そっとしておいて欲しい 『花』
私は黄泉の世界の門に着いた。
すると、その使者は、
「もう、現世には未練は無いですね?」と念を押す、
「もし、未練があるのなら戻る事は出来ます。
ただし、『よみがえり』の機会はもう二度と無くなります。そして、現世の中でずっと漂っているだけです。今までの『49日』間の様な自由も無くなり、過去の事も見えなくなります。
ただ、その時のその場所、時間も進まず、人知れずじっとしている事となります……が。
…………。
もし貴方が望むのなら、この門を通り過ぎれば、
貴方の大切な物(人)、五つの事は、黄泉の世界からも見守る事は出来ます。
どうしますか?、
また、『よみがえり』を望むのなら、黄泉の世界での順番を待って下さい……、
そして、もうひとつ大切な事があります。
黄泉の世界では、必ず、『よみがえり』の選択を遅かれ早かれ、しなくてはいけないという、ルールもあります。」
私は、現世で 『ただ、漂っている』 のも嫌だし、黄泉の世界からでも見守る事が出来る、そして『よみがえり』という言葉にも魅力に感じ、門を潜った。
そこは、幼い頃、お伽話で聞いていた 『天国のお話』 とは違っていた。
黄泉の世界でも、人間を始め、黄泉への階段で観ていた動物、植物……等々、数多くの生命がそこにあった。
私は、
「それもそうだろう、人間だけが生き物では無い。動物だって、植物だって、飴坊だって」……
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黄泉の世界でもランク付けがあった。
人間は、他の生き物を殺生していた生き物である。不安な気持ちもあり、どの辺りかな? と思っていたが、上位ランクである。
自然界は、弱肉強食で成り立っている世界である事は事実。
例え人類が、度が過ぎていた? にしても、それが自然界のルールである。
が、しかし……。
反省する部分も多々あるのではないか?、それが本当に重要だったのかと?
私は黄泉に来たばかりである。
落ち就かなかったが、現世で、母を看取った時の、何か言いたそうにし、人差指、中指、薬指の3本の指を立て徴した意味が、現世の時からずっと知りたく、黄泉の世界でずっと母を探していた。
遠くに何列もの長~い列が見える。
そんな中、ある微生物? に出会った。
その微生物も人類と同ランクのレベルであった。
私は、
「あの長い列は何ですか?」と聞くと、その微生物は、
「おい!、お前、人類だな、現世では何も気が付かなかったかも知れないが、お前達のお陰で、おいら達は住む処も無くなりみんな死んでいった。黄泉の世界に来て、前の自分達に戻りたいと思っていても、お前達が反省もしていないあんな世界に戻りたくないと……な、
本当なら、答えたくもないが新入りの様だから、
あの列はなぁ、『よみがえり』のための列だよ!、
だだしなぁ~、……、
半数以上は『よみがえり』を希望していないと思うがな。
出来れば、この黄泉の世界で平穏無事に、自分の大切な物を見守っていられるのなら、それだけでいいと思っているんじゃないかな。
お前には、まだ時間があるだろうが、いずれその時は来る。半強制的にな。
その時、お前は何を選ぶのか? おいらには解らんが、考えとけよ。それが、今おいらが言えるアドバイスだ。いいか……、
お前らさえいなければ、おいら達も……、
そして、いずれ解るよ、馬鹿な生き物、人類とな……」
と、口を噤んだ。
振り返ってみると、我々人類は、私利私欲のために突っ走ってきていた。
でも、もう遅いのかもしれない、
この黄泉で、こうして微生物と話、気づいたとしても「あとの祭り」なのかもしれない。
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私は、とにかく母に会いたくて黄泉の世界を探した。
そして、やっと逢える事が出来た。
それは、あの幾筋も延びていた列の一つだった。
私は、母に
「逢いたかった!、ごめん、碌な親孝行も出来なくて」
と、黄泉の世界ではあったが、涙を溢した。
母は、私に、
「もっと、しっかり生きていなきゃ駄目じゃない!……。でも嬉しいよ逢えて」と、
えっ、と思い、
「これからもずっと此処でいようよ」と言うと
「もう、かあさんはね……、この黄泉から現世に戻らなくちゃ生らない時が来てしまったの、
お前が『よみがえり』のその時に何を選択するか? 解らないけど、その時は必ず来る。
もし、また来世でお前に逢える事があり、前世の記憶があればいいね。その時まで、元気でね」
私は、母に
「ねぇ、来世では何になるつもりなの?」
「それは言ってはいけないし、これから決まる事だから……、でも、もう人間には戻らないと思うよ……」
「そんな事無い、また、俺の母さんになってよ!!」
「いずれ解るよお前にも、何故母さんが『よみがえり』として、人間を選ばなかったのか……」
「じゃぁ、これだけは教えて、何故母さんが前世の最後の時に3本の指を立てていたのか?」
「それはね……。
あの事は、前世での出来事。
黄泉の使者の方も言っていたでしょう? 現世での未練は無くさなくては逝けないの。だから、もう忘れたし、忘れなさい。お前にはまだ『よみがえり』の期限までは時間もあるし、今、見守る事をしなくてはならない事があるのなら、それを大切にしなさい、
もう母さんには時間も無いし、この黄泉の世界でお前とも逢えたし、来世でまた逢おう、元気でね」
それは、現世時代の優しい母さんだった。
「じゃぁ、最後にこれだけ教えて。
父さんはどうしたの? 黄泉にはいないの?」
すると母さんは、
「現世の時から庭いじりが好きだったでしょう? 実家にも松とか槇とか、そして、綺麗な庭石もあったでしょう? 父さんはね、みんなから好かれる石に成るんだって、先に現世に戻ったわ。昔から後先考えなかった人だったからね……。
でもいいかい、お前は、これからの黄泉の時間で来世の事を良く考え、その時が来たら決断し……、もし、
また、逢えたらいいね……」
そして、私は決して未練に思ってはいけない現世の時を思い出し、
「おふくろ……」と、涙した。
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母さんは、「じゃぁね」とほほ笑みながら、
その列は、徐々に先へと行ってしまった。
私は、前世でも好き勝手だった父さんが、『石』を選んだのを解るような気がした?……、まっ、それもいいか。
なら、母さんは?……、
母さんは、地味な人だった。
何の欲も無く、強いて言えば『花』が好きだったかな?
お金を掛ける様な趣味も無い。
きっと、来世は道端でもいい、目立たなくてもいい、むしろそんな『花』に成る事がいいのかな? と思っていた。
すみません、本稿でも『セミ』まで辿り着けませんでした。
次話では、きっと『セミ』を選んだ訳を書きたいと思っています。