……。真っ黒い棒みたいね……。女性だとはわかるけど」

「酷い言われようです……」


 全身に髪がまとわりついているので、黒い服のように見えているのかもですね。

 そのままの状態で湯船に向かい、浸かります。いい湯加減です。


「ふぅ……」


 お湯に浸かって一息ついた途端。またもや悲鳴が聞こえました。お風呂はゆっくりする場所ですよ?


「ルリアルカさん、お化けと勘違いされたことってない?」


 湯船に浸かると髪が当然浮き上がります。広がるようにぶわーっと。


「ないと思います」

「気にしたら疲れそう……」


 セシリーさんも湯船に浸かります。少し熱そうですね。

 ふと、前髪をかきあげ、後ろに向けました。


「ルリアルカさんの顔、初めてみたわ。薄い赤い色の目をしているのね。人形みたい」

「私は人ですよ」

「前髪、切ったらいいのに。可愛いのに勿体ないわよ?」

「そういうのは気にしませんから」


 興味なさげに言い、お湯に浸かっていると。


「残念美人って、ルリアルカさんの様な人を言うのかしら?」

「泣きますよ……?」


 湯船でくつろぎながら、会話が続きます。悪くないですね。

 人とまともに話すのも久々ですが、明るく楽しいです。泣かされたのは横に置いてしまいましょう。

 私は色々なことを思い浮かべながらもお湯に浸かります。あれ?セシリーさんの様子が変ですね。


「ごめん、ルリアルカさん……。のぼせたわ……」

「え……」


 セシリーさんが湯船に沈みます。え?ええ!?まだ1時間ちょっとしか浸かってませんよ!?


「ダメです!セシリーさん、お風呂は溺れる場所ではありません!」


 沈んでいくセシリーさんを引き起こし、湯船から立ち上がります。

 もう少し浸かりたいですが無理ですね。

 セシリーさんを抱え、浴場から私は出ました。

 ルリアルカの感情の起伏は激しいです。これは家族以外、触れ合うことがなかったのが原因でもあります。

 身長は160cmに届くか届かないかという高さです。セシリーは高い方になりますので、170cm程となります。

 見た目は美人よりも可愛いのですが、表情を隠す前髪のせいで全てを台無しにしています。

 セシリーが言った「残念美人」はここに当てはまります。


 次回の更新も書き終わり次第の更新となります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ