私の従兄は変態です。おまわりさーん!!!!
「え、樹って男子なの?」
登校したら隣の席の陽気が落ち込んでいた。
だから、気軽にどうした? って聞いた。
前の席の女子生徒を陽気は好いていた、両サイドに幼なじみの私たちが居るのに、惚れやがりやがったのは学園一の美少女で才女の彼女。適うわけ無い、でも私も反対側の席の美杏もそんな彼女に惚れた陽気をほっておけなかった。結論的に、美杏は陽気の恋心を砕く一言をのたまったのだが、それが冒頭の私の驚きである。
「そー『学園一の美少女』は、まごうことなき正真正銘の男」
美杏は更に落ち込む陽気にとどめとばかりに言の葉を紡ぐ。陽気はすでに涙目だ。
でも、前の席の彼女ーー樹を見ても、制服はスカートだし、艶やかな黒髪は長く背中まで、美貌は言うまでもなく、少し顔を傾けて話す表情はどうみても女子力多大な人物だ。
「どこをどうなって樹が男に繋がるの?」
「・・・従兄」
「はっ?」
「だから、私の従兄だったのよ」
とんだ爆弾を美杏は落としてくれた。
いや、どうしてそうなってしまったのだ? 長いつき合いで幼なじみとか三人でしてるけど、美杏には従兄なんて存在しなかったはず・・・
「彩だって知ってるでしょ、私のママのお姉さん夫婦がドイツにいるって」
「あー、うん。本場のザッハトルテのおばさん」
「昨日、帰省して本邸に帰ってたから遊びに行ったらね、樹が居た。風呂場に」
「うん。う、ん? は? 風呂?」
「うん、風呂。まっぱ見ちゃったのよ。そしたら付いてたブツが!!」
なんで、美杏はそんなにキレてるのだろう。樹が男という事実よりも美杏の従兄だという話よりも彼女がぷっつんしているのが怖い。どんな暴挙に出るかわからない怖さを秘めてる。
「何でいる、どうしている、何故いると問いただしたら『従兄だから』って言われた。すっごい乙女な声で仕草で。でもまっぱで付いてたのブツが!」
ブツはもういいよ、陽気なんて放心状態で涙流してるからね。対処してあげないとベランダから飛び降りそうな勢いだからね、ここ三階だからね、下コンクリだからね。
「取り敢えず、風呂交代で入って落ち着いてからDSで対戦してたらね、ママが『まぁ仲いいのね、やっぱり美杏と樹くんね。生まれた日も一緒の従兄妹ですものね、三分で従妹だからね美杏』って、ねぇ、私何処からツッコんでいいかボケたらいいかわかんない!! 三分に私負けたのよ!!」
ああ、キレてるんじゃない、美杏もパニクっているんだ。スッゴいパニクってる。そして、陽気がとうとうベランダに足を向けかけたから美杏がすごい勢いで足払いかけてた。
「・・・なんで樹、女装なの?」
美杏は唇を噛みしめ、屈辱そうに顔を歪めると、陽気が『うわぁぁぁぁっぁぁ』と奇声をあげてベランダにダッシュしたからバックドロップでしとめられてた。
「綺麗だから」
返答はいつの間にか後ろを振り返っていた樹本人から発せられた。
「私、スッゴい綺麗でしょ? これを生かして男をだまくらかそうと思ったの。ふふっ十五年従妹の可愛い美杏に会わないで欺いて来たのに、失敗しちゃった」
綺麗に綺麗に微笑む男の娘は綺麗な綺麗な声音で美杏に近づいた。
「可愛い美杏。私の美杏。そんな男より私の方が色々『イイ』わよ?」
外部受験。
外部受験しよう。
ここではマトモな恋愛出来ない。
美杏の雄叫びと陽気の悲鳴を聞きながら私は心にそう決めた。