ご苦労さまでした?
私は、もう65歳を迎えようとしていた。
寒い日が続きそうな、そんな11月の下旬、すぐに12月が来る。
でも、その日は穏やかで、サラリーマン時代よく通っていた通勤路の傍にある公園に、行ってみた。
その公園は、日向ぼっこには最適な公園である。
会社に行く事が辛かった頃、あるいは、会社帰りに缶ビールを買って、その一日を振り返る事もあった。
その日は、冬がもう直ぐだが天気も良さそうなので、朝早くから昔を思い出すかの様に、ベンチに腰を掛けていた。
出勤時間であろうか? 私の若かりし頃の姿のサラリーマンが、駅へ向かって自転車で猛ダッシュ。
そして小学校、中学校へと登校する子供達……。
暫くすると、同世代位であろうか? ゲートボールの用意をしている人達。皆さん楽しんでいる様である。
時折吹く風も、落ち葉を舞い上げるが、日差しのお陰か?、「心地よさ」さえも与えてくれる。
ベンチに座り、行き交う人達をただ 『ぼー』 っとして観ているだけでも良い時間に感じる。
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「あっ、もうこんな時間」と気がつく、すでに午後1時を回っている。
腹も減ってきたし、帰ろうかとも思ったが、もう少しこのベンチに居ようか、との思い方が……、近くのコンビニで「あんぱん」と「ウーロン茶」を買い、元のベンチへと。
午後からは、また違った人間模様に。
保育園生かな?、幼い子供達が集まる。
先生に連れられて一緒に歩いて来る子、ベビーカーに乗って来る子、「きゃっ、きゃっ!」と、燥ぎながら公園中を走り廻る年長さん? かな……。
昼間のそんな時でもあったのであろうか(公園が空いている時間?)、老人介護施設の方々も来ていた。
これから、時代を背負う子供達と今までの日本を造り上げて来てくれた方々が、同じ公園で同じ時間を過ごす……。
なんとも言えない気がした。
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1時間程後であるが、お母さん達が集まる。
保育園? 幼稚園? が終わったのだろう?、 帰りのバスも到着し、幼児達はブランコ、砂場、滑り台で遊びだした。でも束の間の時間、もうすぐ日も暮れる。遊んでいた幼児達は、母さんに連れられて家路を急ぐ。
そして、そろそろ寒く成る時間には、小学生中学生達が、プチサッカー? プチ野球等……。 楽しんでいる。
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そんな、朝からの光景を見ていると、行き交う人達の姿、公園を舞う落ち葉、……。
そして、その光景の一つ一つを自分の時に戻し、
「そうだったな~……」等とも、
過去のその時々を振り返り、自分に照らし合わせ感傷? に深けてしまう。
そんな時、木枯らし? が、
「寒くなって来たな、そろそろ帰ろうか」と思い、そのベンチから立とうとした時、その風に舞った枯れ葉の下に、セミの抜け殻が?、
もう、夏も終わり秋もすっかり過ぎようとしているこんな時期(初冬)である。本来なら、腐っているか? あるいは蟻? の餌に成っていても不思議ではない。
「ねぼすけのセミが、夏の終わりの頃にやっと目覚めて飛び立った抜け殻かな……」と思い、懐かしいな~ と手に取り、
「子供の頃この辺もまだ田舎で、カブトムシ、クワガタ……、一杯採っていたな。今の子は、スーパー等で買っているらしいが……」
さっきの子供達が、可哀想だな、とさえ思ったいた。
「さっ、早く帰ろう、寒くなって来た……」
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棺の傍では、妻、子供達も泣いている。
そして、一緒に暮らしていた愛猫のサスケも、愛犬のアズキも吠いている。
(サスケ、アズキがないていたのは、棺の傍にある食べ物が目当てであったと思うが)
これが、幽体離脱なるものなのか?……。
(今まで、幽体離脱なるもの? の経験は無かったが)
まっ、俺は死んだって事なのか? 愛猫、愛犬は別としても、家族・良くしてくれた人達の泣いている姿は観たくなかった。
むしろ、笑顔でいて欲しい。現世の時の様に……。
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程なくして黄泉からの使者が私の所に舞い降りて来た。
「ご苦労さまでした。これから49日間、現世を振り返る時です。今までの事も観る事が出来ます。もし、逢いたい人が居れば、その人にも会えます。もちろん、貴方の姿、声、は伝える事は出来ませんが、
でもこの49日間で、現世を振り返り、
また、逢いたかった人の所、海外でも直ぐに自由に行けます。
この現世に未練を残さないように、黄泉の世界では49日間を現世との惜別の時としています。
49日後、また来ます。
その時、貴方は黄泉に行く事になります、そして絶対に現世に何の未練も無い様にしておいて下さい」
そして、黄泉の世界からの使者は消えた。
その時私は思った。
現世時代、よく『しじゅうくにち』という言葉を聞いた。その頃それは、お坊さんから、諸先輩の方々から、生きている自分達に、
「魂は49日までは、黄泉の世界に行かず、現世の中で傍にいます。……」
あっ、こう言う意味だったのか!っと。
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私は自分の現実を受け止めた。
あの使者の言葉、
「ご苦労さまでした?………」
の意味は、良く解らなかったが、
とにかく、この『49日』の間で、思い出を振り返り、逢いたい人との過去の時間も、そして現在の様子も……。
でも、急にそんな事を言われても……と思い、あの公園へ。
行き交う人達をベンチで座って観ていた。
(勿論他の人には観えないし、邪魔にもならない)
とにかく未練を残さない様に務めた。大好きだった「おふくろ」との過去の時間も巻き戻しをして観る事が出来た。
中には、幼い頃楽しく遊んだ奴が悲しいかな、既に位牌になってしまっている……、
また今でも幸せに暮らしている人、私と共に歩んだ人達の今を、そして過去の懐かしい時も観る事ができた。
ついにその時は来た。
『49日』後の時である。
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約束通りあの使者が舞い降りてきた。
「もう、黄泉の世界へ行く時がきました。未練は無いですね?、
では、この階段を登って行きましょう。
そして、黄泉の世界では、貴方の来世への『よみがえり』の選択をする時が訪れます。
選択肢は沢山あります、そして、その条件も……。」
私の登っている階段以外にも階段は幾つもあり、登っているのは人間だけでなく、
「牛や豚、鶏、馬、鹿、猪、鯨、……」
(今まで、人間が食していた食べ物達)
いや、それ以外にも
現世では、絶滅種とされていた、蝶や動物、植物……。
中には、切り倒され傷を負っている大木や珊瑚、粉砕された岩でさえも。
みんな愚かな人間達が犯した罪、人間の営みで崩れてしまった犠牲者なのかもしれない。
そんな光景を、数多くの階段から観えて取れた。
勿論『セミ』の姿もあったが、それほど多く無かった。
(現世では、あんなに一杯いて、夏が過ぎれば死んでいくのに……)
私は、使者の案内の通り黄泉の世界へと登って行った。
すみません、ダーク路線は極力避けたつもりでしたが?……。
ちょっと、抜け出せないままでしたね。
そして、『来世はセミ』の意味も示せないままに投稿してしまいました。
次話では、もう少し『セミ』を選んだ訳を書きたいと思っています。