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アトライア;VRMMOにおける水棲生物の生態観察記  作者: 桔梗谷 
第一の節 トカゲ落ちる
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主人公やサブキャラクターの性格や文章がぶれているかもしれませんが、どうにかこうにかおさめようと思っています。なるべく違和感なく書き上げたいものですが、私の力量不足もあることをはじめに断わっておきます。

 「ふふふ、やった。やったよ。やりましたよ。遂に手に入れちゃったんだよ……」

 そう、呟きながらぐふぐふと笑う(あらた)。手に持った箱が腕の振るえを抑えきれずにふるふると震えている。もし今の彼の言動を見るものがいたならば十中八九気持ち悪いと評すであろう見た目である。

 どうにも嬉しさが零れ落ちているようでこの怪しげな笑い声が全く隠せていない。そして、そのことに気付いている様子もない。まったくもって怪しいが、ここは彼の自宅であり、笑い声を漏らしているのは彼の部屋であるために外にこの不気味極まりない笑い声は一切漏れていない。

 12月の第一土曜日。今日は待ちに待ったセカオピのサービス開始日だ。

 ああ、もう待ちきれない。

 セカンドオピニオンの開発が発表されたのは今から約6年ぐらい前。それから、ベータテストなどを細かく挟みながら今日へと至っている。私の目的はただ一つ。海へ行くことだ。

 私は海へ行ったことがない。旅行ですら、温泉やスキー、山といった内陸部の観光地ばかりで一度すら海へ行ったことがない。それなりに海に近い地方に住んでいるというのに。友人たちが海へ遊びに行っている時、私は家族とともに田舎へ帰省しているのが普通でした。皆が海で水着に着替えてきゃっきゃうふふしながら海の家でべちょべちょの焼きそばを食べているであろう時、私は田舎で蜂の子やイナゴを食べ、果ては田んぼのザリガニやカエルを食べるのです。いつの時代か!? 今は栄えある科学の時代!! なぜ故に一世紀近く昔の食生活をしているのか? と私は青々とした木葉を見ながら鬱々としていましたよ。

 別にゲテモノ食が嫌だったわけではなかったのだけれど。海から帰った後の友人の話を聞いて羨ましくなったことは何度あるか。海へ行きたいといってもなんだかんだで田舎へ行くことが決まり結局は行かずじまいになる。そして、一度も海へ行かずにこの年まで時を重ねた次第となる。

 友人の知り合いがダイバーだということもあって写真だけはいくらでもある。私はそれを見ながら、海の中から空を見るとどういった気分になるのだろうと、夢想することが多々ありました。

 その時です。このゲームの発表がされたのは。その時の私の頭の中に電流が走った。それもしびれるような雷鳴が鳴り響きました。

 そうだ。ゲームでなら海に行き放題だよ、と。我ながら何言っているのかわからないとは思ったが、その時のわたしはまだ小学生だ。微妙に変なことを言っていても気にしないでほしい。私も気にしていないから。

 つまり、ゲームでなら最高の海に行けるのではないかと考えたわけですね。当時のわたしは。

 どうせなら、これまでに無いようなものを味わってしまえと。それがセカンドオピニオンではないかと考えたわけです。幸いにもこのセカオピには海が存在しました。ワールドマップが公開されたときの興奮は忘れられない。それは一言でいうならば、一つの大きな大陸でした。学校の地理で習うこともあるか。そこに描かれていたのはかの超巨大大陸パンゲアだった。まぁ、実際に一つの大陸が地続きになっているわけではなくて海峡とかなんやらでおおざっぱではあるけれど分かたれた形状をしているし、実際のパンゲアの大きさよりかはかなり縮尺をいじってあるみたいだったけれど。

 なら、海があるじゃんとそう思い立った私はこのゲームの購入を心に決めたのです。


 そうして、今日がそのゲームの発売日なのだ。親へと頼み込み、無理を言って買ってもらった。とはいっても約束を取り付けたのは6年前だけれど。

 

 さっさとキャラメイクして海へ行こう。そうしましょう。

 そう決意している私はすぐにPCを立ち上げ、起動させる。セカオピスタートパックの箱に入っていたのは脳波スキャナーとゲームのデータディスクだ。データディスクをPCに読み込ませて、セカオピのデータをインストールする。インストールが終わったのを確認したのと同時にベットに潜り込みながら脳波スキャナーを頭にセットする。これであとはスキャナーの電源を入れることによりゲームの起動が出来る。

 このスキャナーの仕様は揺籃型と呼ばれるタイプで、使用者を一種の催眠状態にする、というかゲームをしている夢が見れるというか…原理はともかくそういったものだと思ってほしい。

 揺籃型の特徴はゲーム起動から十分程度で使用者が眠ってしまうというものだ。周りにお気をつけ下さいというのが、揺籃型の注意モニターだったと思う。

 電源を入れながらすぅーと息を鋭く深呼吸する。気分を落ち着けないと起動まで時間がかかるし、ゲーム酔いがひどくなるらしい。

 これも揺籃型の特徴である程度の興奮状態に入っていると催眠状態への移行がスムーズにいかないことがあるらしい。これは大樹型ならば問題はないらしいのだけれどそれはまだ、人体への影響がどうたらこうたらで実用化には至っていない。

 深呼吸を何度か繰り返していると、徐々に体が重くなっていき、私は意識を手放した。


 『キャラメイクを始めます。目の前のパネルをタッチして名前を決めてください』

 ふと、そんな声が聞こえて目を覚ますと自分は辺り一面乳白色の空間でふよふよと漂っていた。

 辺りをきょろきょろと見回しても先ほど聞こえてきた声の主はどこにもいない。これはいわゆる天の声というものだろうか。

 ふと見ると目の前にパネルがあった。おそらくこれがメイキングに使われるパネルだろう。……ええと。名前は何にしようかで迷っていたのですよ。別に本名でやっても問題はないのだけれど、いかにも日本人という名前でこのゲームをやるのには抵抗がある。和風な職があるそうだからそういったジョブを選ぶ場合は本名とかのほうが良いかもしれないけれど。

 『ネア』

 さんざん迷った末にネアと名付けた。いや、前から決めてはいたのだけれどいざ入力をするとなって少し緊張してしまったようだ。名前入力に時間がかかってしまった。ネアというのはたかみねの「ね」とあらたの「あ」を組み合わせただけの安直なものだ。分かりやすさが大事だと思うよ私は。ちなみに名前かぶりまでぐらいならこのゲームでは許される。ジョブとか種族とかが丸被りするとシステム上は問題がないらしいけれど、プレイしていくうえで面倒なことが起きるかもしれないと警告はされている。

 『プレイヤーネーム“ネア”でよろしいですか?』

 天の声とともに承認のボタンが出てきたのでyesを選択する。

 『承認されました。次に種族を決めてください』

 次に現れたパネルを見て流石に多いね、と思った。職業ほどの数はないとはいえ20個ぐらいはありますね。ジョブの選択次第では組み合わせは万行くんじゃないでしょうかこれ。まぁ、ベータ版wikiをみて何の種族にするのかは決めていたのでそれに決めることにします。

 『種族:リザードマン、が選択されました。それでよろしいですか?』

 出てきたメッセージパネルをすかさずタッチして承認する。

 『承認されました。次は職業を決めてください』

 次に現れたパネルはさらにすごい数だった。二桁は確実に超えていますねこれは。いくつあるのか数えるのも面倒になるくらいある。この数はすごいとしか言いようがない。

 これも前もって決めていたためにパネルを適当にスクロールしながらジョブを眺めつつ、お目当てのジョブを探す。

 「おお、あったあった。ありました。危うく見逃すかと思いましたね」

 『職業:漁師、が選択されました。それでよろしいですか?』

 これもすかさずに承認する。ぽんというアナウンス音が鳴り、私の選択した名前と種族と職業が承認されたことを告げる。被りは特になかっらようだ。

 サクサクと決まって私の起源は急浮上しそうだ。事前にどんなジョブがあるのか、調べていた私に死角はないよ。これで夢のリゾート生活が出来そうだね。海!!海!!

 『種族と職業が決まりましたのでスキルと職業スキルが自動的に選択されました。固定スキルとして「索敵」、「キラーバイト」、職業スキルとして「潜水」、「水泳」、「弱点看破」、「特効ブースト」を入手しました。自由スキルとして5つまでスキルが自由に選ぶことが出来ます。5つスキルを選択してください』

 固有スキルというのはリザードマン特有のスキルだ。固有スキルの例としてはヴァンパイアの「飛行」とか、エルフの「精霊魔法」とかがある。大体、種族の固有スキルは二つぐらいかな。三つとか四つある種族もあるみたいですけれどそれも一部だけだ。

 職業スキルっていうのはその職業に固有のスキル。そんな感じでその職業を選んだ時に自動的につくスキルのこと。別に職業ごとに武器が固定されるような仕様はないけれど、職業スキルは必ず取ることになるのです。まぁ、それは種族スキルにも言えるんだけれど。私の選んだ「漁師」は職業スキルが四つ。水中での活動時間に補正のかかる「潜水」に水中での活動に補正がかかる「水泳」に相手の弱点部位がわかる「弱点看破」に弱点への攻撃時のダメージ倍率の上昇が得られる「特効ブースト」だ。普通のジョブは2つとか3つとかだったりすることが多いらしいみたいで4つもスキルが固定でもらえる「漁師」はある意味で優遇されているのかもね。まぁ、ふたを開けてみたらなんとやらってこともあるからあまり浮かれてばかりはいられないけど。

 自由スキルっていうのはどんな人でも5つまで好きなスキルが選べるそうです。ただ、パネルにないようなユニーク系のスキルとかはやっぱり選べないようで。まぁ、あったところで私には見分けがつかなさそうだけどね。

 自由スキルとして何を選ぶかはもう決めているためにちゃちゃっと終わらせることにします。

 自由スキルとして取得したのは「鑑定」、「気配遮断」、「銛打ち」、「遠視」、「水魔法」の五つだ。汎用性のある「鑑定」は言わずもがな「銛打ち」と「気配遮断」は魚とかを取るために必要かなって思いまして。釣るという考えもあったのだけれど、せっかくゲームの世界なんだから銛で狩猟するほうが良いんじゃないかって思ったというのと一応「銛打ち」は攻撃スキルでもあるっていうのが理由。「遠視」は海の中でも獲物が見つけやすいように。「水魔法」についてはある意味興味本位といったところ。リザードマンってその種族ステータスのおかげか魔法がそこそこ使えるんだよね。魔法の種類が水なのは海の中で使うのだから水魔法のほうが良いのじゃないかっていう安直な考えだ。正直、この組み合わせが強いとか、効率的とかそういったことは全く考えていない。そもそもそれなら種族決定とか職業決定の時点でもっと悩んでいる。ちなみにこの段階で攻撃系スキルを選んでいない場合は自動的に徒手空拳スタイルが確定される。なぜなら、ゲーム開始時にスキルと種族に沿った武器が進呈されるからだ。

 リザードマン。能力は竜人とドラゴニュートの合いの子のようなものである。能力はHP TP STR TEC MIN VIT AGI DEX LUCの9つがあり、LUC以外の数値は種族ごとによって決まっている。LUCだけは規定値からの±αランダム補正となっている。例として能力値をABC五段階で表すならば、


 種族:竜人

 HP:A

 MP:E

 STR:A

 VIT:B

 TEC:D

 MIN:C

 AGI:D

 DEX:D

 固有スキル:「竜化」etc...


 といったところで、前衛戦士やタンカーなどに向いた種族となっている。反面、動きが鈍く大雑把なのとMPが最低ランクなので魔法職にできるほどに魔法が使えないという欠点がある。固有スキルは「竜化」が有名であり、その高い殲滅力は魔法職に比肩するとされる。

 といったことが種族説明としてステータスとともにキャラメイク時に説明されるのだが、新は全く説明を聞くことなくキャラメイクを行ったので事前に確認していたリザードマンについてのステータスぐらいしか知識として知らない。さらに付け加えるならば、これらの説明が行われるのはキャラメイク時だけなのでこれ以降種族特性について説明を受ける機会は基本的に無い。そんな状態からスタートすることが決まってしまったが、新はどうせネットで公表されるだろうと気にも留めていなかった。

 ちなみにリザードマンのステータスは


 種族:リザードマン

 HP:B

 MP:D

 STR:B

 VIT:A

 TEC:D

 MIN:C

 AGI:C

 DEX:C

 と表示される。

 

 リザードマンは爬虫類然とした見た目の亜人種の一種だ。私がこれを選んだ理由はただの思い込み。リザードマンって水場に多くいそうだねってだけの印象で決めた。ぶっちゃけ、ベータ版のwikiは見たけれど、大雑把にしか見る気はなかったからこの種族がどのような特性を持っているは軽くしか知らない。どうせ、ベータと正規版では変更点が多いだろうし、wikiの情報を鵜呑みにしてキャラを決める予定はなかった。リアルさを求めた結果の種族ごとの差異など私の目的に沿うのならば気にするべくもない。そもそも私としては日陰者みたくせせこましく攻略組の後ろでプレイする予定だからだ。私の友人はこのゲームの攻略組狙いだそうでかなり気合の入ったキャラメイクをするようだが、果たしてどうなるのやら。初めのスキルのレベル上げくらいは手伝ってくれると有難いのだけれど。

 

 『スキルの選択が終了しました。それでよろしい場合は承認をしてください』

 承認のパネルをタッチし終えるとヒュッとした擦過音のようなものとともに光がさし、自分の前にいきなりトカゲみたいな生き物が現れた。丸みを帯びたような体つきでありながら流線型を保つ肢体に加え、まんま爬虫類といった顔を持つ二足歩行で鎧のような鱗に覆われているトカゲ。尻尾がゆらゆらたしーんたしーん。みんなご存じリザードマンだ。というか、コレ自分ですかね?

 『アバターに対しての詳細設定が決まりました。これから、容姿設定に移ります。現在あなたの前に存在しているアバターはスキャンしたあなたの容姿に加え、種族的特徴を加えたものとなります。容姿設定にて変更が出来ないものは身長、体重、性別となります。ほかの要素につきましてはプレイヤーの自由意思が反映されるようになっているため、自由に変更が聞きます。ただし、種族的特徴に関しての変更は聞きませんので予めご了承ください。もし、これまでの設定を変更される場合にはパネルにあります設定変更の欄をタッチしてください』

 おお、まんまトカゲですよ。容姿の変更のしようがないですよ、これ。エルフとか、人間とかだったらある程度自由にいじれるんですけれど。ちなみにドワーフの場合は身長そのままに筋肉ダルマになることが確認されている。なんだよそれ、ドワーフって小さいんじゃないのかよとも思ったが、下手に身長をいじると現実との差異が激しくなって精神に影響をきたすとされているためにそこは変更が許されていない。性別についても同様の理由があるために変更が聞かなくなっている。ただし、性同一性障害者の場合は別で医師の診断書を提示することにより性別の変更が出来るようになっている。

 精神への影響というのはVRMMOにおける検証課題のひとつであり、自己認識とずれる容姿を設定した場合の精神負担を図ることが実はこのゲームに課せられた課題の一つであるが、それは(あらた)のみならず、プレイヤー自身も知るところではない。一応脳波スキャンによる健康維持と揺籃型による精神埋没治療も研究されているので最悪の事態が起こる可能性は低いとされている。

 

 閑話休題。

 結局、新は容姿の変更に関して体表の色を緑っぽい黒色から青みがかった黒色に変更することと眼の白目の部分の色を金色に変更することでほとんど容姿をいじらないことにした。

 『アバターの容姿設定が完了しました。これで問題がないと判断されるならば承認をしてください。変更なさる場合には詳細設定を選択してください』

 天の声とともに、目の前にパネルが現れる。そわそわと落ち着かなくなってくる。心臓の鼓動が早くなってきているのが自分でもわかる。パネルの右上に時計があるのが見える。12時過ぎてるねぇ。もう早い人はゲーム始めちゃってるかな。そんなにゆっくりとキャラメイクした記憶はないけれど。まぁ、楽しいと時間が過ぎるのは早く感じますしね。

 ちなみに彼のキャラメイクが遅かったのではなく、このキャラメイク時は時間の遅延設定がなされていないために現実と同じ時間の経過がされているからである。

 「勿論。承認ですよ!!」

 『承認されました。これより、セカンドオピニオンが開始されます。第二の世界で新たな価値観を』

 天の声がゲームの開始を告げる。辺りが少しずつ光を発していき目を開けていられなくなる。

 いよいよ、ゲームスタートですか?……ちょっとテンション上がり過ぎてるかもしれない。叫びたくてたまらない。

 「イィィィィヤッホォォゥ!!??!?!?さぁ、海水浴の始まりだぜぇ!!!」

 

 辺りが光に包まれ、瞑った目蓋から瞳にも光がまろびでる。そして、いよいよ光に耐えられなくなり……。

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