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アトライア;VRMMOにおける水棲生物の生態観察記  作者: 桔梗谷 
第一の節 トカゲ落ちる
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 日が変わって今日は日曜日。ログインするとセカオピはお昼時です。昨日話した通り、二人とは別行動になる。ゲーム内では欠片も見せなかったが有希は少し不満そうだった。でも、何かお願い事を聞いてあげるというとすぐに笑顔になった。何やら、先輩とパーティーを組む約束をしているみたいだったけど、そのパーティーに私も誘う予定だったらしい。どうせ、高尚さんは好きに動くでしょうし、なら兄さんと一緒のほうが心強いです、だそうだ。兄さんの用事が終わるまでパーティーの席は開けておきますね?と言っていたので、その時は有難くご厚意に甘えさせてもらおうと思う。

 そういったことがあってセカオピの二日目。場所は現在大通り。露店が所狭しと立ち並ぶ異国情緒あふれる通りです。様々な種族のNPCやPCが入り乱れながら歩いているのというのはなんだか、不思議に感じます。見たところヒューマンが一番多いのでしょうか。次点で獣人系ですかね。獣人はPC人気がとても高い種族に加えて、様々な種族タイプが存在します。コウショウがワ-ウルフでしたが、あれも獣人の一種で狼族と呼ばれていますね。ほかにも鳥人族とか猫人族とか色々なタイプが存在しています。マーキングを見たところだとこの町にいる獣人のほとんどはPCではないでしょうか。やはり、もふもふには勝てなかったよ、と言ったところですね。

 ちなみにエルフやドワーフも結構人気です。正直人気がないのはリザードマンとかヒューマンとかのなんか微妙と評される種族が多いかな。爬虫類面をしたPCはあまり見かけないね!!居てもドラゴニュートばかりです。リザードマンはサッパリ見かけません。

 大通りを歩く人たちを眺めながら、そんなことを考えてしまいますが私がここにいる理由は全く別です。

 大通りに立ち並ぶ店舗を見ていると怪しげな雰囲気の露店が一つ建っているのを見つける。看板には「スキル屋」の文字が書かれており、私のお目当ての店であることを証明している。うわぁ、結構な人が並んでいますね。……このお店は止めにしてもう少し人が並んでいないお店に行きましょう。私はそう判断して足早にそこを立ち去ることとする。

 スキル屋で売っているのはスキルスクロールです。これを買うことで使用できるスキルが増えるのですが、アクティブスキルとして使用できるスキル枠は現在5つしかありません。種族スキルと職業ごとの固定スキルはこの中には含まれないので、現在私が一度に使用できるスキル数はすべて合わせて11個ありますね。スキルスクロールを買うことで新たに使用できるスキルが増えるのですが、これは種族スキルと固定スキルの枠に入りませんので、使用可能スキルとして5つの枠を争うことになります。この枠にあぶれたスキルは控えスキルの欄にいってしまい、スキルとして効果を発揮させることが出来なくなります。控えスキルとして扱われているスキルには当然経験値も入りません。それもあってか、スキルを新たに取得するよりも最初に取ったスキルを伸ばし続けるほうが良いと言われています。変わったプレイヤーの中にはたくさんのスキルを取得して状況に合わせて使用可能なものと控えのスキルを入れ替えながらプレイしている人もいるそうですが、スキルスクロール自体も安いものではないので上級者か自分のペースでのんびりとプレイする人向けですね。他にもマイルドスクロールというものが売っていますがこれはちょっと特殊なアイテムで今の私にはまったく必要が無いものですね。ものすごく高いですしこれ。20万Gですよ。序盤じゃ絶対いらないです。

 それはさておいて今回私が取得したいスキルは「暗視」スキルのスクロールです。昨日のプレイで感じたこととして、夜間のフィールドの暗さが予想以上であったことが挙げられます。夜間でも街灯が立ち並び道が明るい現代と違い、この世界では灯りと言えば月と星だけという事実をすっかり忘れていました。街中には魔力で光る街灯らしきものがありましたが、数はそれほど多いわけでもなく視界がかなり悪いということを感じました。昔、田舎で夜中にトイレに行こうとしたときを思い出しました。あのときは真っ暗で前がさっぱり見えない中手探りでトイレに行こうとしていたとき、庭からがさがさと物音がしてとても怖かった、という記憶しかありません。月明りでぼんやりと光る障子をバックに人のような影が私の前に……。やめましょう。これ以上は私のトラウマを刺激します。

 ともかく、夜中灯りがない中である程度の活動をしようとした場合、「暗視」スキルが必要だと考えたのです。β版までの情報だとフィールドに出てくるMOBが昼間と夜中では全く違うらしく、当然ながら夜中に出てくるモンスターのほうが厄介だそうだ。さらに夜中特にゲーム内時間で20時以降では町の門が閉鎖されてしまい町の中に入ることが出来なくなるためにあまり、夜に狩りをすることは効率が悪いとされていたらしい。かといって「暗視」が不遇とかそういうのではないらしいが、種族スキルとして取得できる種族が多い為かスキルスクロールを買ってまで使用するよりも「暗視」持ちのキャラとパーティーっを組んだほうが良いのではないかという意見は多い。ちなみにソロ御用達スキルとしては「索敵」や「気配遮断」と同じくらい有用スキルとしてもてはやされている。

 

 あれから10分ほどで二軒目のスキル屋が見つかった。先ほどのお店よりかは人が少ない。大通りから離れているからかね?さほど並ぶことなく順番が来る。

 「暗視のスキルスクロールありますか?」

 「はい、ございますよ。……こちら3万Gとなりますが?」

 3万Gか。昨日の狩りで結構な量の素材が手に入っているのもあって、所持金は3万Gぐらいの金額なら払うことが出来る。……そのあとは素寒貧になるけれど。

 買うと決めていたので代金を払ってスクロールを入手する。アイテムを持つとウィンドウがパッと開いて。

 『「暗視」のスキルを習得しますか?習得レベルはLv.1からです』

 と表示された。私はすぐさまyesのパネルをタッチすると、スクロールが光の粒子となって私の体に吸い込まれていく。これでスキルを覚えたということになったのだろう。実際にスキル欄を見ると「暗視」Lv.1としっかり表示がされていた。

 分っていたことだが、スキルスクロールを買うとサイフがほぼ空になってしまった。安い消耗品ぐらいなら買えなくもない額が残ってはいるが、私は装備もいいのが欲しい。だが、それには相応のお金が必要となる。……惜しむらくは金策の常なり。金策こそゲームの正道なり、とでもいえばいいのでしょうか。

 「それじゃあ、行きますか」

 どこに? そう、お金を稼ぎに。

 これから、町の外で狩りをしつつお金になりそうな薬草とかを摘んでいくのです。



 東の平原にはまだ、多数の人たちがいた。気の早い人たちはもう森に行っているようで「遠視」を使うと森に入っていくパーティーがいくつか見える。

 サービス開始から一日たっているのもあるのか先ほど訓練所の前を通った時には何組かのパーティーが中に入っていくのが見えた。

 人が少ない部分を縫うように移動する。見渡した限りMOBの数はそこまで多くはないが、昨日みたいに出てきた瞬間に狩られるといったことはない。私はのんびりと獲物を探しつつ採集をしてみることにした。

 「鑑定」を使い目につく草をすべて鑑定する。ふよんと草花の上に小さなウィンドウが開く。青々とした草花の上に「薬草」とか「毒草」とか書いてあるのはとてもシュールな風景だ。「雑草」なんてものもある。雑草ってなんだよ雑草って。

 とりあえず、「薬草」と名のついた草を優先的にとっていく。「毒草」も一応採っていく。薬草も毒草も希少というほどではないがありふれたというほどの物でもないようで、一時間ほど採取に夢中になっていたら、薬草×40。毒草×31がインベントリに収まっていた。

 これは一時間の成果としては多いほうかな?そう思った彼はほくほくとした顔でインベントリを眺めていたが、その顔はリザードマンの爬虫類然とした顔のため、この光景を見ていたものからするとリザードマンが牙をちらつかせながら、宙を眺めている風景にしか見えなかった。こういったところで容姿の変化の大きい種族は損をするのだが、彼にはそんなことを気にするほど精神が繊細というわけでもなかった。

 

 一時間採取を続けながら、平原を歩いていると「索敵」に反応があった。

 反応があった方向を見やるとそこには角の生えたウサギがこちらに背を向け草を食んでいるところであった。すかさず「鑑定」を使用する。

 【角ウサギ】とだけ表示されているウィンドウを見ながら、私は静かに息を吐く。……相変わらず、名前しかわからないのは私のスキルレベルが低いからか?にしても敵のHPくらいは知りたいとは思うけれど、リアルさを追求した結果なのかねぇ。

 ふと浮かんだ考えを振り払い前のウサギに集中する。そこそこの距離があるからか向こうはこちらに気が付いていないようだ。私は「気配遮断」を使い相手に気付かれない様にゆっくりと接近。いつでも突き出せるように銛を構えていく。

 ゆっくりと歩を進め、銛の射程圏内に入った瞬間アーツを使用しながら、角ウサギの急所―今回は首―を狙い銛を突き出す。さすがにこの距離なら気づくのか、アーツを発動させた瞬間角ウサギがこちらを向いた。しかし。

 「遅いっ!!」

 振り向いたころにはすでに時遅く、角ウサギの首に吸い込まれるようにのびた銛が白い首に赤い穴をあける。

 「ぴっ!?」

 存外にかわいらしい悲鳴を上げてウサギは絶命した。うわぁ、なんだろこの罪悪感。ゲームなのはわかっているのだけれどなんか肉に突き立つリアルな感触が感じられて少し気持ち悪い。田舎じゃ、鹿の解体とか見たことあるんだけどな。どうやら、私の中ではそれとこれとは別らしい。まぁ、すぐになれると思うけど。大事なのはこれを楽しむようにならないことだ。いや、ゲームだから楽しめばいいのだけれど……。自分の中で線引きできている場合は大丈夫。ふぅと深呼吸して手に残る粘ついた感触を振り払う。これ、ほかの人はどう思うのだろうね?さすがにリアルすぎないかな?昨日はいっぱいいっぱいで感じなかったけど、一人でやるとこの感触がよく分かる。

 そんな思考の堂々巡りに陥りそうだったが、まわりのパーティーの喧騒が聞こえてくると次第に意識が引き戻されていく。もう一度深呼吸を繰り返してからウサギの死体を拾ってインベントリへと放り込んだ。

 「うむ、ソロ第一号ですな」

 そんな軽口を叩きながら次なる獲物を探し出すことにします。


 そんな感じで一時間ほど歩いていたが、ウサギは結局5羽程度しか狩ることが出来なかった。いや、あいつら結構耳が良いんですよ。ウサギだから当然だけど。草を食べているとき以外ではあのぴんと立った耳とくりくりと動く目でこちらを捕捉してくるのだ。5羽逃がして3羽目をとったあとに「気配遮断」をはじめから使えばよかったと気付いてからは確かに気づかれにくくはなったよ、でもすごい疲れましたよ!!おかげで1羽は私の胃の中に納まっています。後ろから近付いてガブリッとね……。

 あまり効率がよろしく無さそうなのでもう森に入っちゃうことにしました。ウルフの群れにさえ会わなければ何とかなると思うしね。「気配遮断」と「索敵」のいい経験値稼ぎになるでしょうし。あと、森ネズミはあまり逃げないですからね。「水魔法」の試し打ちがしたいのです。といってもLv.1で使える魔法は【ウォーターボール】だけ。ほかのテンカの使う「雷魔法」や「風魔法」も初めは使える魔法が一種類しかないから条件は同じなんだけれどこの初期魔法はかなり属性によって差がある。私の使う【ウォーターボール】は風魔法の【エアシュート】と同じく相手を吹き飛ばす魔法であまり威力がない。反面雷魔法の【ショック】は痺れダメージとある程度のダメージが保障されているので初めから差があると言われている。と言ってもレベルが上がると覚える魔法のタイプや使い勝手に差があるための調整と言われている。雷魔法は攻撃向きだけど水魔法は補助向きといった感じだ。

 戦闘に向かないとはいえスキルレベルを上げないと新しい魔法は覚えない。そういうことなので森ネズミが出てきたら積極的に魔法を使っていく予定にする。幸い、森ネズミは集団で群れていることが少ない為、魔法主体でもなんとかなると思う。複数出てくるウルフではさすがに魔法主体で戦うのは無理だからね。

 木漏れ日差し込み立ち並ぶ木々を抜けながら、のんびりと獲物を探す。「気配遮断」を使用しながら、「索敵」で敵を探し、「鑑定」で周囲を調べていく。……これだけスキルを発動させると結構疲れるのだけど私は今ソロだし、獲物になるべく気付かれたくない。狙うはモンスターに気づかれずに接近してからの急所への一撃。ソロで行動している私が現在とれる最善の方策です。スタミナ値とかの減少とかも「キラーバイト」の効果で補えるのは良いよね。このおかげで、実力さえ伴うなら一日中狩りを行うことが出来るでしょうね。こんなに便利なのに嫌がる人が多いのは残念だと思う。

 そこいら中に木の実やら草花が生えているので「鑑定」のウィンドウで視界がいっぱいになる。さすがに鬱陶しいなと思いつつ足元に落ちていた木の実を拾い上げる。さくらんぼ:食べかけ、と出ましたよ。食べかけということは近くにこれを食べていたモンスターが居るのかな?「索敵」に意識を集中させると感知範囲ギリギリのところに反応が一つかかった。

 ふむ、水魔法の練習台にちょうど良さそうです。

 「気配遮断」を継続しつつ、反応の有った場所まで近づいていく。銛を右手に携えながらそろり、そろり、と。反応に近づくにつれ草木の奥にそれが居るのが見えてくる。それは地面に落ちている木の実を探しているのか腰をかがめ、こちらに気付く様子はない。丸みを帯びた耳を持ち、発達した四肢を持つ生物。昨日から何匹と狩っているために「鑑定」を使わなくとも見分けがつく。

 「森ネズミか……一匹だけのようだし、私の練習相手になってほしいね。」

 つぶやきが漏れた。気配を殺しつつ、呟くように呪文の詠唱を始める。【ウォーターボム】の魔法はそれほど詠唱が長くないためにすぐに詠唱が終了する。

 「ウォーターボム」

 呪文を詠唱し終わると私の目の前の空間からバスケットボール大の水の塊が飛んでいき、ネズミの後頭部に衝突しモンスターは地面とキスをする羽目になった。

 「ふむ、やはりダメージはあまり無い?」

 倒れ伏した状態からすぐさま起き上がったネズミを見てそうつぶやく新。どうやら、コウショウの言っていた通り水魔法の威力はあまり高くないようだ。

 まぁ、Lv.1の魔法ならこんなものか。さすがにこちらの存在を気取ったのか、威嚇するような鳴き声を上げてこちらを見るモンスターを見ながらそう考える新。

 もう一発はいるかね?こちらに接近してくる森ネズミを冷静に眺めつつ、もう一度の魔法行使を試みる。ぶつぶつと文言を呟きながら相手から距離を取るべく後ずさりする。

 うむむ、さすがに呪文を呟きながら走るのは無理そう。でも何とか間に合うかな。

 人間のように二本足で駆けてくるネズミを見ながらそう結論付ける。こちらを振り向くまでの時間とファーストアタックを仕掛けた距離からもう一度の魔法行使が出来ると判断。【ウォータボム】をぶつけた後にすぐに追撃に入れるよう、銛を腰だめに構えておく。

 「ぴぎぃぃ!!」

 こちらを畏怖させんとして雄たけびをあげるモンスター。だが、残念ながらネズミじゃねぇ……あまり怖くはないかな。

 「ウォーターボム」

 魔法が発動し、今にも飛び掛かれる距離まで接近していたネズミは水球を避けられず、その勢いを殺すこととなった。水の塊にひるんだモンスターへすかさず銛を突き込む。直前でぶれたのもあって急所を外してしまうが、三つ又に分かれた穂先は確実に相手の命を削った。

 「ぐっ!?」

 森ネズミの勢いを受け思わず声を漏らす。

 昨日の戦いでは「気配遮断」、「弱点看破」に「特効ブースト」を併用して一撃で相手を狩っていたために思わぬ膂力の強さに驚く。

 さすがに平原よりかは強い。とはいってもゲームを開始したばかりのプレーヤーに合わせたレベルでだけど。一対一でもまぁ何とかなりそうですね。

 暴れて穂先から逃れようとするネズミを蹴り飛ばし、地面に転がったところへ再び銛を突きさすとぐったりとして動かなくなった。

 「ふぃ~さすがに威力なさすぎじゃないかな水魔法」

 インベントリに獲物を放り込みながらそう一人語散る(あらた)

 いや、テンカの【ショック】ほどは期待してなかったけれど転ぶ程度の勢いしかないってねぇ。【エアシュート】でももう少し飛んだのですが……。思っていた以上に「水魔法」の威力の無さに少しげんなりとする。まぁ、補助寄りの属性らしいから威力には期待してないのですけれど。しかし、レベルあげるのは少し難しいかもしれない。新しく覚える魔法に期待、ですかね?

 そう結論付け、新は次なる獲物を探しに歩き出すのであった。

質問、誤字報告、感想等ありましたらどしどしどうぞ

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