エピローグ
数多くのモンスターを打ち倒した戦闘終結の翌日。
俺達三人はアラーム城の二階にある会議室に呼ばれていた。破壊の限りを尽くされたアラーム城の中で、運良く残ったまともな部屋の一つらしい。
実は俺達が外門前でモンスターと戦っている間に、このアラーム城にも金色のモンスターが出現したらしかった。
何本もの足を持つ金色の蜘蛛のモンスター『ザナック』と名乗ったらしい。何人もの兵士が死傷者となってしまったが、最終的に騎士団長ガリアスが二本の剣でザナックの身体を四等分して決着がついたという事だ。
そのガリアスは瀕死の重傷を負って、今は城下町にある魔法医の元で治療を受けている。
「ご苦労だった。秋留、カリュー、ブレイブよ」
秋留の後ろならまだしも、カリューより後に名前を呼ばれたのが気になるが、黙ってラディズ王の話を聞き続ける事にする。
「戦闘が始まってしばらくは、余も城のテラスの望遠鏡からお主らの戦いっぷりを見ていたんだが、すさまじい戦いっぷりだったな」
この王さんは、暢気に戦場視察か。ライフルをテラスにぶち込んでやれば良かったかな。
ラディズ王は尚も興奮しながら話し続けた。
「あの戦いは、正に戦場を駆け抜ける嵐、いや、旋風の様であったぞ!」
俺の隣ではカリューが王様の声に真剣に耳を傾けて頷いている。奥の秋留は聞いているのかいないのか分からない表情をしていた。
「……うむ。お主らパーティーをレッド・ツイスターと呼ばせてもらおう」
レッド・ツイスター……。紅い旋風か? 数いる冒険者のパーティーでも異名を持つパーティーはそれ程多くは無い。
「ありがたき幸せ」
カリューは頭を下げると言った。いかにも正義大好きなカリューらしい台詞だ。
その後ラディズ王の苦労話を長々と聞かされた挙句、俺達は手ぶらで会議室を追い出されようとしていた。
何か忘れているんじゃないか? ラディズさんよぉ……。
俺は眼に力を入れて、目の前の忘れっぽい王を睨んだ。
「レッド・ツイスターの更なる活躍を期待しておるぞ。ではそろそろ、余も忙しい身故……」
会議室に仮設置された不釣合いな玉座を立ち上がろうとしたラディズ王が、俺達、いや、秋留の方を見つめたまま暫く硬直した。
「おお、そうじゃった、そうじゃった。報酬の事をすっかり忘れておった」
ラディズ王は近くの衛兵に声を掛け、大きな銭袋を三つ用意してきた。思わず涎が垂れそうになる。
「お主らの活躍は想像以上だった、約束の千万カリムに上乗せした二千万カリムを用意した」
最後の最後で太っ腹なラディズ王様だ。俺は尊敬の眼差しでラディズ王の持つ銭袋を見つめた。
城内のレストランで豪華な食事をラディズ王からご馳走された後、俺達は城下町の大通りを揃って歩いていた。
「レッドツイスターだってさ」
秋留が俺の横を歩きながら言った。秋留は戦闘でボロボロになった装備を外して、今は普段着の様なラフな格好をしている。
「名誉ある事だな」
カリューが右手を腰に刺した剣の柄を握りながら言った。こいつの人間離れした強さには本当に驚かされた。
「これからどうするんだ?」
無神経なカリューが聞いた。
俺達はモンスターの大群を退けるために組んだ一時的なパーティー。魔族討伐組合でパーティーを募集した訳でもなければ、昔からの知り合いでもない。
カリューが軽々しく言った言葉を、俺は城を出てから恐くて聞けないでいた。ある意味、カリューの事を尊敬する。
「剣士、盗賊、魔法使い……」
秋留が考えるように呟いた。
「私達パーティーには、神聖魔法が使える僧侶とか聖騎士がいないよねぇ」
暫く秋留の言った言葉を理解出来ないでいると、隣を歩くカリューが拳を握って叫んだ。
「俺は剣士じゃなくて、勇者だ!」
「はは、じゃあ私は厳密に言うと幻想士なんだけどな」
俺達は声を合わせて笑うとアラーム城下町の城門を潜って、まだ見ぬ土地に向かって歩きだした。