目的の無い旅
初めまして、七瀬 初と申します。
物語を掲載するのは初めてですので、読んで頂ける皆様に楽しんでもらえたら幸いです。
この世界には様々な種族や階級が存在する。
私から説明を簡単にすると主に人族、獣人族、天使、悪魔。
細かく説明すると限がないし、私は基本的に関わりたくない。
そして、強い弱いも少なからずある。これは権力はもちろん、武力に魔法も。
英雄と呼ばれたい人もいれば、最強という二文字を手に入れる為に戦いを主にする人もいる。
それでも、私は自分が無力だと思う。
それが自他共に強いと言われようとも。
「大切な人達を守れないことに意味はないのです……」
私は島の家族を守ることができなかったのですから。
私、ルリアルカ・トゥルーは、一人で街に続く道を歩いています。
容姿は気にしたことはないし、関心もありません。ただ、足元まで伸びている真っすぐな黒髪は自慢ではあると思っています。適度に揃えますけど、視界も前髪が隠すほどの長さがあるので、人とすれ違う時は相手が驚いて一瞬立ち止まることが多々ありますね。それでも気にしません。
服装は上品とは言いませんけど、黒い色をしたワンピースを好んで着用します。着替えの手間が省けるとかではないですよ?
周りの視線は長髪、黒服という見事に真っ黒というのも合わせて、近寄って来ません。胸元だけ凝視する人もいますけど、気にしません。気にする価値もないと思えるので最初から相手にもしません。
でも、私がいた島では家族の皆に。
「ルリは可愛いから、将来お嫁さんに行くときは相手を選ばないと」
小さい頃によく言われました。でも、島には家族しかいませんから、親馬鹿としか思われないでしょう。それに家族と言っても、血の繋がりはない人達で集まっている島です。身内贔屓かもしれませんね。
だからこそ、周りの人の反応が私に対する容姿と思いましょう。
「街まではあと30分というぐらいでしょうか?」
目の前に広がる道には馬車が走っていたりしますが、私は好んで歩きます。景色を楽しんだり、風の音を聞いたりと、有意義な時間になるからです。
少し綺麗な湖が見えたので休憩も兼ねて、のんびり過ごそうと思った時、近づいてくる気配があるので、少し警戒することにしました。
「お嬢さん、街まで馬車でご一緒しませんか?」
普通は嬉しい申し入れなのでしょうけど、私は人との関りに関心がないので少し不機嫌そうに返事をします。
「ありがとうございます。ですが、ゆっくりと景色を眺めていたいので、ご遠慮させていただきます」
「でも、この天候だと景色を眺めるといのは…」
そう言って、声をかけてくれた人、姿からすると女商人だと思われる人が空を眺め
「数分も経たずに雨が降ると思いますし、そのような場所で女の子の一人旅を見過ごすというのは個人的に出来ませんから」
そう言って優しく微笑みを浮かべながらも私の方を向く女商人。
私も空を見上げる。確かに数分もしない間に雨が降ってくると思います。
「私のことはお気になさらず。お見掛けしたところ商人のようですから、忙しいのではありませんか?」
「こちらはこの先の街の宿に帰るだけですから、遠慮はいりませんよ」
この人には害意などは無く、純粋に気を使ってくれているようです。
「ですが、わた…」
「どうぞ乗ってください。目的地の場所もこの先の街ですよね?」
どうやら引き下がってはくれないらしいです。それに笑みも絶えません。
「…それでは、ご厚意に甘えさせていただきますね」
「はい。これも縁というものですから、どうぞ」
諦めて、乗せてもらうことにしました。
「私はこの先の街の宿を経営しています、セシリー・ミューズといいます」
「私はルリアルカ・トゥルー。商人と思いましたけど、宿屋を経営なさっているのですね」
セシリーさんの方を改めて真っすぐに見た時、素直にきれいな方だと思いました。この様な女性が宿屋の受付等をしていると、セシリーさん目的で宿を選ぶ人も多いでしょう。
私が馬車に乗り込んで座ると、少ししてから馬車が動きだしました。
馬車の進む時の揺れに思ったよりも心地良さを感じていると。
「ルリアルカさんは冒険者ですか?」
不意に尋ねられました。この世界の旅をしている人は気軽な姿をしていても冒険者と思われることが普通なのです。
「冒険者とは少し違うと思います。何かをしたいという目的はありませんから」
「でも女性の一人旅……は危険だと思いますけど。あ、探ったりするのではありませんから、警戒しないでください。よく、お節介な人だと言われますから」
そう言いながら、少し気まずそうなセリシーさん。
「気にしていません。私はただ、ゆっくりと死に場所を求めているだけですか…」
しまった。人とまともに会話するのが久々過ぎて思わず、本音が出てしまいました。それを聞いた、セシリーさんが真剣な顔をしてこちらを向きます。
「死に場所ってあなた!まだ若いのに何を考えているの!あなた位の年齢ならいくらでもやり直しはきくでしょう?自分の命を粗末にしてはいけません!」
セシリーさんに子供がいるのかはわかりませんが、母親に怒られるというのはこの様なことなのかな?と私は思ったりしました。
「あ…、ごめんなさいね。怒鳴るつもりはなかったのだけど、あなたが悲しい事をいうからついね」
「いいえ、気にしていません」
「それはよか…って、よくありません。どうしてそんなことを考えるのかはわからないけど、もっと自分を大事にしないと。本当に若いでしょ?」
「今年で17歳だったと思います」
「私と同じ歳じゃない。命を粗末にしちゃダメ」
年齢が同じとわかって怒った口調から砕けた口調になる、セシリーさん。
「生きていると良い事もあるんだから、死に場所を求めると言わずに、明るいことを考えて生きてみなさい」
「…考えておきます」
そう答えると、セシリーさんがため息をついたのが聞こえたけど、聞こえないふりをしておきました。
「ところでルリアルカさんは、こういう旅は初めてなの?」
と、私の事に興味がでたようで聞かれましたので、ここは素直に答えましょう。嘘を言うと追及が激しそうですから。
「いいえ。10歳ぐらいからずっと一人で旅をしています」
「え!?」
ここも驚くところらしいですね。セシリーさんの目が驚くと共に点になっています。
「10歳って、盗賊も魔物もでるし、下手すれば奴隷商だっているのよ? それをそんなに小さい時から一人旅だなんて、信じられないわ…」
「魔物なら倒せばいいですし、盗賊も撃退すればいいだけですから。奴隷商はまぁ、痛い目にあってもらいますけど」
実際、その三種に遭遇したことはあります。道に迷い森を歩いていると、狼と呼ばれる魔物に襲われたり。夜、気ままに旅を進めていたときに複数名の怪しい男に囲まれ、脅されたこともありました。奴隷商は、荷馬車から子供が泣く声が聞こえてきたら、お仕置きをして鍵を壊し、奴隷とされた子を野に放ちました。その子供たちがどうなったかは当然知りません。興味ありませんから。無責任とか失礼なことは言わないでくださいね?
「ルリアルカさんは強いのね。でも、奴隷商から子供を逃がしたって、それだけしかしなかったの?」
「助けたのも気まぐれですから。奴隷商が私を狙って捕まえようとした、というのもありますけど。だから、反撃というのもあれですが、無力化してから奴隷とされた子供たちを解放したわけです」
そうこうと話している間に、街の城門が見えてきました。遠くからみるよりも確かに大きな街のようです。そして、城門前では警備の人が身分のチェックをしています。困りました、私は身分証と呼ばれるものに心当たりがありません…。
考えている間にセシリーさんの馬車が警備の人の前に行き、身分証を見せています。
「セシリーさん、今日は宿屋の備品等の買付ですか?」
「そうだったのだけど、良い物がなくて、そのまま引き返したの」
セシリーさんと警備の人の雑談が聞こえる中、身分について悩みました。普段、宿に泊まる時は小さな村なので身分証は必要なかったのですから。人に関心はなくても、眠る場所は選んで普通に眠りたいですからね。宿ぐらいとりますよ。身分証が必要のない場所で…。
「ところでそちらのお嬢さんは?」
ついにこちらに話題がきました。さて、どうしましょう?
「こちら、ルリアルカさん。旅をしているそうなのだけど、天候がちょっと悪いでしょ?だから私が無理を言って、馬車に乗ってもらったのよ。目的地も同じだったし」
「そうですか。ルリアルカさん、規則ですので身分証を呈示して欲しいのですが」
本当に困りました。どうしようと悩み続けていると、セシリーさんが。
「この子、あちこち旅はしているみたいだけど、身分証が必要な場所にくるのは初めて見たいなの。ここは私に免じて通してもらえないかしら?」
セシリーさんがお願いをしている。ちょと上目遣いで。
「…わかりました。セシリーさんは街でも有名な方ですから、信じましょう。ルリアルカさん、もし身分証というものがないのでしたら、ギルドで冒険者登録するのもおすすめです。ギルドカードは身分証にもなりますから」
「ありがとうございます」
簡単に解決してしまい、少し拍子抜けしました。この大きな街の安全面は大丈夫なのかな?と。
城門を通過して少しすると馬車が停止しました。停止すると同時に、セシリーさんがこちらを向きます。
「ここが王都フェイマスにある、私の宿屋『ミューズの安らぎ』よ。
セリシーさんが両手を広げ、建物を背にしてこちらに説明をしてくれる。
とても立派な建物ですが、ゆっくりできそうな宿屋です。
「大きな宿屋ですね」
「自慢の宿屋だからね。ルリアルカさん、泊まる宿を決めていないのなら、うちに泊まらない?料理も美味しいわよ。って、経営者が自分から言うのもあれよね」
セシリーさんが、少し照れながら語る。宿屋の施設を聞いてみると、昼間は憩いの場としても宿泊客以外の人も食事に訪れたり、夜になると酒場もなさっているとか。
この世界は大人と認められる年齢は16歳からなので、飲酒は問題ないから酒場として夜も開けているそうです。
「でも、ここまで大きな宿は泊まったことがないので。料金も高いでしょうし」
別にお金には困っていません。間違っても冒険者と勘違いされる程ですからね。
「気にしないで。初めての王都なのでしょ?1泊銀貨10枚でどうかしら?」
この世界の通貨は主に硬貨です。銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。
それ以外にも硬貨の種類があるのですが、私は詳しくありません。
「私としては助かりますけど…」
ふと『ミューズの安らぎ』の看板の文字、小さな料金表らしいものが目に入る。
1泊2食、朝食、昼食、夕食選択制 金貨1枚
「セシリーさん、金額が極端に下がってませんか?」
「そんなことはいいのよ」
一蹴してしまわれました。1泊金貨1枚というと間違いなく、高級になると思います。
私が普段選ぶ宿屋は1泊の平均が銅貨20枚です。これが一般の宿屋の料金と言っても過言ではありません。
「それに今から王都の宿屋を探して歩くと、探し切る前に夜中になるしね。治安は悪くないけど、夜中はやっぱりお勧めできないし。手持ちが足りないというのなら、ルリアルカさんの払える金額で大丈夫だからね」
料金はお任せで、王都を楽しんで欲しいそうです。
「馬車にも乗せてもらましたし、普通の料金でいいですよ」
「遠慮しないでいいのに」
そう言いながら、セシリーさんが馬車から降りたので、私も続いて降ります。
「とりあえず、夕飯を一緒にどうかしら?」
「そうですね」
「じゃ、決まりね」
セシリーさんが宿屋に向かって歩きだしました。
「優しい方ですが賑やかな人ですね」
小さな声で呟きました。
「ルリアルカさん、早く早く。そろそろ雨が降ってくるはずよ」
セシリーさんが入口のドアを開けて手招きしています。
私は誘われるまま、宿屋の入口に向かい、入った直後に。
「ほらね」
と自慢げに言うセシリーさん。見事に大雨が降ってきました。
セシリーさんは天気の予測ができる魔法でも使えるのかな?という疑問を持ちながら「ミューズの安らぎ」の入口のドアを私は閉めました。
ルリアルカは隠し事が多い少女です。
その都度書いていく予定ではありますが、意外と簡単に判明する可能性もあります。
更新に関しましては書き終わり次第となりますので、作者、ルリアルカ共々、温かい目で見守ってくれると助かります。
誤字脱字等あると思われますが、気を付けて確認していても見落とす可能性がありますので、ご了承ください。