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「俺は種族は見ての通りワ-ウルフ。ジョブは剣闘士っていうやつにした。プレイヤーネームはコウショウだからいつもと同じ感覚で呼んでくれてもいいぞ」
「私は妖精族にしました。職業は人形遣いです。プレイヤーネームはテンカなのでゲーム内ではそう呼んでください」
何故有希が興味を一切示していなかった筈のセカオピの世界にいたのは私と一緒に同じゲームがしたかったそうだ。それで、私を吃驚させようとキャラメイクを済ませて待ち構えていたらよりにもよって誰とも区別がつかないようなリザードマンを選択し、更には自分のことをちらとでも見たはずなのに全く気付いてくれなかったからと拗ねてしまっていたのだ。
そんな可愛い有希にはそのアバター可愛いね、ととりあえず褒め殺しにすることで事なきを得た。そして今、三人でキャラ紹介を行っている。にしても、剣闘士とか人形遣いとか……僕の漁師って職業も大概だけど、このゲーム本当に色々な職業があるんだねぇと感心してしまう。とりあえず、二人の名前をうっかり言ってしまわない様に気を付けようかね。コウショウはともかく我が妹は目立ちそうな外見だから、変な虫がつかないようにしないと。
「ああ、私は見ての通りのリザードマンですよ。職業は漁師を選択しました。プレイヤーネームはネアですので今後とも良しなに」
「おおう。すごい微妙なキャラメイク……」
僕の職業を聞いた瞬間にコウショウがそんなことを言いながら苦笑いを浮かべた。テンカはコウショウの言っていることがあまり理解できていないらしく首を傾げている。
「何故故、微妙なのだ。はっきり言って安易にケモ耳に走ったお前に言われたくはないのだが」
「おい。ケモ耳は正義なんだぞ!!お前ケモ耳馬鹿にすんなよ!!」
それは心外な評価だね。
「私はケモ耳を選択したお前を安易だと笑っているのだよ。どうせなら子鬼吟遊詩人でスタートすれば良かったのに。」
「お前……。それ子鬼選択した奴に言ったら殺されるぞ……」
大丈夫。お前にしか言わないから。そう言うとコウショウの奴はがっくりと疲れたように項垂れる。
「あの……何故兄さんのキャラは微妙なのですか?」
そんな馬鹿話をしているとテンカがそう切り込んでくる。ああ、そうだったね。なぜ私のキャラは微妙なのか教えてほしい。どちらもそこまで残念なものではないはずだがね。
「いや、wikiとかネットの評判ではそうなってるんだよ。リザードマンはどちらかというと強い種族の部類に入るんだが何せ、見た目がトカゲだしな。種族スキルの評判もあまり良くなくてな」
リザードマンの種族スキルて言うと「索敵」と「キラーバイト」だな。どちらも効果は優秀なんだが。それのどこが不評なんだ?
「いや、スキル効果はどちらも優秀なんだが、「索敵」は良いとして「キラーバイト」の方がな……」
索敵なら職業でも簡単に手に入るしな、と呟くコウショウ。まぁ、「索敵」は一種の汎用スキルですからね。取得したいならキャラ選択の時に取得すればいいだけですし。でも、「キラーバイト」は固有スキルなんですよね。あとから取得できないスキル。その種族特有のスキルなんですが…。
「それのどこが悪いんだ。あれはスタミナ回復効果が付くスキルなんだ。弱いわけがないだろ。むしろ食事とかでスタミナ回復をしなくていいんだから効率プレイに持って来いだろうが」
「お前、もしかしてわかって言っているのか?「キラーバイト」の発動条件を言ってみろよ」
「キラーバイト」の発動条件?
「PCからのMOBへの咬みつきにダメージ倍率が乗って部位損傷かMOBの殺害に成功したときにスタミナ回復効果が乗るんだろ。知ってますよそのくらい。それがどうかしたのです?」
そう言うとコウショウはうむうむといった風情で首を上下する。
「じゃあ、これは知ってるか。そのスキルって咬みつき行動が発動条件の常在発揮型の種族スキルなんだが、これを発揮させるためには相手に直接咬みつく必要があるのはわかるな。ここからがこのスキルの問題なんだけどな。スタミナ回復効果発揮条件に相手の殺害もしくは部位損傷ってあるだろ。これってつまり、相手から食いちぎった部分を食ってるって事なんだわ、生で」
相手を食べる?生で?……まずそう。
「それがどうしたんです。確かに調理してないとあまりおいしくはないだろうけど。ああ……そうか。そこがダメなのか」
一瞬それがどうしたと考えてしまったが、よくよく考えると普通の都会人が相手を食いちぎることに忌避感を催すのは理解できる。だから、不人気か。私は別に大丈夫だと思うけどね。さすがに生は初めてだからちょっと躊躇位はするかもしれないけれどあの田舎で蛇やカエルの原形をとどめたままの料理とかは見慣れている。その証拠に話を横で聞いているテンカも血なまぐさい話を聞いても平然としている。これは完全都会育ちの人にはきついものなのかね。
コウショウに目を見やると彼は遠いところを見るように目の焦点がぼんやりとしていた。
「……お前はそういやそう言う奴だったな」
「?」
おいこら、それはどういう意味だよ。
「β版でそのスキルを使った奴の見た目がな、かなりやばかったらしい。ゴブリンが血まみれで死んでいる傍でその腕を口にくわえているリザードマンの姿を見てトラウマに成りかけた奴が続出とかなんとか。使った奴もなんかぐにゃっとして気持ち悪いとかでゲーゲー吐いたらしく、それ以来そのスキルを一切使わなくなったらしいしな」
「ふぅ~ん。大変だったんですねぇ」
「他人事のように言うなよ……お前の選んだ種族のスキルなんだぞ……」
「私と兄さんは田舎でよくゲテモノ料理のようなものを食べさせられていましたからね。血が飛び散る位は平気ですよ」
「この一件のせいで一切の出血表現が削除されたとまで言われる有名エピソードを良くそういう風に言えるよなお前ら……」
頭を抱えるようにそう呻くもふもふ。揺れる頭とぴこぴこ動くけもの耳。別にこいつがどうとは思わないけど獣人もよかったかもしれないね。まぁ、私の目的には微妙に合わないかもしれないから別に後悔はないけどね。
ふと、気になることが出来たのでコウショウに尋ねてみる。
「なぁ、リザードマンが不人気ってことはあれですか? 私はこれから先も同族に会う可能性は低いということか?」
私の質問を聞いて考え込むように腕を組むコウショウ。腕が胸の前に組まれたことによって毛むくじゃらの腕が強調される。
「……低いだろうな。似たような見た目でドラゴニュートとかが居るしなぁ。このエピソード聞いてるやつはドラゴニュートに鞍替えするだろうしな」
「ドラゴニュートか。……まぁ、そうでしょうねぇ。あれは飛べるんだっけね。羨ましい」
種族ドラゴニュートは種族スキルとして「飛行」を持っている。見た目はリザードマンにドラゴンみたいな翼が生えた感じでスタミナを消費することで空を飛ぶことが出来るらしい。自分の身一つで空を駆ることが出来ることを考えるとなにか男の夢ってやつを感じるよ。まぁ、別に私は飛べなくてもいいけど。
ちなみにスタミナっていうのはマスクデータの一種で行動の達成率に影響があるパラメータだ。たとえば、飛んでいるといってもスタミナが無くなるにつれて翼が思うように動かなくなるといった具合にかなり重要な位置を占めるパラメータなのだ。この値を回復するためには食事をしてこれまたマスクデータの満腹度を一定の状態に保ち時間を置いて回復するのを待つ必要がある。スキル「キラーバイト」はMOBと闘いながら、スタミナを回復することが出来るので上記条件を無視できる。そのためかなり効率的に狩りをすることが出来るスキルなのである。ただし、スプラッタな状態に自分が置かれることへの抵抗が無ければであるが。
「まぁな。そういやテンカちゃんの種族だって確か飛べたよな。「飛行」スキルあったはずだけどな」
「ええ、妖精族は「飛行」スキルとユニーク系スキルの「幻惑魔法」がありますね。今のところ、使える魔法としてフォグっていうのが一つですかね」
フォグ、霧って事かな?幻惑っていうより攪乱って気がするけどスキルレベルが上がればもっとできる魔法が増えるんだろうね。それにしてもユニーク系スキルか。飛行も幻惑魔法も一応ユニークスキルなんだよね。種族スキルとしてしか手に入る方が分らないスキルらしいし。
「そういや、ネアは漁師なんだっけなぁ……。武器はなんだ? って「銛打ち」スキルかよ。どっちもかなり不人気っちゃ不人気だよなぁ」
まぁ、普通剣士とかのほうが人気だしなぁ、そうぽつりとつぶやくコウショウ。おい、漁師も不人気なのかよ。まぁ、漁師のくせして「釣り」も「銛打ち」も手に入らないのはどうかとは思いますけどね。でも、弱点看破とかは優秀だと思うんだけどなぁ。不人気ってどこがだよとかみつく。
「う~ん。不人気って言えばそうなんだけどな。うまく説明できないんだよなぁ。なんていうか微妙って感じらしいんだよな」
微妙ってなんだ微妙って。
そのまま頭をひねり出したコウショウを恨みがましく睨んでいるとテンカがぽんと私の肩に手を置いて囁く。
「兄さん。とりあえず町の外に出て狩りをしてみましょう。どんなものも使ってみるまで分かりませんよ」
「まぁ、不人気って言うだけです。使ってみればまた違うのでしょう。おい、コウショウよ。唸っていないで早く行きましょうや。百聞は一見にしかず。時間は有限なのですよ?」
「……そうだな。すっかり話し込んじまった。俺も早くスキルの確認もしてみたい」
そう言ってあっさりと悩むことをやめるコウショウ。こいつは生来サッパリとした性格のおかげか気持ちの切り替えが早い。そこは素直に賞賛できる利点の一つだと思う。
「ああ、そうだ。βの時にはなかったんだがな。正規版になったからなのかどうか知らんが訓練場っていう施設ができたらしいぞ」
訓練場。そういやこのゲームを始めてから一度もチュートリアルが無かったな。チュートリアルは訓練場に行かないと受けられませんって感じかね。リアルというかなんというか。
「そんなものがあるのか」
「ああ、掲示板にさっそく情報が載ってたよ。操作パネルから書き込みもできるから見てみたらいいんじゃないか」
さっそく操作パネルを開くと「セカンドオピニオン限定掲示板」という項目が下のほうにあるのを見つけることが出来た。でも、コウショウにはすまないけど私はこういった掲示板をあまり見ないんだよね。
「それよりも訓練場に行かないのですか?ここで会ってから結構な時間が経っていますよ?」
「あ、ああ。さっさと行くか」
俺も前線組希望だしな、と走り始めるコウショウ。私は肩をすくめながら後ろを振り向くと同じように苦笑いをしているテンカと目が合いクスリと笑いあう。
「それじゃ、さっさと行きますか」
「ハイ。兄さん」
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