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アトライア;VRMMOにおける水棲生物の生態観察記  作者: 桔梗谷 
第一の節 トカゲ落ちる
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7

 現在私たちはカーライスの外に広がるカーラ平原にいます。だだっ広い平原にはたくさんの放浪者基プレイヤー達がひしめき合い、狩りどころではない状況です。その密集度たるや、MOBがリポップした次の瞬間には串刺しにされていると見紛うほどです。私たちは食事の後、パーティー登録を済ませてから、意気揚々と町の外へと繰り出したのですが、居るわ居るわ人ごみの山。さすが、サービス一日目。これほどの人数がプレイしていたのかと感心するほどの人数がひしめき合っている。

 さすがに私たちも口をぽかーんとさせてしまいます。

 「いや、多すぎでしょ」

 「こりゃ、森のほうまで行かないとだめかもな」

 カーラ平原はカーライスをぐるりと一周するように広がっていますが、どこもここと同じようにプレーヤーたちが居るのでしょう。プレイヤーが多いとは言ってもそこいらじゅう人で埋め尽くされているといったレベルでないのがまだ救いでしょうか。隙間を縫って移動すればMOBにありつけるでしょうね。流石に効率が悪いとは思いますけど。

 「仕方ないですね。ロマの森でしたっけ?こうなったら三人で行ってみませんか?ダメもとでもどうせ初日です。デスペナルティで能力値が下がるとは言っても時間経過で治るのです。一度一当てするのもいいかと思いますけど……」

 そうテンカが主張する。私も賛成ですね。流石に人が多くてどうにもげんなりします。コウショウも前線組を目指すなら、森で戦闘するほうが実入りは良いでしょうし、テンカも効率の悪い狩りをするのは嫌でしょう。かくいう私も同じ気持ちですからね。純粋に効率を求めた狩りをするのは味気ないとは思いますが、人が多くて効率が下がるというのはなんだか腹が立ちますからね。ストレスフリーの状態が保てるならそっちのほうが良いのです。



 そう思って、森に入ったのですけどねぇ。

 『グルルルル!!』

 ちょっと開けたところに出たと思ったらすぐにこれです。私たちを取り囲むなんだか強そうな狼が四体。こちらに向かって牙をむいてます。低く唸り声をあげながら今か今かと飛び掛かる隙を狙っているのでしょう。……確かに死に戻りは構わないとは言いましたが初戦にこれはないと思うのですが。

 「索敵」には引っかかったのですけどわかった時にはかなり接近されていたために回避できませんでした。スキルレベルが低いとこういう事が起こると一つ学んだところで現実に意識を戻します。

 幸いにも鑑定の結果。

 『ウルフ:アクティブ』と出ました。四体とも同じ表記だったから強さは全部同じと考えていいのでしょうか。とは言ってもプレイ初日で碌にモンスターと戦闘をこなしていない私達では少々厳しいかな?

 「いくしかねぇな」

 「ええ、そのようです」

 コウショウが爪を模した武器―バグナグ―を構え、テンカが指揮棒をさっと構える。それと同時に藁人形がテンカの傍らにより立つ。私も銛を構えながら「弱点看破」のスキルを発動させます。

 スキルが発動したことにより、相手の狼たちの弱点が赤い点で示された。

 鼻と……喉首に…胸のあたり、あと眼にも点が表示されていますね。狼の見た目をしているから、弱点もほとんど同じなのでしょう。なるべく急所を狙いたいところです。なるべく一撃。よけられると次を当てるのは格段に難しくなります。何てったって銛ですから、接近されると弱いのは槍と同じです。

 

 「先手必勝!!」

 と叫びながら両手を空に振り上げたコウショウが「注目」を使って自分に敵のターゲットを取った。

 「グルァォッ!!」

 コウショウへと飛び掛かったオオカミは二体。ほかの一体ずつがこちらに飛び掛かってくる。二体の狼の飛び掛かりを何とか躱しているコウショウを尻目にこちらに飛び掛かってくる狼へと意識を集中させる。

 一撃。相手の狼がこちらへ飛び掛かろうとする動作に合わせて【シングルストライド】を叩き込む。ここ、と思ったタイミングではほんの少し早かったようで狼の脇腹をかすめたものの銛は空振りしてしまい、私の体は隙だらけになってしまった。

 「マズッ!?」

 「兄さんっ!?」

 私は飛び掛かられた狼に押し倒されてしまった。テンカの悲鳴が響く。私の喉笛を食いちぎろうと牙をがちがちと鳴らすそいつを必死に押しとどめる。ちらと視界の端でテンカが藁人形を盾にしながら狼と闘っているのが見えた。テンカは狼を倒すのでいっぱいいっぱい。恐らくコウショウも攻撃をよけるので精いっぱいだろう。さすがに二体同時に相手にして反撃に移るのは難しい。……となると一人でどうにかしろってか。とは言っても銛は押し倒された状態だと使えないし。徒手空拳じゃダメージには期待できない。そもそも近すぎて力が入らない。……忘れてた。

 私は未だ歯を打ち鳴らす狼を徐々に上へとずらしていく。私は自分を組み伏せている狼へと逆に近づいてやり、さっと背に右手を回すとそのままウルフの喉元へ食らいついた。スキル「キラーバイト」が発動し、ウルフの喉笛へ牙が食い込んでいく。追いつめていた相手から逆に殺されそうになり、必死に逃げようとするウルフを背中に回した右手と左手で必死に抑え込む。

 そのまま、顎に力を入れ続けているとぶちんっと肉がちぎれる感触がした。私の上に載っていたウルフから力がなくなった。すぐさま、死体をはねのけるとその瞬間、テンカが魔法でウルフを吹き飛ばしていた。

テンカは吹き飛ばされて動きが取れなくなっているウルフにピッと指揮棒を指し、藁人形を突撃させる。藁人形はそのままウルフをタコ殴りにして、ポリゴンの塊へと変えた。

 コウショウは二体のウルフ相手に何とか攻撃をかわしているところだった。攻撃は躱せているようだが、なかなか反撃に移れないようだ。

 私はすぐさま、コウショウにまとわりついているウルフへアーツを使う。ウルフはコウショウに気を取られていたのか、あっさりと銛が刺さる。銛に反しがついているわけではないのでそのまま突進するように木に叩き付け、しばらくそのままにしているとやがて動かなくなった。

 残りのウルフはテンカの魔法で吹き飛ばされたところをコウショウにあっさりと仕留められ、戦闘は終了した。ちらと視界の端に移るHPバーを見ると少し減少しているのがわかる。まぁ、押し倒されただけだからね。

 「先ほどは救援に入ることが出来ず申し訳ありませんでした」

 「いいよ。何とかなったしね。それよりテンカが無事でよかったよ」

 「お疲れって。うげ、お前。口のまわりすごいことになってるぞ」

 「?」

 口のまわり?少し手で撫ぜてみると白い粉のようになったポリゴンがさらさらと舞った。ああ、「キラーバイト」でウルフを食い殺したからか。β版だとこの粉が全部血なのか……さすがにぞっとしないね。

 「ここにいたらまたウルフが来るかもしれんな。とりあえず、これを協会まで持って帰って解体してもらおうぜ」

 とコウショウが地面に転がるウルフの死体をインベントリに入れる。私もテンカも特に反対する理由も無い為、ウルフのドロップを拾ってカーライルへと戻ることにした。

 


 

 ウルフ4体をなんとか討伐した後、私たちは訓練所へと戻っていた。あれからも閑古鳥が鳴いているようでPCの姿は少ない。

 ウルフは死体が三つ残ったので訓練所でそれを売り払うと15000Gになった。ドロップしたのはウルフの皮でこれは1000G程度の値段だった。一人頭、5333G。ウルフが一体5000Gなのだ。数さえ狩れるようになればいい収入源になるのだろう。問題は、回復薬とかを買い込めば一瞬で消し飛ぶ額でしかないという事だが……そこはプレイヤースキルの向上に期待するしかないだろう。

 「思ってたよりきつかったな」

 椅子に座りながらぽつりと言うコウショウ。うん、と私たちも頷く。

 スキルレベルが低かったのもあるし、装備だって初心者用の装備しかない。今回は4体だけだったから何とかなったがさらに多い数と戦うことになったら勝てないだろう。今回は運が良かった。普通ならここで狩場を変えるとかするのかもしれないけれど……。

 「んじゃ、もういっちょ狩り行ってくっか!!」

 「え?やだよ。今何時だと思ってるのさ。外真っ暗だし」

 コウショウの脳筋じみた答えをばっさり切り捨てる。いくらなんでもこの時間には無理だよ。外は真っ暗。しかも敵は昼とはまた違うんだと。夜の敵はタフな奴はいないらしいけれどそもそものところ夜目が聞かないと敵が見えないのだ。私は「索敵」でなんとなく相手の居場所がわかるけど。二人はどうやら、暗闇の中の敵を捕捉できるスキルを持っていないようだ。

 今日のところはこれでお開きにするのが正解だろう。

 そう二人に話してとりあえずログアウトすることになった。プレイ時間はおよそ4時間程度。今日の20時くらいならゲーム内時間でちょうどお昼ぐらいだ。その時にもう一度森に突撃しようという話になって私たちはいったん解散した。



 「う~ん。良く寝たってね。ああ、体がバキバキだ」

 ベットから足を下ろして腕を伸ばして体をほぐす。結構プレイした感じがするけれど実際の時間としてはあまり経過しているわけではない。それでもがちがちに体が固まっているため健康に良くない。これが揺籃型スキャナーの欠点だ。揺籃型スキャナーは特に深い眠りを引き起こすために体が寝返りを打つことなどないし、寝言なんてもってのほかだ。死んだように眠る、まるで親の腕の中にいるように安らかに眠ることから揺籃型と名付けられた催眠効果はだてではない。そのためにスキャナーの使用後は体が完全に固まってしまっているのもあって使用後のストレッチはほぼ必須となっている。

 「兄さん」

 伸びを繰り返しながら体をほぐしていると背中のほうから声がかけられた。有希(ゆき)だ。

 「どうしました?しっかりとストレッチしないと姿勢が悪くなるよ?」

 「いえ、特に何か用があるわけではないのですけど……」

 ふむ、さっきまでひとつ隣の部屋で一緒のゲームをプレイしていたんだ。なんだろう、さっきまで顔を突き合わせていたのにこのもやもやとする感じは……。ああ、そうか、私の見た目は終始リザードマンというぶっちゃけ人間やめた見た目だもんね。そりゃ違和感も出ますね。有希のちょっと不安そうな顔。生まれてから今まで見慣れた顔が全然違うというのは何かしらの不安を煽るのだろう。

 「有希……冷蔵庫にプリンあったと思うけど。一緒に食べる?」

 「……はい」

 こういう時は甘いもの。とりあえず甘いものを食べたらいいんだよ。別にゲームなんだ。気楽に考えればいいのさ。




 さぁ、セカオピに再ログイン。VRMMOをするにあたってクールタイムさえ取れば一日に何回までログイン可といった制限はない。十分に休息を取ったし、アバターのHPにMP、食事もとって回復薬も買い込んだ。ちょっと在庫が怪しくなり始めてた雰囲気だけどそこのところどうなんだろう。需要と供給に近いものが実装されているとパニックになりそうなんだよね。まぁ、「キラーバイト」がある私にはあまり関係ないのが事実。「キラーバイト」万歳である。

 さて、ロマの森である。当然、南側。さすがに東に特効をかます気はない。浅いところだと同じモンスターが多いみたいだけど深いところはまだ誰も行ってないからなぁ。大型生物が多いんじゃないかともっぱらの噂。

 二度目の森。油断はない。一度目の戦闘から「索敵」のレベルも上昇している。効果としては微々たるものだが、そこは終始警戒を行うことでカバーだ。前にコウショウ。真ん中私。後ろがテンカと藁人形の順で進む。なるべく、少ない個体を探していくとウルフ以外にも人の腰ぐらいまでの大きさのネズミ―森ネズミ―がいた。こいつは単独で行動しているのが普通だったが、ピンチになると仲間を呼び出すので短期決戦を強いられた。しかもネズミにしてはごつい腕をしていてかなりの攻撃力の持ち主であった。

 「気配遮断」を使用して可能な限り近づいたところから弱点めがけてアーツを使うと一撃で倒せるんだけどね。どうやら、人と同じ弱点のようです。胸のところに弱点があると反応がありましたからね。

 こうなるとネズミは二本足で立っているせいもあって、近づきさえできれば心臓を一突きにできますね。銛のダメージ倍率が高いことに救われています。ときどき二、三体で歩いているときもありますが、そのうちの一体でも始末できれば後はテンカとコウショウのおかげで難なく狩れました。

 さて、そんな感じでネズミ狩りをしていたら二十体ほど狩れたのですが、またうっかりウルフの群れと鉢合わせた。

 群れの数は4体。これはリベンジ戦とばかりに三人とも奮起していた。一回目では個人個人でウルフに対抗する羽目になったが、今回はそこについての対策を考えてきたのだ。

 油断なく武器を構える三人と牙を向くウルフ達。少しの沈黙の後、彼らは戦闘へと入る。

 まず、機先を制するためにコウショウの「注目」によってウルフ達は半ば強制的にコウショウへと引きつけられる。「注目」スキルで引きつけられたのは二体だけ。これは前回と同じ。違うのはここから。

 「前進!!攻撃のち防御!!」

 テンカの掛け声とともにピッと指示された指揮棒に従い、藁人形がコウショウへと張り付いているウルフに向かって突撃する。コウショウへとしつこい攻撃を加えていたウルフは藁人形の攻撃に気づき、距離を取ろうとするが、コウショウが瞬時に距離を詰め、手に付けた爪で傷を負わせる。もう一体のウルフの攻撃は藁人形を盾にすることで回避する。見たところ、初戦ほど苦戦する様子もない。二体のウルフが倒れるのも時間の問題だろう。藁人形をコウショウの援護に回しウルフと一対一になったテンカも危なげなく攻撃を躱している。比較的詠唱時間の短い「雷魔法」のアーツである【ショック】を用いて、ウルフの動きを鈍らせていく作戦のようだ。詠唱時間がある程度確保できるようなら「風魔法」のアーツである【エアシュート】で吹き飛ばす算段なのだろう。こちらもほどなくして決着がつくものと見えた。

 問題は私だろう。アーツでの一撃は躱されてしまうと隙が大きい。だから、ウルフの突進に合わせてのカウンターが最善と判断したのだが、前回はタイミングを外してしまい失敗した。今回はそこに注意していくべきだ。

 ウルフが私に向かって飛びかかってくる。冷静にタイミングを見計らって……アーツを発動。あ、おしい。脇腹のあたりに突き刺さった銛は相手の勢いを受けてぐさりと深くウルフに突き刺さる。ぎゃんという悲鳴とともにウルフが激しく暴れ、せっかく刺さった銛が抜けてしまう。返しがついてないと相手の引き抜かれますね。実際の銛では相手を突き刺したら逃げられないように岩へ押しつけるそうです。相手を固定することが出来なければ簡単に引き抜かれるのは銛の欠点と捉えてもいいのでしょうか。まぁ、返しがない分傷口がきれいになるのですけれど。

 先ほどの一撃はそれなりのダメージを相手に負わせたようで、ウルフの動きが目に見えて鈍くなりました。これくらい弱ったならこちらから攻めても大丈夫でしょう。アーツの発揮で崩れた構えを取り直しつつ相手へと腰だめに銛を構え、走り寄ります。普通の2mぐらいの槍ならこのように接近するのは愚策というものですけれど、1mぐらいの銛ですからね。取り回しは効きやすい方です。

 2度、3度と連続して突きを繰り出す。リザードマンはそこそこAGIの高い種族だけれど獣には劣る。何度かは躱されたけど次第に攻撃が当たるようになる。銛が何度も突き刺さって穴だらけになったウルフはその場に倒れ伏した。どうやら、仕留めたようだ。

 ふと二人の方を見るとコウショウは一体はすでに仕留めたらしく残った一体にも爪を突き刺し危なげなく仕留めていた。テンカは詠唱のためかあまり連続して攻撃できないようだが、相手はすでにふらふらとしている。【ショック】が相手に炸裂し、ウルフの体が倒れ伏す。

 一度目のウルフ戦と比べると格段に楽に狩れた。

 三人で顔を見合わせながら軽くガッツポーズを決める。

 「これ全部拾ってから、もう少しだけ狩をしようか」

 そこらに転がるウルフの死体を見やりながら言うと、二人は満足した顔で首肯し、インベントリへと詰めていった。

 この後、スタミナ値が切れるまで一時間ほど狩りをし、合計でウルフ10体。森ネズミ24体が今回の成果となった。

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